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Study on the current status of pediatric drug development and its improvement measures in Japan

上山 英二 北里大学

2021.07.20

概要

【背景・目的】
小児への使用が想定される医薬品は、小児集団における安全性と有効性が適に検討された上で、医療現場において使用されることが求められる。しかし、小児での薬物治療は、成人用に設計・開発された医薬品を減量して用いる等、十分なエビデンスがないままに行われている実態がある。欧米では小児医薬品開発の促進を意図し、各々が小児開発を義務付ける法律を制定した結果、小児適応を有する新薬の承認数が増加する等のプラスの効果を得ることに成功している。一方、日本では小児医薬品の開発を義務付ける法律はないが、「医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議」(以下、「検討会議)の設立(2010年)など、開発促進のための種々の施策が取られてきた。

医薬品は、理想的には世界中のすべての患者にタイムリーに届けられるべきである。しかし、現実には、ある特定の地域にて先に許認可が得られ、その後、何年もして他の地域で許認可が得られるといったドラッグラグが存在する。日本では、特に 21 世紀になって以来、ドラッグラグは重大な課題として認識されている。2007 年には、ドラッグラグ解消のためには国際共同治験を推進する必要があるとの認識のもと、その実施に当たっての基本的考え方が厚生労働省から示されている。

本研究は、採算性が低く製薬企業が積極的でない小児医薬品開発において、「日本の小児患者に必要な医薬品が適かつ遅延なく届けられているか?遅延があるとすればどのような薬剤で、その解決のための方策はあるか?」をリサーチクエスチョンとし、早期開発段階から小児での臨床開発計画の検討が義務づけられている欧州を対照に日本での小児用医薬品開発の現状を分析し、改善策の検討を行った。研究 (1)では、日本及び欧州における小児適応取得薬剤の比較分析を行い、日本での小児医薬品開発上の課題、改善すべき点を明らかにすることを目的とした。研究(2)では、研究(1)で得た近年の日本での小児適応取得薬剤の多くが欧州ですでに小児適応を取得している薬剤であるとの知見から、日本と欧州の間での小児適応取得のタイムラグ情報に基づいて、日本での小児医薬品開発上の課題を明らかにし、改善すべき点を提示することを目的とした。これまで、日本の小児医薬品開発の状況については、臨床試験数を用いた日米欧間での比較研究の結果が報告されているが、小児適応を取得した薬剤とその特徴から小児医薬品開発の現況及び課題を分析した研究はない。

【方法】
(1) 日本及び欧州における小児適応取得薬剤の比較分析
2007 年から 2015 年に欧州(European Medicines Agency: EMA)及び日本それぞれで小児適応を取得した薬剤を対象とした。欧州では EMA 10-year Report to the European Commission(2017 年 8 月)にリストされた小児適応取得薬剤を、日本では PMDA ホームページの新薬承認品目にリストされ、添付文書において小児に対して使用可能であることが明示されている薬剤を小児適応取得薬剤として抽出した。

欧州及び日本それぞれでの小児適応取得薬剤について、治療対象疾病(成人及び小児を対象、小児のみを対象)、承認形態(新有効成分、それ以外)、小児用製剤の開発、薬効分類[WHO Anatomical Therapeutic Chemical (ATC)]、相手国(地域)での小児適応取得状況、成人適応取得から小児適応取得に要した期間について調査し、両国(地域)間の比較検討を行った。また、日本での小児適応取得薬剤については検討会議からの要請の有無を集計した。
日欧間での小児適応取得薬剤の特徴の比較には、Fisher's exact test を用いた。

(2) 日本と欧州の間での小児適応取得のタイムラグ及びそれに影響を与える因子の分析
2007 年から 2018 年に日本で小児適応を取得した薬剤を対象とし、研究(1)と同様の方法で薬剤を抽出した。
抽出した薬剤について、薬効分類 (WHO ATC)、小児用製剤の開発、検討会議からの開発要請、オーファンドラッグ定、企業タイプ(内資/外資)、海外臨床試験データの利用、国際共同試験の実施などの状況を調査した。次いで、各薬剤のうち欧州(EMA)でも承認されている薬剤について、欧州での小児適応の取得状況を調査し、日本と欧州の間での小児適応取得のタイムラグを算出した上で、タイムラグに影響を与える因子の検討を行った。
タイムラグに影響を与える因子の検討では、Mann-Whitney U test を用いた。

【結果】
(1) 日本及び欧州における小児適応取得薬剤の比較分析
研究対象期間中に小児適応を取得した薬剤の合計は、欧州 135、日本 208 であった。成人及び小児を対象とする疾患の治療薬の割合は欧州、日本とも 90%以上を占めた。新有効成分の割合は、日本(32.7%)に比べ欧州(44.4%)で有意に高く、小児用製剤開発ありの割合は、日本(9.6%)に比べ欧州(23.0%)で有意に高かった。日本で検討会議からの要請に基づいて小児適応を取得した薬剤は、2011 年以降の小児適応取得品全体の約 40%を占めた。日本では 2011 年以降小児適応取得薬剤数が増加したが、この増加数は検討会議からの要請に基づき開発された薬剤の数と概ね一致した。
欧州小児適応取得品における日本での小児適応取得状況は、「神経系薬」(カテゴリーN)及び「全身用抗感染薬」(J)、小児用製剤開発ありの薬剤で 50%以下であった(表1)。一方、日本小児適応取得品における欧州での小児適応取得率(n=2 以上)は 75%以上であり、小児用製剤開発の有無では顕著な差はなかった(表2)。
成人での効能取得から小児適応取得までの期間は、欧州(EMA)小児適応取得薬剤 112 品目のうち 79%の薬剤は小児適応を成人と同時期に取得しており、残りの薬剤では、成人適応取得から小児適応取得までの期間が 3-6 年に該当する薬剤が最も多く(9%)、次いで 6-9 年、9-12 年が同程度多く存在した。一方、日本での小児適応取得薬剤 189 製品のうち 77%は小児適応を成人と同時期に取得していたが、残りの薬剤では、成人適応取得から小児適応取得までの期間が 12 年を超えた薬剤が最も多く(7%)、次いで 9-12年が多かった。


