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大学・研究所にある論文を検索できる 「二水素錯体の固相水素吸着特性の評価と常温水素同位体H2/D2分離への応用」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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書き出し

二水素錯体の固相水素吸着特性の評価と常温水素同位体H2/D2分離への応用

内田, 海路 東北大学

2023.03.24

概要

博士論文

二水素錯体の固相水素吸着特性の評価と
常温水素同位体 H2/D2 分離への応用
Evaluation of Solid-State Adsorption Property of Metal-Dihydrogen Complexes
and Application to Room-Temperature H2/D2 Separation

内田海路
令和 4 年

二水素錯体の固相水素吸着特性の評価と常温水素同位体 H2/D2 分離への応用

内田 海路(指導教員

教授

坂本 良太)

[序論・目的]
環境問題やエネルギー資源の枯渇などへの懸念から、クリーンエネルギーを用いた社会
の構築が強く望まれている。そのような背景から、近年注目を集めているのが水素 H2 であ
る。水素 H2 は高いエネルギー密度を持ち、燃焼しても二酸化炭素を排出しないため、理想
的なクリーンエネルギーと言える。そのため、水素 H2 の効率的貯蔵・運搬・製造に関する
研究が盛んに行われている。また、水素の同位体も同様に注目を集めている。例えば重水素
D は、NMR 溶媒や半導体の高耐久化などに用いられているだけでなく、D-T(重水素―三
重水素)反応を利用した核融合炉の開発も進められている。三重水素 T については、原子
力発電所から発生したトリチウム水の処理が問題になっている。したがって、水素同位体も
含めた、多様な水素取り扱い技術の開発は重要な課題である。
水素取り扱い技術の一つとして盛んに研究されているのが水素吸着材料である。水素吸
着材料は物理吸着材料(MOFs、活性炭...)と化学吸着材料(ハイドライド、水素吸蔵合金...)
に大別されるが、物理吸着材料は常温で水素をほとんど吸着できず、化学吸着材料は常温で
水素を放出できないという欠点がある。この問題を解
決するため、我々は二水素錯体という物質群に着目し
た。二水素錯体は、水素分子 H2 が H-H 結合を切断す
ることなく金属と化学結合を形成してできる金属錯体
(図1、J. Am. Chem. Soc., 1984, 106, 451)であり、常
温・溶媒中において可逆的に H2 の配位と脱離が可能で
あることが知られている。したがって、二水素錯体を 図1 初めて報告された二水素錯体
用いることで常温水素吸着材料の開発が可能であると

[W(PiPr3)2(CO)3(η2-H2)]

期待される。しかし、これまで二水素錯体の固相における吸着特性を調べた研究は一例しか
なく(J. Phys. Chem. C, 2012, 116, 22245)、ほぼ未開拓な研究領域である。そこで本論文で
は、二水素錯体の水素吸着特性の解明とその応用を目的に、以下の3章構成で研究を行った。
第2章:6族金属錯体である[M(PCy3)2(CO)3] (M = Cr, Mo, W) (Organometallics, 1988, 7,
2429)の吸着測定・解析を行い、水素吸着の熱力学的特性を系統的に調査した。
第3章:水素吸着量の向上を目的に、二水素錯体の多孔性材料(シリカゲル、活性炭)への
担持・高圧水素の使用などを検討した。
(本発表では省略)
第4章:二水素錯体の固相水素吸着における同位体効果を調査した。また、二水素錯体が常
温で水素を可逆的に吸脱着できる特性を利用して、水素同位体 H2/D2 の常温カラ
ムクロマトグラフィー分離法の開発を行った。

[実験方法]
吸着測定に用いる[M(PCy3)2(CO)3]は、窒素錯体[M(PCy3)2(CO)3(N2)]を固相中で加熱
真空排気し窒素配位子を脱離させることで合成した。水素吸着測定は T = 273-423 K、P =
10−5-100 bar の温度・圧力範囲で行った。破過測定は共同研究先の北海道大学野呂研究室
の自作装置によって行った。
[結果と考察]
[Cr(PCy3)2(CO)3]の H2 吸着測定の結果を図2
に示した。吸脱着等温線は可逆的な Langmuir 型
であり、等量微分吸着熱 Qst が吸着量によらずほ
ぼ一定であったことから、各錯体は独立な吸着サ
イトとして機能していることを示唆している。H2
雰囲気下の in situ IR スペクトル測定で C≡O 伸
縮に変化が見られたことから、金属の電子状態の

Adsorbed amount / cm3(STP)g-1

7
6
5
4

303 K
313 K
333 K
343 K
353 K

3
2
1
0
0.0

0.2

変化すなわち二水素錯体の形成が確認できた。

0.4

0.6

0.8

1.0

Pressure / bar

吸着等温線を Langmuir の式を用いてフィッティ 図2 [Cr(PCy3)2(CO)3]の H2 吸着等温線
ングし、算出した吸着平衡定数の温度依存性から吸着における熱力学量の変化を算出した
結果が表1の赤い領域である。いずれの金属でも∆𝐻 ° = −50-60 kJ/mol 程度であり、常温水
素吸着に適した吸着エンタルピーを有することが確認できた。D2ガスを用いて同様の測定・
解析を行って算出した値を表1の青い領域に示した。D2 の吸着エンタルピーは H2 に比べて
有意に大きく、より吸着されやすいことが分かる。
表1.水素吸着における熱力学量。赤が H2、青が D2 のデータ。−𝑇∆𝑆 °は 298.15 K での値。
H2
°

∆𝐻 / kJ mol

-1

D2
°

−𝑇∆𝑆 / kJ mol

-1

°

∆𝐻 / kJ mol

-1

−𝑇∆𝑆 ° / kJ mol-1

Cr

−49.0

37.1

−52.4

38.8

Mo

−48.1

33.8

−53.3

37.5

W

−62.4

36.9

−65.6

38.7

次に H2/D2 混合ガスを用いて破過測定を行った結
果が図3である。H2 と D2 の吸着力の差を反映して、
カラムを通り抜ける時間(破過時間)に有意な差が
生じていることが分かる。したがって、常温付近で
非常に簡便に水素同位体の分離が可能であることを
実験的に実証することができた。 ...

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