Non-invasive early prediction of immune checkpoint inhibitor efficacy in non-small-cell lung cancer patients using on-treatment serum CRP and NLR
概要
主論文の要旨
Non‑invasive early prediction of immune checkpoint
inhibitor efficacy in non‑small‑cell lung cancer patients
using on‑treatment serum CRP and NLR
非小細胞肺がん患者における
治療中の血清CRPおよびNLRを活用した
免疫チェックポイント阻害剤の非侵襲的な早期効果予測法
名古屋大学大学院医学系研究科
病態内科学講座
総合医学専攻
呼吸器内科学分野
(指導:石井 誠
松澤 令子
教授)
【目的】
本研究の目的は、非小細胞肺がん患者における programmed cell death(PD)-1 または
programmed cell death ligand(PD-L)1 阻害薬単剤治療の効果予測について、腫瘍促進性
炎症(Pro-tumor inflammation:PTI)のサロゲートマーカーとしての血清 CRP および好
中球リンパ球比(Neutrophil-lymphocyte ratio:NLR)の治療早期変化の有用性を明らか
にすることである。
【対象及び方法】
2016 年 1 月から 2018 年 9 月までに、名古屋大学医学部附属病院、公立陶生病院ま
たは掖済会病院にて抗 PD-1 または PD-L1 阻害薬(ニボルマブ、ペムブロリズマブ、ま
たはアテゾリズマブ)単剤治療を開始した非小細胞肺がん患者を対象とした。データ
収集のカットオフは 2019 年 12 月 31 日とした。臨床病理学的情報、血清 CRP 値、血
中好中球数、血中リンパ球数を患者の電子カルテから後方視的に収集した。NLR は血
中リンパ球数に対する血中好中球数の比として算出した。早期 CRP 変化はベースライ
ン CRP に対する治療開始後 6 週目 CRP の比、早期 NLR 変化はベースライン NLR に
対する治療開始後 6 週目 NLR の比と定義した。治療開始から 6 週後の検査データが
欠損している患者は、除外した。治療効果の評価として objective response rate(ORR)、
progression free survival(PFS)、overall survival(OS)を解析した。ORR は RECIST ver1.1
に基づいて評価した。PFS は PD-1/PD-L1 阻害薬治療開始日から病勢進行または何ら
かの理由で死亡するまでの期間と定義した。OS は、PD-1/PD-L1 阻害薬治療開始日か
ら何らかの理由で死亡するまでの期間と定義した。PFS または OS のイベントが発生
しなかった場合、記録上の最終フォローアップの日付で打ち切りとした。
【結果】
期間中に 228 名の患者が PD-1/PD-L1 阻害薬単剤治療を開始した。11 名は 6 週時点
の臨床検査値がなかったために除外し、残りの 217 名を本試験に組み入れた。年齢中
央値は 70 歳(範囲 30-85 歳)、151 名(70%)が男性、87%は ECOG の PS が 0 または 1 で
あった。早期 CRP 変化の中央値は 1.0(範囲 0.01–46)、早期 NLR 変化の中央値は 0.95(範
囲 0.16–10)で、互いに相関は認められなかった。6 週の評価前に病勢進行した 46 名を
PFS の解析から除外し、PFS の解析対象を 171 名とした。Performance status(PS)、喫
煙の有無、EGFR status、臨床病期、PD-L1 TPS を調整因子として、COX 比例ハザード
モデルを用いて多変量解析を行った。
中央値で 2 群に分けた場合、早期 CRP 変化が低値の患者では高値の患者と比較して
多変量解析において PFS が有意に長く[調整 HR 2.28(95% CI 1.59-3.27、p<0.01)]、
早期 NLR 変化についても同様の結果であった[調整 HR 1.59(95% CI 1.12-2.26, p <
0.01)]。また、早期 CRP 変化と早期 NLR 変化を連続変数として解析を行っても同様
の結果であった。OS についても、早期 CRP 変化[調整 HR 1.48(95% CI 1.00-2.19)、p
= 0.05]、早期 NLR 変化[調整 HR 1.47(95% CI 0.98-2.20, p = 0.06)]の有用性が多変量
-1-
解析で示された。
次に PFS を予測するための最適なカットオフ値を、最小 p 値法を用いて決定した。
最適なカットオフ値は、早期 CRP 変化、早期 NLR 変化とも 1.0 であった。早期 CRP
変化が 1.0 未満であった患者は、1.0 以上であった患者に比べ、PFS が有意に延長した
[HR:2.53(95% CI 1.78-3.58)]。同様に NLR 変化が 1.0 未満の患者は、1.0 以上の患
者に比べ、PFS が有意に延長した[HR:2.00(95% CI 1.42-2.82)]。また、この結果は
OS にも反映され、早期 CRP 変化が 1.0 未満の患者は、1.0 以上であった患者と比較し
て、OS が有意に延長し[HR:1.54(95% CI:1.06-2.26)]、早期 NLR 変化が 1.0 未満の
患者は 1.0 以上の患者に比べ、OS が有意に延長した[HR:1.86(95% CI 1.28-2.73)]。
次に、早期 CRP 変化と早期 NLR 変化を統合した PTI index を定義し、PFS と OS の予
測能力を評価した。PTI index は、PTI index low: 早期 CRP 変化量<1.0 かつ早期 NLR
