リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

大学・研究所にある論文を検索できる 「ニガウリにおける雌雄比率決定に関わる遺伝子の同定」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

コピーが完了しました

URLをコピーしました

論文の公開元へ論文の公開元へ
書き出し

ニガウリにおける雌雄比率決定に関わる遺伝子の同定

松村, 英生 信州大学

2022.01.13

概要

2版

様 式 C−19、F−19−1、Z−19 (共通)

科学研究費助成事業  研究成果報告書
令和

2 年

6 月 30 日現在

機関番号: 13601
研究種目: 基盤研究(C)(一般)
研究期間: 2017 ∼ 2019
課題番号: 17K07601
研究課題名(和文)ニガウリにおける雌雄比率決定に関わる遺伝子の同定

研究課題名(英文)Identification of genes for sex ratio in bittetr gourd

研究代表者
松村 英生(Matsumura, Hideo)
信州大学・学術研究院総合人間科学系・准教授

研究者番号:40390885
交付決定額(研究期間全体):(直接経費)

3,600,000 円

研究成果の概要(和文):ニガウリの生産、育種において重要な形質である雌性花率(雌雄比率)を制御する
QTLの同定およびその解明を行うための染色体レベルでの全ゲノム配列解析を行なった。雌性型系統を母親とし
たF2集団のQTLマッピングの結果、3箇所の雌性花率QTLが見出され、そのうち一箇所は雌性型遺伝子座であると
推定され、次にLOD値の高いQTLについては近傍マーカーで挟まれるゲノム配列およびその内部にある候補遺伝子
を複数絞り込んだ。またニガウリゲノム配列を充実させるためPacBioシークエンスによる全ゲノム配列解析によ
り11本の染色体レベルのゲノム配列を構築した。

研究成果の学術的意義や社会的意義
本成果はニガウリの果実生産性に直接影響する雌性花率のQTLおよびそのマーカーを見出すことができたため、
今後のニガウリ育種の効率化に大きく貢献が期待できる。またニガウリにおいて染色体レベルの全ゲノム配列を
構築できたことから、他の形質に関する遺伝子、マーカーの同定にも寄与する。さらにニガウリ野生系統と栽培
品種群における雌性花率QTL領域の解析から、さらにその栽培化や進化における意義の一部を見出すことができ
た。

研究成果の概要(英文):For identifying genes and gene networks for sex determination in bitter
gourd (Momordica charantia), QTL mapping of F2 population was carried out using genome-wide RAD-seq
markers. Three loci were detected as QTLs for female flower frequency and the most effective locus
was presumed to be a gynoecious locus. Another QTL in LG5 was focused and several candidate genes in
this region, showing non-synonymous change in their sequences between parents, were found.
Additionally, bitter gourd reference genome sequence was re-constructed by de novo assembling of
PacBio long reads. Consequently, pseudomolecule, comprising 11 chromosomes, could be developed.
Resequencing analysis of 60 varieties and read mapping against this pseudomolecule demonstrated
unique region with low Fst between wild and cultivar groups, which corresponds to female flower
frequency QTL.

研究分野: 育種学
キーワード: ニガウリ 性決定 雌雄比率 ゲノム QTL

※科研費による研究は、研究者の自覚と責任において実施するものです。そのため、研究の実施や研究成果の公表等に
ついては、国の要請等に基づくものではなく、その研究成果に関する見解や責任は、研究者個人に帰属されます。



式 C−19、F−19−1、Z−19(共通)

