リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

大学・研究所にある論文を検索できる 「中高齢者における座位行動が動脈圧受容器反射感受性に及ぼす影響」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

コピーが完了しました

URLをコピーしました

論文の公開元へ論文の公開元へ
書き出し

中高齢者における座位行動が動脈圧受容器反射感受性に及ぼす影響

森, 翔也 筑波大学

2023.09.04

概要

〔博士論文要約〕

中高齢者における座位行動が動脈圧受容器反射感受性に及ぼす影響

令和 4 年度
森 翔也

筑波大学大学院人間総合科学学術院
スポーツ医学学位プログラム

要約
座位行動は「座位,半臥位,または仰臥位の状態で行われるエネルギー消費量が 1.5 メッ
ツ以下のすべての覚醒行動」と定義される.座位行動に費やす時間(座位行動時間)は人間
社会の技術発展と共に増加傾向にあり,現在は覚醒時間の約 50%を占めている.そして,日
常生活中の座位行動時間が長い人ほど心血管疾患リスクが高いことが示されており,重要
なことに,この関連性は中高強度身体活動時間とは独立して確認される.これらの報告をも
とに,長時間の座位行動は運動習慣とは独立した心血管疾患リスク因子として認められ,現
在の座位行動・身体活動ガイドラインでは疾患予防のために座位行動を減らす必要がある
と提言している.しかし,アメリカ心臓協会は,長時間の座位行動が心血管疾患リスク上昇
に寄与する生理学的メカニズムは十分に解明されておらず,科学的根拠に基づいた提言を
するために更なる研究が必要と指摘する.
心血管疾患リスクを反映する指標のひとつに,心臓迷走神経から出力される動脈圧受容
器反射感受性(Cardiovagal baroreflex sensitivity; BRS)が挙げられる.動脈圧受容器反射は,
自律神経系を介して血圧を一定に制御する機能である.頸動脈洞と大動脈弓に在る圧受容
器が血圧変化を感知し,延髄の血管運動中枢へフィードバック信号を伝達する.そして,血
管運動中枢から心臓迷走神経または血管交感神経を通して信号を送り,心拍数と末梢血管
抵抗を調節することで,血圧を一定に維持する.一連のフィードバック制御は数秒から数十
秒の短時間で行われ,この動脈圧受容器反射により全身の血液循環の恒常性が保たれる.動
脈圧受容器反射は,姿勢変化,食事,運動等による著しい血圧変化時に限らず,日常生活の
中で常に機能している.BRS は動脈圧受容器反射の機序に基づき,収縮期血圧の変化に対
する心拍間隔の応答度合いを定量して評価され,心臓迷走神経を通して出力される動脈圧
受容器反射の機能を反映する指標である.BRS の低下は心臓突然死や起立性低血圧,脳卒
中のリスク上昇と関連し,本邦の「心臓突然死の予知と予防法のガイドライン」では,BRS
は心臓突然死の予測に有用と定めている.
これまでに長時間の座位行動は,糖と脂質の代謝動態の悪化に加え,下肢の血管内皮機能
低下,血圧上昇,脳血流速度の低下など,血液循環動態にも悪影響を及ぼすことが示されて
いる.このように,長時間の座位行動は血液循環の恒常性に影響を及ぼすことから,血圧を
制御する動脈圧受容器反射も同様に,長時間の座位行動により悪影響を被る可能性が想定
される.本研究は加齢に伴い心血管疾患リスクが上昇する中高齢者を対象に,
「日常生活中
の座位行動時間が長い中高齢者は BRS が低値を示す.さらに,日常生活中の座位行動時間
が増加すると,中高齢者の BRS は低下する」と仮説を立て,座位行動が BRS に及ぼす影響
を明らかにすることを目的とした.そして,3 つの研究課題を実施した.
【研究課題Ⅰ】動脈圧受容器反射感受性の加齢性変化の探索的調査
加齢に伴い BRS は低下することが認識されている.しかし,日常生活環境に近い生理的

