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大学・研究所にある論文を検索できる 「観測水位及び降雨データを用いた時系列解析による実時間洪水予測手法の適用性とその応用に関する研究」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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観測水位及び降雨データを用いた時系列解析による実時間洪水予測手法の適用性とその応用に関する研究

小山 直紀 中央大学

2021.10.28

概要

1. 研究の背景及び目的
近年,毎年のように洪水が発生し,甚大な被害が発生している.この災害対策として,一般的にはハード対策とソフト対策の両面から講じられているが,気候変動による豪雨の激甚化,高頻度化が懸念されている.そのため,従来では,水害は,河道の整備(拡幅,掘削,樹林帯の整備等),堤防の整備,ダム建設等の施設整備により発生を防止するものと考えられてきたが,今後は,既存の施設能力には限界があり,防ぎきれない大洪水は発生するものと考え,ハード対策とソフト対策の有機的に組み合わせた減災対策が進められている..このことからもハード対策では防ぎきれない大規模水害時にはソフト対策で補う必要があり,今後はソフト対策の充実がより重要である.そして,ソフト対策の中でも水位の予測情報は,住民の命を守るために避難を促す重要な情報である.例えば,2019年の令和元年台風第19号では,71河川140箇所で堤防が決壊し、多数の死者を出す災害となったが,これまでの災害と同様に河川の外水氾濫により人々が亡くなることが多く,また高齢者がその割合の多くを占めている.外水氾濫は,河道内の水位上昇による越水または堤防決壊によって生じることから,氾濫が発生する前に避難することができれば,災害から逃れることができる.そして,現在の避難情報の発令には河川水位が用いられており,数時間後の水位を精度良く予測することができれば、洪水時の切迫した状況下でも適切な避難を誘導することにつながる.このため,水位の予測情報をできる限り高精度,且つ,より先の時間まで予測することができれば,避難のためのリードタイムを延ばすことができ,洪水被害の確実な軽減に導くことができる.

これまでにも様々な洪水予測手法が提案されているが,完全な洪水予測手法というものは未だ存在していない.これは,降雨流出の水文過程に関する解明が未だ不十分であることや,それぞれの手法(モデル)の特性に応じて,対象流域や使用できるデータ量などにより使い分ける必要があるからである。また反面では,流域特性や使用できるデータ量が少なく,そもそも解析モデル自体が構築できないこともある.さらに,災害時における洪水予測システムの運用上の問題もある.落雷や流木による雨量や水位等,各種観測データの欠測やエラー値の発生,システム上のデータ配信の遅延,使用する予測降雨の未配信等,あらゆる側面において,洪水予測システムの運用が正常に行うことができない可能性がある.しかし,このような運用状況下においても,行政は避難情報の発令を判断する必要があるため,使用可能なデータ(現在までの水位や降雨データが使える場合,予測降雨が使える場合など)をある程度想定した上で,緊急時において,迅速に判断できるようにしなければならない.このためにも,複数の洪水予測手法を用いた洪水予測を同一の河川で実施しておくこと,実施できる体制を構築しておくことが重要であり,これによって,それぞれの手法による洪水予測の結果を補完しながらその精度を評価することができる.これまでに行われてきた洪水予測手法の多くは,物理背景に基づいた降雨流出モデルを用いたものである.このモデルにおけるインプットデータは降雨であるため,洪水予測の精度は,降雨の精度に直結している.日本の場合,地上雨量計をはじめとして,X-band MP RadarやC-band MP Radarといった降雨観測レーダ網が全国に張り巡らされており,解析を行う上で十分な空間解像度と時間解像度をもった降雨データを入手することができる環境にある.しかし,ベトナムなどの新興国では,解析に必要な降雨データを得られないこともある.そこで,降雨データが不十分な地域でも精度の高い洪水予測を行うことが可能な「降雨流出モデル」の開発が必要とされており,これが,本論文の主題としているところである.さらには,近年,日本の災害は,中小河川を中心に発生しており,これらの流域では,水文データが乏しいことが多くある.そのため,国土交通省は危機管理型水位計と呼ばれる簡易型水位計により観測地点を増やしており,これらのデータを活用する手法が必要である.

本研究では,降雨流出モデルの中でも「統計モデル」に注目した.統計モデルの中には,時系列解析や機械学習といった洪水予測手法があるが,機械学習による洪水予測手法は,現象の非線形性を考慮することができる反面,その精度は,使用できるデータ量や説明変数に左右されることが多い.一方で,時系列解析は,線形モデルのため,現象の非線形を表現することはできないが,モデル構造が単純であることから,少ないデータと説明変数でも,一定の精度を確保することができる.このことから,新興国のような水文データが乏しい地域においても適用できる手法であり,本論文では時系列解析を用いた洪水予測手法を構築した.そして,この手法が,日本の主要な河川のように水文データが整っている流域においてもそのデータを最大限活用できるような応用,或いは拡張できることを示す.