1.研究開始当初の背景
高等植物における雌雄(性)の様式は高等動物と比較すると多様である。被子植物の 90%は両
性花のみを咲かせる種であり、残りの約 10%の植物種ではそれ以外の様々な性様式を示す。両性
花における器官レベルでの雌雄決定(雌蕊、雄蕊)は ABC モデルに代表されるように以前より明
らかとなっており、高等植物内で保存された機構と推定される。一方で個体レベルや個々の花の
レベルでの雌雄決定の機構については未解明の領域が多い。その中で雌雄同株異花であるウリ
科作物では雌花/雄花の決定が果実収量や F1 品種の育成に大きな影響を与える重要な農業形質
でもあるため、その遺伝的機構の解明が進められている。特にキュウリ、メロンでは雌花/雄花
の決定に関与する遺伝子(CmACS11、CmWip1)が既に同定されており、両遺伝子の allele の組み合
わせにより雌雄同株異花のメロンから雌雄異株の系統を作出する事にも成功している(Boualem
et al., 2015)。これらの研究でメロンやキュウリの雌雄決定においては花芽における局所的な
エチレン合成が重要とされている。しかし、具体的な性決定機構の全体像は不明である。
申請者は雌雄同株異花のウリ科作物の一つであるニガウリ(Momordica charantia, ゲノムサ
イズ:推定 390Mb)についてその雌雄決定機構を解明すべく研究を行ってきた。ニガウリはメロ
ンやキュウリと異なり同属(Momordica 属)内に雌雄同株異花と雌雄異株の種が見られるため、
高等植物における性決定様式の進化の解明に大きく貢献できる研究材料である。またニガウリ
は国内では沖縄を中心として各地で生産され、東南アジア、南アジアでも重要な作物として位置
づけられるため、その生産性の改良に寄与する雌雄決定の形質は重要な育種目標である。申請者
らは今までに雌花のみを持つニガウリ雌性型系統を対象とし、混性型(雌雄異花)系統との交雑
後代を用いて RAD-seq 法を活用した雌性型遺伝子座のマッピングを行った。雌性型は劣性単一
遺伝子に支配される事が明らかとなり、当該遺伝子座について連鎖地図上の位置ならびに連鎖
マーカーの特定を行った(Matsumura et al., 2014)。さらにニガウリの全ゲノム配列の解析を
独自に行うと共に、より詳細な連鎖地図の作成を行って遺伝子同定のための基盤を整備した
(Urasaki et al, 2016)。この雌性型遺伝子の同定へ向けた研究を行う過程で、沖縄県保有のニ
ガウリ系統(近交系)を比較すると多様な雌雄比率がみられ(図 1)
、また雌性型系統×混性型
系統の F1個体ではほぼ一定の雌雄比率であったが、F2 集団の混性型を示す個体には様々な雌花
と雄花の比率の分離が見られた(図 2)
。加えて雌性型系統と上記とは異なる花粉親(混性型)
の F1では前述の交配組み合わせの F1とは異なる雌雄比率を示し、かつ F2 の混性型個体における
雌雄比率の分布にも変化が見られた。これらから雌雄比率は遺伝的な要因により決定され、複数
の量的形質遺伝子座(quantitative trait loci; QTL)に支配されている可能性を推定した。
2.研究の目的
本研究ではニガウリの雌雄比率決定に関わる遺伝子は高等植物の性決定機構解明の一翼を担
う遺伝子であると考え、それらの同定および雌雄比率決定に関わる遺伝的機構の解明を目的と
した。加えてそれらの解明を実施するためのニガウリゲノム情報の整備を行うことも目的とし
た。
3.研究の方法
(1) 雌性花率の QTL マッピング
沖縄県で育成したニガウリ系統 OHB61-5(雌性花率 100%; 雌性型系統)と OHB95-1A(雌性花率
<3%)との F2 個体を材料とし、97 個体のゲノム DNA について RAD-seq 解析を行った。RAD-seq ラ
イブラリはゲノム DNA を制限酵素 AseI(5’-ATTAAT-3’)で切断し、切断末端にビオチンラベル
したアダプターを結合した断片をさらに制限酵素 NlaIII(5’-CATG-3’)で切断してアダプター
を結合した後にストレプトアビジンビーズによって回収した DNA 断片を鋳型にして PCR 増幅を
行って作成した。各 F2 個体のライブラリをイルミナ HiSeq2000 により single read シークエン
ス を行い、得られたリードの末端から 95bp をタグ配列として、ニガウリリファレンスゲノム
(Urasaki et al., 2017)へのマッピングによる多型検出および各タグ配列の有無に基づく遺
伝子型判別を行い、JoinMap4.2 による連鎖地図作成に供試した。
上記の F2 個体を沖縄県で育成し、着花した 30 個の花を調査して雌性花率を算出した。F2 個体
RAD-seq マーカーの遺伝子型、連鎖地図および雌性花率をもとに MapQTL6 を用いて QTL 領域を見
出した。
(2) 雌性花率 QTL 候補遺伝子の絞り込み
上記(1)で検出した QTL のうち、雌性型遺伝子座とは異なる QTL(第 4 連鎖群)について、
近傍の 6 箇所の RAD-seq マーカー(SNPs)の遺伝子型を(1)のマッピングに用いていない F2 個体に
対して判別を行った。SNP の判別は当該領域を PCR 増幅し、シークエンス解析により行った。
またリファレンスゲノム配列から雌性花率 QTL 領域の DNA 配列を抽出した。OHB61-5 と OHB951A についてイルミナ HiSeq2000 による全ゲノム配列を行い、リファレンスゲノムへのマッピン
グ結果から、雌性花率 QTL 領域における両親系統間の予測遺伝子領域の多型を見出した。さらに
同領域における発現遺伝子を見出すため、OHB3-1 の蕾期の雌花と雄花より RNA を抽出し、RNAseq 解析を行った。
(3) 長鎖リードシークエンス による全ゲノム配列解析