変化量<1.0、PTI index intermediate:早期 CRP 変化量と早期 NLR 変化量のどちらか一
方のみが 1.0 未満、PTI index high:早期 CRP 変化 1.0 以上、かつ NLR 変化が 1.0 以上
と定義した。図 1 に示すように、PTI index により PFS について明確に層別化すること
が可能であった。PTI index が低い患者の PFS 中央値は 13.9 カ月(95% CI 7.0-17.3)、
PTI index が高い患者の PFS 中央値は 2.5 カ月(95% CI 2.1-3.3、p < 0.01, log-rank 検定、
HR:3.53(95% CI:2.29-5.42))であった。PFS 解析と同様に、PTI index が低い患者の
OS 中央値は未到達(95% CI 19.1-NR)、PTI index が高い患者の OS 中央値は 15.4 カ月
(p<0.01、log-rank test、HR:2.30(95% CI 1.42-3.80))であった。
PTI index の予測能を早期 CRP 変化または早期 NLR 変化と比較するために、c-index
を算出した。PTI index、早期 CRP 変化、早期 NLR の PFS 予測における c-index は 0.671、
0.634、0.617、OS 予測における c-index は 0.597、0.550、0.591 であった。また、PD-L1
TPS に基づくサブグループ解析でも、PTI index で PFS と OS を明確に層別化すること
が可能であった。PD-L1 TPS が 1%未満の患者においても、PTI index が低い患者の PFS
中央値は 13.9 カ月、OS 中央値は未到達で 2 年 OS は 100%であった。一方、PD-L1 TPS
≧50% の患者でも、PTI index が高値の患者では PFS 中央値は 2.5 ヶ月、OS 中央値は
8.1 カ月であった。(図 2、図 3)
【考察】
本研究は、PD1/PDL1 阻害薬の治療効果を、早期 CRP 変化と早期 NLR 変化を統合
して評価することの有用性を初めて明らかにした。本研究における CRP および NLR
の臨床的意義は、おそらく腫瘍微小環境(Tumor microenvironment: TME)における PTI
の免疫学的役割に由来するものであると考えられる。吉田らは、CRP 自体が CD4 陽性
および CD8 陽性 T 細胞の増殖を抑制し、メラノーマ患者において腫瘍免疫抑制効果
を認めたと報告した(Yoshida et al. 2020)。また、森澤らは筋層浸潤性膀胱癌において、
高 NLR が IL-6 や IL-8 の増加、TME での Treg 発現と相関することを報告している
(Morizawa et al.2018)。本研究では早期 CRP 変化と早期 NLR 変化の間に相関は認め
ず、互いに異なる機序の PTI を反映する可能性があることを示唆している。このこと
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からは PD1/PDL1 阻害薬治療により持続的な免疫応答を得るためには、早期 CRP 低下
と早期 NLR 低下の両方が必要であると考えられた。
PFS 予測についての c-index の結果からは、PTI index は、早期 CRP 変化量や早期
NLR 変化量を単独で評価するよりも有用である可能性が示唆された。また、PTI index
が高値であった患者群では PFS の中央値がわずか 2.5 ヶ月ときわめて臨床転機が悪い
群を抽出できる可能性があり、PD1/PD-L1 阻害薬に何らかの抗がん剤を追加すべき集
団を特定できる可能性がある。一方、OS 予測に関しては、早期 NLR 変化の c-index は、
PTI index と同等であり、早期 NLR 変化と PTI index を比較するさらなる研究が必要で
ある。
また、本研究における免疫チェックポイント阻害薬単剤治療の初回奏効までの中央
値は 13.4 週であり、既報(8.0~16.0 週)とも一致した。PD-1/PD-L1 阻害薬単剤治療で
は、治療開始早期の画像的な腫瘍の縮小や増大は PD-1/PD-L1 阻害薬治療に対する長
期的な腫瘍縮小効果の持続と関連しない場合がある(Fujimoto et al.2019)。このため、
PD-1/PD-L1 阻害薬治療開始後 6 週の時点で、早期 CRP 変化や早期 NLR 変化の指標を
活用し、長期的な臨床転帰を予測することが可能であるという結果は、今後の実地臨
床においても有用な本研究の新たな知見であると考えられる。
本研究にはいくつかの limitation がある。第一に、本研究は PD-1/PD-L1 阻害薬治療
開始から 6 週時点の CRP 変化と NLR 変化に着目しているため、PD-1/PD-L1 阻害薬治
療を、他の抗癌剤治療と比較して優先して実施するか否かの判断には寄与しない。第
二に、CRP と NLR は、感染症の存在、ステロイド使用や他の炎症を起こす合併症等、
PTI 以外の臨床状況によって影響を受ける可能性がある。第三に、本研究における CRP
変化と NLR 変化の最適なカットオフ値については、別のコホートでの validation 研究
が必要である。
【結語】
本研究は、早期 CRP 変化と早期 NLR 変化を統合して評価する手法を用いて、PD1/PD-L1 阻害薬単剤治療の持続的な奏効および長期生存が得られる非小細胞肺がん患
者を同定できる可能性を示した。前向きな validation 研究により、本研究の知見を確
認することが望まれる。
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