(2) 日本と欧州の間での小児適応取得のタイムラグ及びそれに影響を与える因子の分析
日本での小児適応取得薬剤のうち、欧州(EMA)でも同一効能での許認可を得ている薬剤は 108 品目であり、そのうち小児適応を取得した薬剤は 105 品目であった。
小児適応取得薬剤における日本と欧州の間でのタイムラグを表3に示した。検討会議からの要請なしの薬剤でのタイムラグは、ありの場合に比較し有意に短かった。また、検討会議からの要請なしの薬剤でのタイムラグは、近年になるほど短縮した(図1)。
検討会議からの要請なしの薬剤における薬効分類(ATC)別のタイムラグ(n=4 以上)は、カテゴリーA(消化管と代謝作用)及び B(血液と造血器官)の薬剤で短かった(A:269 日、B:140 日)。承認時期別のタイムラグの検討の結果、カテゴリーB の薬剤は 2011 年以降、L(抗悪性腫瘍薬と免疫調節薬)の薬剤は 2015 年以降に大きくタイムラグが改善し、半年未満となった。
タイムラグに影響を与える因子の検討では、国際共同試験ありの場合のタイムラグ(140 日)は、なしの場合(1235 日)に比較し有意に短かった。国際共同試験が実施された薬剤 27 品目のATC 分類及び承認時期を調査したところ、カテゴリーB(血液と造血器官)の薬剤で国際共同試験実施の割合(76%)が高かった。また、全体として 2014 年から国際共同試験を用いた承認が増え、以降その数はほぼ一定であった。

【考察】
(1) 日本及び欧州での小児適応取得薬剤を比較分析した結果、その薬剤数は欧州に比較し日本で多かったが、日本での小児適応取得薬剤の多くは、欧州ですでに小児適応を取得している薬剤であった。2011 年以降の日本での承認品目数の増加から、日本での小児医薬品開発の促進に検討会議が大きく寄与していることが示唆された。一方、小児医薬品の開発が法制化されている欧州では、小児用製剤の開発を伴う割合が日本より高く、より患者に配慮しての小児開発が行われている可能性が示唆された。欧州での小児適応取得品における日本での小児適応取得状況を、日本での小児適応取得品における欧州での小児適応取得状況と比較した結果より、日本では、特に「神経系用薬(2) (カテゴリーN)及び「全身用抗感染薬(3) (J)での小児医薬品開発促進の必要性が示唆された。日本は成人適応取得から小児適応取得に到る期間が長い医薬品が多く、小児へのタイムリーな医薬品の提供という観点から、日本での小児開発には改善の余地があった。

(4) 日本と欧州の間での小児適応取得のタイムラグを用いた検討では、検討会議の設置は小児適応取得薬剤の増加につながっているが、ドラッグラグの短縮には寄与していなかった。「抗悪性腫瘍薬と免疫調節薬」(カテゴリーL)及び「血液と造血器官用薬」(B)では、近年小児開発がより積極的に進められている可能性が示唆された。タイムラグに影響を与える因子の検討から、臨床試験実施上の種々な制限がある小児医薬品での開発でも、国際共同試験を用いた開発戦略を取ることが、承認タイムラグを短くするうえで最も有効な手段になることが示唆された。「血液と造血器官用薬」(B)は、いずれも血友病治療のための凝固因子製剤であり、民族的要因の薬効評価への影響は小さいことから、国際共同試験を用いた開発が進んでいると考えられた。承認タイムラグが残る薬効分類の薬剤では、成人での臨床開発計画立案の段階から、小児適応取得を念頭に、国際共同試験を活用した臨床開発計画を検討する必要性が示唆された。

以上の研究より、小児医薬品開発を義務化した法律のない日本でも、小児開発促進のための種々の施策、特に検討会議の設置により、近年小児用医薬品の開発が進んでいることが確認できた。しかしながら、日本で小児適応を取得した薬剤の多くは欧州では既に小児適応が取得されたものであり、欧州との間に小児適応取得のタイムラグが存在することが明らかとなった。また、特定の疾患領域での治療薬や小児用製剤の開発は活発でなく、さらなる改善の余地が認められた。国際共同試験は、小児医薬品開発においても承認タイムラグ短縮のための有効な手段であった。成人での疾患の多くでは、国際共同開発が主流になりつつあり、小児についても、欧米と歩調をあわせながら今後より積極的に小児適応取得にむけた開発を行っていく必要がある。
以上

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参考文献

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