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大学・研究所にある論文を検索できる 「ラマン分光法によるにおい成分収着挙動の可視化解析に関する研究」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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ラマン分光法によるにおい成分収着挙動の可視化解析に関する研究

久保田, 啓之 KUBOTA, Hiroyuki クボタ, ヒロユキ 九州大学

2021.03.24

概要

高分子、特にプラスチック系包材は食品、嗜好品、化粧品などに広く使用されているが、保存期間中に揮発性の低分子におい成分が包材内に収着し、製品品質が大きく損なわれることが知られている。収着に関するこれまでの研究は、単一の高分子素材を対象として、におい成分との相互作用についての理論的考察に終始している。他方、実際の包装形態としてはラミネートフィルムなどの積層(多層)高分子包材が主流であるため、従来の収着理論を直接適用することは困難である。そこで本研究では、高分子素材へのにおい成分の収着の実際を直接的に解析できる可視化分析法を構築するとともに、高分子素材内での低分子化合物の挙動について定量的な評価を試みた。

 まず、共焦点顕微ラマン分光法(CRM法)を用いた収着挙動可視化法の構築を検討した。高分子素材として酢酸セルロース(CA)フィルム、低分子化合物としてプロピレングリコール(PG)を用いてCAフィルム中PGの選択的検出を試みたところ、PGとCAフィルムのラマンバンドが重複したため、両者の選択的検出は困難であった。そこで、バンドシフトが期待される重水素置換を試みた。重水素化PG(PG-d6)についてCRM測定を行ったところ、CAフィルムのラマンスペクトルのサイレント領域にC-D結合の伸縮振動由来の特徴的なラマンバンド(2123cm-1)が出現し、両者の明瞭な判別が可能となった。そこで、CAフィルム表面に対してPG-d6を滴下し、CRM法による深さ方向のプロファイリング分析を行ったところ、経時的にPG-d6がCAフィルム内を浸透・拡散する過程が可視化され、直接的にフィルム内部に存在する低分子化合物の挙動を把握することが可能となった。また、PG-d6およびl-Mentholの混合物についてもCAフィルム内での個別検出が達成されたことから、低分子化合物の重水素化は、CRM法における選択的検出を可能とする有効な手法であることが判明した。

 次いで、収着挙動に対する外部環境因子を定量的に把握するとともに、種々のにおい成分に対するCRM可視化法の適用性について詳細に検討を行った。PG-d6のCAフィルムへの収着について、CRM法による深さ方向のプロファイリング分析から、CAに対するPG-d6のラマン強度比変化をプロットしたところ、PG-d6の拡散係数Dは、22℃で1.60×10-15m2/s、30℃で4.70×10-15m2/s、35℃で8.15×10-15m2/s、40℃で1.40×10-14m2/sとなり、温度依存的に拡散係数Dが高値を示すことが確認された。アレニウスの関係式に基づいてその温度依存性を評価したところ、高い直線性が確認された。このことは、PG-d6のCAフィルムへの収着は熱運動支配的であり、拡散はFickの第2法則に従っていることを示唆する知見であった。さらに、におい成分としてLinalool、t-Anethole、GeraniolをCRM測定したところ、いずれの成分についてもCAフィルムのラマンバンドと重複しない特徴的なラマンバンドが観測された[Linalool:1675cm-1(C=C伸縮振動)、t-Anethole:758cm-1(C-H面外振動)、Geraniol:1672cm-1(C=C伸縮振動)]。これらのラマン波数をもとにCAフィルムへの収着挙動をCRM測定したところ、いずれの成分についても収着によるCAフィルム内での局在が可視化観察された。また、CRM法により求めたCAフィルム内での拡散係数D(40℃;Linalool:3.16×10-15m2/s、t-Anethole:6.44×10-15m2/s、Geraniol:4.44×10-15m2/s、PG-d6:1.40×10-14m2/s)は分子体積(Linalool:177.3cm3/mol、t-Anethole:149.5cm3/mol、Geraniol:174.5cm3/mol、PG-d6:73.5cm3/mol)ならびにCAとのハンセンの溶解度パラメータの3次元距離(Linalool:7.6MPa1/2、t-Anethole:8.8MPa1/2、Geraniol:5.7MPa1/2、PG-d6:9.1MPa1/2)と相関したことから、これらの分子特性が拡散挙動に影響因子として働いていることが明らかとなった。

 CRM法を活用したにおい成分の収着挙動の可視化は、一定の励起光波長照射(532nm)に基づき、焦点位置を変えることによりフィルム深度ごとの測定対象物濃度を視覚的に捉えることが可能である。したがって、これまで直接測定が不可能とされてきた積層フィルムに対してもCRM法は適用可能であり、さらに重水素ラベル法を併用することにより多種類のにおい成分を一斉に可視化検出することができると考えられる。以上より、本研究で構築したCRM法は実試料での収着挙動の実態把握とバリア包材設計、内容食品の品質管理など、多方面での応用が大いに期待される。

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