2. 本論文の構成
本論文は,7章で構成される.各章の内容と成果の概要は,以下のとおりである.
第1章の「序論」では,研究の背景と目的,その概要を整理している.

第2章の「洪水予測手法とその課題」では,洪水予測手法は「降雨流出モデル」と「統計モデル」に大別することができ,それぞれの洪水予測に関する既往の研究を紹介するとともに,現行手法の課題について整理した.

第3章の「水位のみを用いた時系列解析による洪水予測」では,新興国のような高精度な降雨データが入手できない場合においても適用可能な洪水予測モデルを開発するため,水位のみを用いた時系列解析による洪水予測手法を提案し、その精度について評価した.

第4章の「水位及び降雨を用いた時系列解析による洪水予測」では,降雨データを用いることが可能な流域を想定して,第3章において提案したモデルを拡張し,水位と降雨データを用いることでより精度の高い予測結果を得られる時系列解析による洪水予測手法を提案し,その精度について評価した.

第5章の「時系列解析の応用 ~分流式下水道における雨天時浸入水発生領域の推定~」では,第3,4章において提案した時系列解析の適用可能性を示唆すべく,現在,内水氾濫の一因とされている分流式下水道における雨天時侵入水の発生領域の推定に適用できる可能性について検証した.

第6章の「洪水アラートシステムの開発と時系列解析導入による展望」では,渋谷川流域において開発した洪水予測アラートシステムの概要を紹介し,このシステムに第3章,第4章で提案した時系列解析による洪水予測手法導入の可能性とその展望について整理した.

第7章の「結論」では,総括として,本論文の結果をまとめた.

3.洪水予測手法の現状とその課題(第2章)
洪水予測手法は「降雨流出モデル」と「統計モデル」に大別することができる.降雨流出モデルは,物理過程に基づいた理論であるため,詳細な降雨流出プロセスや地形,地質,植生などの流域特性の影響を表現できるモデルを構築することができる.しかし,この降雨流出モデルのインプットデータは降雨であり,その精度が予測精度を左右するという特徴がある.そこで,降雨の空間分布に着目し,降雨の精度がピーク流量及び水位に及ぼす影響について解析した.

まず,雨量計1個がどの程度の空間を代表できるか分析したところ,最大で約10km×10km範囲を代表できる(この範囲に1個の雨量計があれば精度の良い結果を得られる)ことがわかった.これは,雨量計を非常に密に配備する必要があるということを示すものでもある.そこで,国(先進国や新興国)や流域によって雨量計の配備状況は大きく異なることから,流域ごとの降雨の空間分布状況が流出解析に及ぼす影響について分析した.具体的には,1個の雨量計がもつ支配面積(面積/雨量計の個数)に着目し,雨量計の支配面積がピーク流量に及ぼす影響について分析した.分析方法は,日本に配備されているX Band MP-Radar(250m× 250m格子で1つの雨量データが得られる)のデータを用いて,任意の格子面積を1個の雨量計の支配面積であると仮定して,その条件を変化させながら流出計算を行った.ここでは,1km×1km,2km×2km,3km×3km, 4km×4km,5km×5km,6km×6km,8km×8km,10km×10kmを想定し,それぞれの中心格子での流出計算結果と各ケースにおける流出計算の平均値の差を「ピーク流量差率」として,雨量計1個当たりの支配面積との関係を算出した.その結果,雨量計1個当たりの支配面積が6km×6km以下であればピーク流量差率は5%よりも低くなることがわかった.さらに,雨量計1個当たりの支配面積が2km×2km,3km×3kmであれば,ピーク流量差率は数%となることがわかった.しかし,実際の流域では,流域面積や流域特性(地質や植生など)が異なる.そこで,流域面積や流域特性の影響を含めた雨量計1個がもつ支配面積とそれがピーク流量に及ぼす影響について分析した.対象とした流域は,4つの流域(利根川上流域:5100km2,安部川流域:567km2,大井川流域:1280km2,鶴見川流域:128km2)である.流出計算に用いる降雨データはX Band MP-Radar及びC Band Radar(1km×1kmで1つの雨量データが得られる)を用いて,各流域においてある一定の支配面積になるようにランダムに雨量データを選択し,その雨量データから流域平均降雨を100ケース作成したものを使用して流出計算を行った.その結果,雨量計1個当たりの支配面積が3km×3kmであれば,どの流域においてもピーク流量差率は10%以内に収まることがわかった.そして,支配面積が大きくなると共に指数関数的に精度は悪くなり,流域面積が小さくなるほど,雨量計1個当たりの支配面積に敏感に反応し,大井川流域では,雨量計1個当たりの支配面積が10km×10kmのときのピーク流量差率には10%~50%の差が生じる(利根川流域では,約5%~15%)ことがわかった.以上のことから,精度の高い流出解析を行うためには,3km×3kmに1つの雨量データが必要であることがわかった.以上のことより,雨量計1個がもつ空間の代表性は約10km×10kmであるが,降雨流出モデルを用いて精度の高い流出解析を行うためには,約3km×3kmに1個の雨量計が必要になることがわかった.