条件下で BRS を包括的に測定し,BRS の加齢性変化を調査した研究は不十分である.そこ
で研究課題Ⅰは健康な一般成人を対象に,仰臥位安静,座位安静,座位と立位の姿勢変化
(Sit-stand maneuver; SSM)の生理的条件下で測定された BRS の加齢性変化を調査した.そ
の結果,1) 体勢や姿勢変化の有無にかかわらず BRS は加齢に伴い低下すること,2) SSM 中
の BRS が最も加齢性の低下が顕著であること,の 2 点を明らかにした.BRS の低下が心血
管疾患リスク上昇に寄与することから,老化が進行した集団を対象に,日常生活中の座位行
動時間と BRS の関連性を明らかにすることが求められる.
【研究課題Ⅱ】日常生活中の座位行動時間と動脈圧受容器反射感受性の関連性
日常生活中の座位行動時間と BRS の関連性の調査は十分に明らかにされていない.そこ
で研究課題Ⅱは,中高齢者が多数を占める集団を対象に,日常生活中の座位行動時間と BRS
の関連性を横断研究の実験デザインにて調査した.その結果,日常生活中の座位行動時間が
長い人は BRS が低値を示すことを初めて明らかにした.注目すべきことに,この負の関連
性は,BRS 低下と関連する血圧,心拍数,中心動脈伸展性,血糖値,血中脂質指標や,中高
強度身体活動時間を調整した上でも確認された.以上の結果から,中高強度身体活動時間や
従来報告されている BRS 低下因子とは独立して,長時間の座位行動は動脈圧受容器反射の
機能を低下させる可能性が示唆された.研究課題Ⅱの結果は筆者の研究仮説を一部支持す
るが,横断研究の実験デザインで調査したため,因果関係に言及することは難しい.
【研究課題Ⅲ】中高齢者における中高強度身体活動増加と座位行動減少を伴う行動変容介
入が動脈圧受容器反射感受性に及ぼす影響
研究課題Ⅲは,45 歳以上の中高齢者を対象に,日常生活中の中高強度身体活動を増やす
行動変容介入により間接的に座位行動時間を削減し,1) 行動変容介入が BRS に及ぼす影響,
2) 介入に伴う座位行動時間の変化が BRS の変化を規定するか否をランダム化比較試験の
実験デザインで調査した.介入による BRS の有意な改善効果は確認されなかったが,副次
解析の結果,介入期間中に座位行動時間が増えた人は座位安静時の BRS が低下することが
示された.この結果は研究課題Ⅱの結果と一致し,日常生活中の座位行動時間の増加が動脈
圧受容器反射の機能低下に寄与するという仮説を支持するものである.高強度の有酸素性
運動介入を実施することで中高齢者の BRS 改善を試みた研究が数多く報告されるなか,研
究課題Ⅲの新規性は,日常生活中の行動変容を促したうえで,中高強度身体活動時間や座位
行動時間の変化を定量し,BRS との関連性を明らかにした点である.研究課題Ⅲの結果か
ら,高強度身体活動の不足だけでなく,日常生活中の座位行動の増加が BRS 低下に寄与す
ることが示された.
【総合討論】
これまでに座位行動が心血管系に及ぼす悪影響として,血圧上昇,下肢の血管内皮機能低

下,糖・脂質代謝動態の悪化が報告されており,座位行動は血管や糖・脂質指標に悪影響を
及ぼすことで,CVD リスク上昇に寄与すると考えられてきた.一方で筆者は,1) 座位行動
は血液循環の恒常性に悪影響を及ぼす(血圧上昇等)可能性が示されていること,2) 長時
間の座位行動と関連する血圧上昇や糖・脂質代謝動態の悪化は BRS 低下因子でもあること,
以上の 2 点を根拠に,長時間の座位行動は血圧を制御する動脈圧受容器反射にも悪影響を
及ぼす可能性があると考え,研究課題を 3 つ設定した.
3 つの研究課題の結果を総合的にふまえ,本研究により,日常生活中の長時間の座位行動
は動脈圧受容器反射の機能を低下させる可能性が示されたと考える.BRS の低下は心臓突
然死や起立性低血圧,脳卒中のリスク上昇と関連し,CVD リスク評価に有用と認められて
いることをふまえると,本研究成果は長時間の座位行動が CVD リスク上昇に寄与するメカ
ニズムの一部解明に貢献したと考える.日常生活中の座位行動時間は,人間社会の技術進歩
に伴う生活・仕事環境の機械化・自動化に伴い年々増加し,この座位行動時間の変遷は,ヒ
トの心血管指標の悪化(血圧の上昇,血管内皮機能の低下,脳血流の低下,動脈圧受容器反
射機能の低下)に加担している可能性がある.この座位行動にまつわる健康課題に対して,
現在の国際的な身体活動・座位行動ガイドラインは,健康増進のために,座位行動時間を低
強度もしくは中高強度身体活動時間に置き換える必要性を提言している.本研究成果は生
理学的メカニズムの観点から,ガイドラインの提言を支持するものである.
【結論】
座位行動が CVD リスクを上昇させる機序の一部を明らかにするために,本研究は動脈圧
受容器反射に着目し,
「日常生活中の座位行動時間が長い中高齢者は BRS が低値を示す.さ
らに,日常生活中の座位行動時間が増加すると,中高齢者の BRS は低下する」という仮説
を検証した.観察研究により,日常生活中の座位行動時間が長いと,仰臥位安静,座位安静,
SSM の条件で測定された BRS が低値を示すことが明らかにされた.中高齢者を対象にした
2 カ月の介入研究では,日常生活中の中高強度身体活動時間の増加と座位行動時間の削減に
成功したが,BRS 改善には至らなかった.しかし,介入期間中に日常生活中の座位行動時間
が増加する中高齢者は,BRS が低下することが明らかにされた.
本研究で得られた一連の知見は,長時間の座位行動は BRS を低下させるという見解を支
持している.本研究により,中高齢者において,日常生活中の長時間の座位行動は BRS を
低下させることが新たに示された.

...

全国の大学の
卒論・修論・学位論文

一発検索!

この論文の関連論文を見る