以前にリファレンスゲノムを作成したニガウリ系統 OHB3-1 の葉より CTAB 法および genomictip100(キアゲン)により高分子ゲノム DNA(>30kbp)を抽出し、先進ゲノム支援のサポートによ
り国立遺伝学研究所において PacBio シークエンスのライブラリ作成、PacBio Sequel によるシ
ークエンスを行った。
得られたシークエンスリードのデータは Canu1.7 により de novo アッセンブルを行って contig
を作成し、RAD-seq マーカーに基づいて作成した 11 連鎖群(染色体)の連鎖地図への各 contig
の配置を行うことで Pseudomolecule 配列を作成した。

4.研究成果
(1) OHB61-5 x OHB95-1A の交雑後代における雌性花率 QTL のマッピング
ニガウリ系統 OHB61-5(雌性花率 100%; 雌性型系統)と OHB95-1A(雌性花率<3%)およびこれら
の F2 個体(97 個体)について RAD-seq 解析と得られたリードのリファレンスゲノムへのマッピ
グから 1507 遺伝子座の DNA マーカー(多型)を見出し、また各マーカーの遺伝子型タイピング
も行った。これら F2 個体の雌性花率は 100%から 0%まで広範囲に分布し、この値を形質値として
1507 マーカーによる QTL マッピングを行った。その結果、LOD 値が有意な QTL は少なくとも3
箇所(3 連鎖群)に見出された(図 1)
。第8連鎖群の末端に位置する QTL が最も LOD 値が高く、
その位置は以前に解析した雌性型遺伝子座とほぼ一致した。一方で第 11 連鎖群の QTL は有意で
はあるものの LOD 値が低いことから、雌性型遺伝子座とは異なる雌性花率 QTL として第4連鎖
群の QTL に着目した。
この第4連鎖群の QTL の雌性花率への効
果について検証するため、LOD 値のピーク
を挟む 6 箇所の RAD-seq マーカー(SNPs)
の遺伝子型を上記マッピングに供試して
いない 24 個体の F2 個体について調査し、
各個体の雌性花率と比較した。その結果、
各マーカーが OHB61-5(母親)型ホモの個
体は雌性花率が高く、ヘテロ型あるいは
OHB95-1A(父親)型ホモ型では低くなる傾
図1 雌性花率QTLマッピングの結果
向が見られた。しかしこれらのマーカーお
よび雌性型遺伝子座領域のマーカーもヘ
テロ型を示す個体でも高い雌性花率を示したことから、独立な雌性花率に影響を与える遺伝子
座の可能性が考えられた。

(2) 第4連鎖群の雌性花率 QTL 領域の遺伝子解析
第 4 連鎖群において高い LOD スコアを示した
雌性花率 QTL の領域に対応したニガウリリファ
レンスゲノム配列にある予測遺伝子を探索した
ところ、272 個の遺伝子が見出された。これら遺
伝子のいずれかが雌性花率に影響を与える遺伝
子であるが、その絞り込みを行うため、雌雄花芽
の RNA-seq から花芽で発現する遺伝子、両親間
(OHB61-5 と OHB95-1A)の全ゲノムリシークエ
ンス解析から両親系統間でアミノ酸置換を伴う
配列多型を示す遺伝子を絞り込んだ。その結果、
花芽で発現し両親間で非同義置換を示す 7 遺伝
子が選出された。実際にこれら 7 遺伝子につい
て PCR とその配列解析で多型の確認を行った。

図2 雌性花率QTL領域の遺伝子の絞り込み

絞り込みを行った 7 遺伝子について現時点では詳細を公表できないが、両親間のアミノ酸置換
が遺伝子産物の機能に影響を与えうるかを明らかにするため in vitro でのタンパク質生産を進
めている。
(3) ニガウリ Pseudomolecule (染色体配列)の構築