4.水位のみを用いた時系列解析による洪水予測(第3章)
前章において整理した降雨流出モデルを新興国のような高精度な降雨データが入手できない場合においては,これを導入することは難しい.そこで,水文データの乏しい地域でも適用可能な洪水予測モデルを開発するため,水位のみを用いた時系列解析による洪水予測手法を提案し、その精度を評価した.

水位のみを用いる場合,ある水位観測所における水位データは,その地点より上流の降雨が流出し河道を流れてきたものであり,堰やダム等の水理構造物がない限り,大部分は下流まで流れる.この現象から,上流と下流の水位観測所での水位データの相関は高く,これらを用いることで高精度な水位予測を行うことができると考えた.また,洪水予測手法を構築するに当たって考慮すべきは,予測対象地点の水位は,上流にある支川からの流水が集まってある水位に決まるということであり,これを考慮できる時系列解析の多変量自己回帰モデルを用いる洪水予測手法を発案した.

精度検証の対象とした流域は,利根川八斗島地点を下流端とする利根川上流域(流域面積:5100km2)とした.パラメータ推定に用いる洪水イベントは,過去に水防団待機水位を超えた8つの降雨イベントを対象とし,限られた洪水イベントをすべて用いる分割交差検定によってパラメータを決定した.また、洪水予測は,避難するためのリードタイム確保の可能性を検証するため,1~8時間先までの水位を予測し,水位の立ち上がりからピーク水位までの観測値と予測値からRMSEを求め,それぞれの時間でのハイドログラフとピーク水位について評価した.

その結果,観測値と予測値を比較検証したところ,4時間先までの予測値は,その差は0.5m以内で予測できることがわかった.そして,それ以降の予測時間に関しては,水位の立ち上がりの際に観測値よりも低い値を示す傾向があることがわかり,さらに,予測時間が長くなるにつれて予測値と観測値の乖離も徐々に大きくなり,8時間先では0.5m~1.5m程度になった.次に,RMSEによる精度検証を行ったところ,4時間先までは RMSEが0.2m以内であり,十分に精度の高い予測が行えることがわかった.この要因の一つには,当該モデルに使用している上流の水位観測地点と予測対象地点の水位の遅れ時間が概ね同じであり,水位情報が伝わる時間までは精度の高い予測が行えるということを意味している.ピーク水位については,4時間先までは,ほとんどの洪水イベントにおいて,約0.2m以内の精度で予測ができることがわかった.しかし,5時間先以降は,観測値と予測値の差が0.5mを超える結果となった.しかし,ピーク水位付近では,水位の立ち上がり時の傾向とは異なり,観測値よりも小さい値を示す傾向は見られなかった.そして,ピーク水位を予測するに当たり,重要なことは水位の立ち上がりからピーク水位に達するまでの時間である.その時間が長時間(対象流域の場合30時間程度)であれば, 6時間先のピーク水位の予測0.5m以内に予測を行うことができる.一方,短い場合(10時間程度)であると,6時間先のピーク水位の予測が1m以上大きく予測することがあった.

次に,当該洪水予測手法を構築するに当たって,パラメータ推定のために用いる洪水イベントがどの程度あれば,予測値が安定するのかについて検証した.これは,今後,当該洪水予測手法を導入する流域によっては大規模洪水時のデータが蓄積されていないことが考えられ,今後,必要なデータを蓄積していくために各流域において重要な指標となる.そこで,上述の利根川上流域における8洪水の降雨イベントからパラメータ推定に用いる洪水イベント数を変化させて予測を行った.その結果,パラメータ推定に用いる洪水イベント数が4つの場合は予測値に約1m程度のばらつきが発生し,5つの場合は約0.5m程度のばらつきが発生した.しかし,洪水イベント数が6つあれば,予測値のばらつきは0.1m程度となり,安定した結果を得られることがわかった.

