Ultrafast Diagnostics for Relativistic Laser-Plasma Interaction
概要
レーザープラズマ実験は、宇宙物理を理解する新たな手法となっている。レーザー生成プラズマを用いて、宇宙物理の素過程を実験室で研究することができる。特に申請者の研究グループでは宇宙線加速機構の有力候補である無衝突ワイベル衝撃波の研究を行っている。先行研究では、長パルス(ナノ秒)高出力レーザーを用いて無衝突ワイベル衝撃波に特有なフィラメント構造と衝撃波の上流と下流の電子温度と密度,および非熱的な電子エネルギースペクトルが計測された。しかし、長パルスレーザーは、イオン加速に十分なレーザー強度を有しておらず、宇宙線(主にイオン)加速の実験的検証における問題となっている。
上記の課題を解決するため、相対論的短パルス(サブピコ秒)高強度レーザーを無衝突ワイベル衝撃波実験に用いる。これに対する粒子シミュレーションの結果は、レーザープラズマ相互作用で生成された高速電子が、バルクプラズマ内部にリターンカレントを誘起することが示された。この対向電子流(高速電子とリターンカレント)がワイベル不安定性を励起し衝撃波を生成する。実際のプラズマダイナミクスを理解するには、サブピコ秒の超高速計測法を開発することが不可欠である。ワイベルフィラメント構造と時間分解された荷電粒子エネルギースペクトルを取得するために、Small-Angle X-ray Scattering(SAXS)とElectro-Optic(EO)サンプリング法を開発した。前者は小さな散乱角での回折であり、後者は電場の情報(電場強度と時間発展)を非線形結晶を介してレーザーパルスの偏光情報に変換する。X-ray Free-Electron Laser(XFEL)を用いたSAXS計測は、ナノメートル・フェムト秒の時空間分解能でワイベルフィラメントの成長を計測するうえで有望である。荷電粒子エネルギースペクトロメーターのセットアップにおいて、加速された荷電粒子の検出器にEOサンプリング法を適用することでサブピコ秒の分解能でエネルギースペクトルの時間発展を取得可能である。これらの超高速計測は用途が広く、相対論的レーザー実験を行うための計測プラットフォームになりうる。
申請者らはSACLA(日本のXFEL)を用いてSAXS計測を開発し、高強度短パルスレーザーとXFELを用いたポンププローブ実験を実施した。三次元的な構造を持つレーザー生成プラズマに対するSAXSの性能評価として、Weibelフィラメントを模擬したシリコンワイヤー集合体をターゲットとして用いた。高強度短パルスレーザーを照射することでワイヤーを電離し、膨張する柱状プラズマの時間発展を取得した。また、高強度の入射XFELビームを遮光するために計測機の前面に設置されるビームストップの代わりに、XFELビームプロファイルを選択的に減衰させる積層型金属フィルターシステムを開発した。これにより、Weibelフィラメントなどの微細な(ナノスケールの)プラズマ構造に関する情報を含む入射XFELビーム周辺のSAXS信号が取得可能となった。
申請者はエシェロンミラーを用いたシングルショットEOサンプリング法によって相対論的電子ビーム周囲の電場の時空間分布の計測に成功した。エシェロンミラーは階段状のミラー表面を持ち、入射したプローブパルスは反射後に段差に応じた遅延を伴って複数のビーム群に分割され、これらを空間的に分別することで時間測定が可能になる。この技術は、時間分解式荷電粒子エネルギースペクトロメーターへ応用が可能である。得られた電場時空間分布は、ビーム伝搬方向の電場収縮を示し、電磁ポテンシャルのローレンツ変換の実証に成功した。
これらの基礎研究によって、ワイベル衝撃波の生成過程を相対論的レーザーを用いた地上実験によって検証するためのナノスケール、サブピコ秒の計測手法の開発の目処がたった。