雌性花率に関する QTL から原因遺伝子を見出し、さらに QTL 間の相互作用などを解明する上
で全ゲノム配列情報の充実は重要である。今までにイルミナシークエンサーによるショートリ
ードシークエンスに基づいてアッセンブルを行った全ゲノム配列情報を構築しているが
(Urasaki et al., 2017)
、ゲノム全体のカバー率、連鎖地図との対応などは不完全であった。
そこで科研費先進ゲノム支援のサポート受けて長鎖リードシークエンスによるニガウリゲノム
の再解析を行い、より充実した全ゲノム配列構築を行った。前出のリファレンスゲノム構築に使
用したニガウリ系統 OHB3-1 の個体より高分子ゲノム DNA を抽出し、国立遺伝学研究所にて
PacBio Sequel によるシークエンスを行った。その結果、平均 10,725bp のリードが 2,366,274
断片得られ、総データ量は約 25Gbp で
表1 PacBio SequelによるOHB3-1のゲノムシークエンスと
あった。これらのシークエンスリード
アッセンブルの結果
に つ い て Canu1.7 を 用 い て read
Reads
2,366,274
correction ならびに de novo assemble
(average length)
(10,725bp)
を行った結果、221contig から構成され
Assem bler
Canu1.7
Contigs
203
る 302.99Mbp のゲノム配列が得られた。
Total length (M b)
302.29
N50 は 9.89Nbp を示し、BUSCO スコアも
N50
9,898,491
93.4%を示したことからほぼ全ゲノム
Com
plete
BU
SCO
(%
)
93.4
をカバーした良好なアッセンブル配列
が得られたと判断した(表 1)

前出の OHB61-5 と OHB95-1A 間の F2 個体の RAD-seq 解析データで作出した連鎖地図について
1507 箇所のマーカーのうち 100kbp ウィンドウサイズで同一の遺伝子型分布を示すマーカーを
整理した 1036 箇所の遺伝子座をマーカーとして改めて連鎖地図を作成し、上述の各コンティグ
配列をマップした。また Cui ら(2017)
が中国におけるニガウリ系統を用い
て作成した連鎖地図に対しても同様
にコンティグのマップを行なった。そ
の結果、各 43 コンティグと 44 コンテ
ィグがマップされ、その長さはほぼ
293Mbp となり、アッセンブルで得られ
た総コンティグ長の 97%となった。こ
れら連鎖地図(11 連鎖群)に配置され
たコンティグ配列を各染色体のゲノ
ム配列(Pseudomolecule)とした(図
3、DDBJ 配列登録番号 BLBB01000001- 図3 ニガウリ染色体配列と連鎖地図上のマーカーの位置関係
(緑色:Cuiらの連鎖地図、橙色:Urasakiらの連鎖地図)
BLBB01000193)

Chr1 (25M b)

Chr7 (21M b)

Chr2 (21M b)

Chr3 (24M b)

Chr4 (30M b)

Chr5 (25M b)

Chr8 (35M b)

Chr9 (32M b)

Chr10 (23M b)

Chr11 (23M b)

Chr6 (33M b)

(4) ニガウリ染色体配列上の雌性花率 QTL

LOD

新たに構築した Pseudomolecule 並びにその元としたマーカー遺伝子座のデータから、前出の
雌性花率の QTL 領域の算出を再度行なったところ、雌性型遺伝子座と推定される領域は第1染
色体末端、(2)で解析した QTL は第5染色体に位置していた。さらに第1染色体末端には 2 つの
高い LOD 値のピークが検出された(図 4)
。これまで
QTL 解析の結果(図 1)において同領域は裾野の広い
高い QTL が検出されていたため、雌性型遺伝子座に
引っ張られて高い LOD を示していると推測していた
が、本結果から近い距離に2つの QTL が存在する可
能性が示された。どちらが雌性型遺伝子であるかは
不明であるが、おそらく染色体末端側の遺伝子座が
該当すると予想している。Cui ら(2018)は本研究で
cM
用いた系統と異なるニガウリ雌性型系統を利用して
図4 第1染色体上の雌性花率QTL
その形質を支配する QTL をマップしたが、本結果と
類似の連鎖群の末端に2つのピークを検出してい
る。
共同研究を行っている台湾大学において 60 系統のニガウリ栽培品種と野生系統の全ゲノムリ
シークエンス解析を行なって上記の Pseudomolecule にマップして SNPs を検出し、比較解析を
行なった。これらの多型データから栽培品種群と野生系統群の Fst(遺伝的分化程度)を算出し

たところゲノム全体では高い値(分化程度が高い)を示したが、第1染色体の末端に近い領域す
なわち上記の雌性花率 QTL 領域は有意に低い値を示した。この領域の遺伝子の遺伝子型が生殖
特に雌性花と雄性花の比率という次世代の生産力に影響を与えるためこのような結果が見られ
ている可能性が推測された。
これらの結果の詳細は Matsumura et al., 2020 PNAS に掲載している。

5.主な発表論文等
〔雑誌論文〕 計1件(うち査読付論文 1件/うち国際共著 1件/うちオープンアクセス 0件)
1.著者名
Matsumura Hideo、Hsiao Min-Chien、Lin Ya-Ping、Toyoda Atsushi、Taniai Naoki、Tarora Kazuhiko、
Urasaki Naoya、Anand Shashi S.、Dhillon Narinder P. ...

この論文で使われている画像