5.水位及び降雨を用いた時系列解析による洪水予測(第4章)
本章では,流域によって降雨データを用いることが可能な流域もあることから,3章において提案した洪水予測手法拡張し,降雨データを含めた時系列解析を行うことで,より精度の高い予測を可能とする手法を提案し,その精度を評価した.
ここで,ある流域における降雨流出のプロセスについて考えてみる.流域に雨が降り,その雨は土壌に浸透・流出し,河川に流れ,ある地点に集まることでその地点の水位となる.言い換えれば,ある観測地点の水位情報は,降雨流出プロセスの中では最末端の情報であると言うことができ,その始まりは降雨である.そこで,水位情報に降雨情報を追加することで,水位情報より前の情報を解析モデルに加えることができ,より長期の水位予測を行うことができるようになると考えた.モデルの拡張は,第3章で構築したモデルと同様,多変量自己回帰モデルを用いて,水位と降雨のデータが扱えるように改良した.精度評価の方法は第3章と同様である.
その結果,観測値と予測値を比較検証したところ,水位のみを用いた場合では,水位の立ち上がりが5時間先の予測では小さくなる傾向があったが,降雨を追加した結果その傾向を改善することができた.さらに, RMSEによるハイドログラフの精度評価を行った結果,4時間先までの予測では,水位のみの場合でも水位と降雨を用いた場合でもRMSEにほとんど差がなかったものの,5時間先以降の予測においては結果が大きく異なり,6時間先の予測に対するRMSEは,水位のみの場合約0.35mであったのに対して,降雨を追加した場合は約0.25mとなった.さらに,8時間先の予測に対するRMSEは,水位のみの場合約0.7mであったのに対して,降雨を追加した場合は約0.4mとなった.以上のことから降雨データを追加することで,予測時間が長くなるほど,水位の予測精度は向上されるということがわかった.

次に,ピーク水位の精度検証より,水位のみを用いた場合よりも降雨データを用いた方が精度が高くなることが多い.特に水位の立ち上がりからピーク水位までの時間が短い洪水イベントほど精度が向上する.しかし,その時間が長時間であると水位のみと大きくは精度が変わらないことがわかった.これは,水位の立ち上がりからピーク水位の長い洪水イベントでは,上流からの情報が十分に伝わる時間があるため,降雨の影響が少なく,水位のみと精度が変らくなると考えられる.

最後に,流域において予測降雨データを使用できる場合について検討した.これまで,過去の洪水イベントにおける降雨を用いた計算では,多変量自己回帰モデルを使用して過去のデータから将来を予測するものであり,このプロセスの中に気象学的観点は考慮されていない.近年では,レーダ観測網が整備されたこともあり,降雨予測に関する研究が精力的に行われている.そこで,予測降雨を用いて水位を予測できる解析モデルを構築した.これまでは,水位と降雨を同一に多変量自己回帰モデルにより扱っていたが,予測降雨を使用するに当たっては,水位と降雨を分離し,水位は多変量自己回帰モデルにより予測,予測降雨は外力項となるように改良した.このようなモデルは外力付き多変量自己回帰モデルと呼ばれている.そして,この精度を評価するに当たっては,上述の水位と降雨を用いた結果と当該モデルの結果とを比較して検証した.

その結果,それぞれの予測手法を用いたRMSEによるハイドログラフでは,1~8時間先までの予測値に大きな違いは見られなかった.ということは,予測雨量を入手できない流域においても,実降雨データを入手することができれば,ハイドログラフの精度は同等のものが得られるということである.また,ピーク水位については,4時間先までのピーク水位の予測値は,大きな違いは見られなかった.しかし,7,8時間先のピーク水位を予測した場合は,多変量自己回帰モデルから予測した降雨より,予測降雨を用いた方が精度向上をすることがわかった.

6.時系列解析の応用と展望(第5章・第6章)
第5章・第6章では,第3。第4章において提案した時系列解析を使用した洪水予測手法の応用とその展望について整理した.

第5章では,現在,内水氾濫の一因とされている分流式下水道の汚水管路への雨天時浸入水の発生領域の推定に適用できる可能性について検証した.昨今,合流式下水道では,雨水が流入することで下水道としての本来の性能を維持することができず,結果として,内水氾濫の一因となること,下水処理施設の維持管理費の負担増(雨水が流入することによる処理水量の増加)という現象が頻発している.その結果,これを管理する行政は,この雨天時浸入水の発生領域を推定するための手法構築に尽力している.

従来の一般的な侵入箇所の推定手法としては,管渠系統を大ブロックに分けて流量調査を行い,雨天時浸入水が発生している可能性の高い領域について詳細な調査を行い,絞り込みを行うというものである.この手法を用いて詳細な調査を実施するためには,流量計を管路内に設置する必要があり,集水域が大きくなればその分観測数も増やす必要がある.さらに,集水域単位での下水量を観測しているということはほとんどなく,多くの場合は,下水処理場やポンプ場のみで観測されていることが一般的である.こうした手法に代わってこの問題を解決するためには,下水量の観測所が少ない地域でも雨天時浸入水の発生領域を推定する手法が必要となる.そこで,本論文において提案した洪水予測手法(時系列解析の多変量自己回帰モデル)を応用して雨天時浸入水発生領域を推定する手法を構築した.多変量自己回帰モデルのパラメータは, 過去のある観測値の重みであると考えることができる.そこで,複数の下水量データが観測されている場合には,それぞれのパラメータについて分析することで雨天時浸入水の影響度から雨天時浸入水発生領域を推定することができる.さらに,外部入力付き多変量自己回帰モデルを用いて,レーダ降雨量を外力項とすることで,下水流量に影響を及ぼす降雨の影響度を分析することにより,降雨の分解能(格子)の大きさに雨天時浸入水発生領域をパラメータから逆推定できることを可能とした.この手法は,下水道管渠モデルを構築せずに,下水流量と降雨データから雨天時浸入水の発生領域を推定できる簡便なものであり,今後,さらに管路の老朽化によって顕在化していくであろうこの問題を解決するために,非常に有用な手法である.

第6章では,渋谷川流域において開発し運用している洪水予測アラートシステム「都市河川監視システム」と称する,高解像度降水ナウキャストの降雨強度を入力情報として1時間先までの河川水位を予測し,水位が管理値を超えるとアラートメールを送信するというクラウドシステムについて紹介し,このシステムの発展性について展望する.

7.結論(第7章)
第7章では,各章の成果をまとめ総括とした.

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参考文献

1) Technical Mapping Advisory Council (TMAC). Technical Mapping Advisory Council (TMAC) 2015 Annual Report Summary. Available online: https://www.fema.gov/media- library-data/1454954186441-34ff688ee1abc00873df80c4d323a4df/TMAC_2015_Annual_Report_Summary.pdf (accessed on 13 March 2020).

2) Federal Emergency Management Agency (FEMA). Loss Dollars Paid by Calendar Year. Available online: https://www.fema.gov/loss-dollars-paid-calendar-year (accessed on 13 March 2020).

3) European Environmental Agency (EEA). Mapping the impacts of natural hazards and technological accidents in Europe – an overview of the last decade. EEA Technical Report No13/2010. Available online:https://www.eea.europa.eu/publications/mapping-the-impacts- of-natural (accessed on 13 March 2020).

4) アジア防災センター(ADRC) : メンバー国防災情報 Thailand , Available online: https://www.adrc.asia/nationinformation_j.php?NationCode=764& (accessed on 13 March 2020).

5) 国土交通省:外水と内水の被害額の割合,Available online: https://www.mlit.go.jp/river/pamphlet_jirei/bousai/saigai/kiroku/suigai/suigai_3-3-2.html (accessed on 13 March).

6) 国土交通省:令和元年台風第 19 号による被害状況等について 堤防決壊箇所一覧,Available online: https://www.mlit.go.jp/common/001313204.pdf (accessed on 13 March).

7) 土木学会水工学委員会水害対策小委員会:2018 年 7 月西日本豪雨災害調査団(中国地区)報告書,2019.

8) 国土交通省 水管理・国土保全局:平成 29 年 7 月九州北部豪雨について,2017.

9) 牛山素行:豪雨の災害情報学,古今書院,2008.

10) 国土交通省 国土技術政策総合研究所 気候変動適応研究本部:気候変動適応策に関する研究(中間報告),国総研資料 749 号,Ⅱ-112-154,2013.

11) 社会資本整備審議会:大規模氾濫に対する減災のための治水対策のあり方について ~社会意識の変革による「水防災意識社会」の再構築に向けて~, 2015.

12) 牛山素行:2019 台風 19 号等による人的被害についての調査(10/25 大雨を含む速報 2019 年 12 月 30 日 版 ) ,http://disaster-i.cocolog- nifty.com/blog/files/20191230report.pdf, (2020.3 参照).

13) 国土交通省都市・地域整備局下水道部,日本下水道協会:下水道政策研究委員会下水道財政・経営論小委員会中間報告書 下水道を取り巻く釈迦経済情勢と下水道財政・経営の今後の方向,2004.

14) EPA(Uneited States Environmental Protection Agency):Report to Congress Impacts and Control of CSOs and SSOs,2004

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