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大学・研究所にある論文を検索できる 「エネルギー変換を担う金属錯体触媒の機能制御に関する研究」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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エネルギー変換を担う金属錯体触媒の機能制御に関する研究

相本, 雄太郎 AIMOTO, Yutaro アイモト, ユウタロウ 九州大学

2022.03.23

概要

化石燃料の枯渇や環境問題の深刻化に伴い、持続可能なエネルギー社会の実現が求められている。そのような背景のもと、様々なエネルギー変換技術の開発研究が行われており、中でも太陽光エネルギーを用いた水の完全分解反応(2H2O+4hν→2H2+O2)に大きな期待が寄せられている。このようなクリーンな水素製造技術を確立するためには、水の還元に基づく水素生成反応(2H++2e−→H2)、及び水の酸化に基づく酸素生成反応(2H2O→O2+4H++4e−)を高効率に促進する高活性触媒の開発が重要である。天然の光合成では、酸素発生複合体(OEC)が水から電子を取り出し高度な物質変換を達成している。他方、ヒドロゲナーゼ酵素は水素生成反応を低過電圧下でも高効率に促進することで知られる。重要なこととして、そのどちらの反応系においても活性中心内外への巧みな電子移動により高速な触媒反応が可能となっている。そこで、本博士論文では、水分解を駆動する金属錯体触媒の電子移動過程に焦点を当て、その精密な制御による高活性触媒の創出や反応機構の解明を目指し研究を展開した。

 第一章では、機能性配位子上で進行するプロトン共役電子移動(PCET)の制御に基づく水素生成錯体触媒の低過電圧化に成功した。具体的には、PCETを促進するためにπ共役系、並びに多数のプロトン受容部位を有する機能性配位子を基盤とする新規ニッケル錯体触媒([Ni(pypzdt)2]2−,[Ni(qdt)2]2−;図1)を合成し、その電気化学的水素生成触媒特性を評価した。興味深いことに、pH=9の水溶液において[Ni(pypzdt)2]2−および[Ni(qdt)2]2−は、それぞれ173mVおよび227mVという極めて低い過電圧下で水素生成を促進することを見出した。また、[Ni(pypzdt)2]2−の水溶液に対し印加過電圧280mVで定電位電解を行いそれにより生成した水素を定量したところ、ファラデー効率が97%、TONが1500と見積もられ、優れた水素生成触媒特性が示された。一方、配位子(pypzdtH2)のみの存在下で同様の定電位電解を行ったところ水素の生成は観測されず、触媒的な水素生成に対しニッケル中心が重要な役割を担うことが確認された。それぞれの錯体触媒に関してPourbaix図を作成したところ、共に1電子/1プロトン移動に基づく配位子中心PCET過程が水素生成のトリガーとなることを明らかにした(図1)。さらにその後続過程についてDFT計算を用い綿密に検討したところ、[Ni(pypzdt)2]2−は多段階の配位子中心PCETを経て水素生成の鍵反応中間種と考えられるニッケルヒドリド種を形成することが示された。

 第二章では、これまでに複数の研究者により異なる反応経路が提唱されているルテニウム錯体触媒[Ru(II)(terpy)(bpy)(OH2)]2+の酸素発生反応機構に着目した。特に本研究では、Ru(IV)=O反応中間種とセリウム(IV)酸化剤([Ce(IV)(NO3)6)]2−;CAN)が電子移動過程の前段階として内圏錯体を形成することを実験と計算化学の両面から実証した。まず、酸素発生が多段階反応過程であることからRu(IV)=O種の単離を試み、実際にその簡便な合成方法の確立に成功した。得られたRu(IV)=O種のアセトニトリル溶液に、1当量のCANを添加すると即座に反応が進行しオキソ架橋異核金属錯体[Ru(IV)(=O)(terpy)(bpy)][Ce(IV)(NO3)5(OH)]を単離した。化学組成は、MALDI-TOF-MS、EDX、元素分析により決定した。この化合物のIR測定を行ったところ、Ce(IV)との結合形成に基づき、Ru(IV)=Oの伸縮振動(793cm-1)よりも低波数側にRuIV-O-CeIVの逆対称伸縮振動に由来するピーク(774cm-1)が観測された。実際に、DFT計算による構造最適化を行った{[Ru(IV)(=O)(terpy)(bpy)][Ce(IV)(NO3)5]}+の振動解析計算結果(817cm-1)と良い一致を示した。さらに、この粉末試料の吸収スペクトルを測定したところ、600nm付近にブロードな吸収帯が観測された。TD-DFT計算から、この吸収は主としてRu(IV)-O結合のπ*軌道からCe(IV)の4f軌道への電荷移動(CT)遷移であると帰属された。他方、オキソ架橋を有さないイオン対(複塩)では、このようなCT遷移は見られないことがTD-DFT計算により示された。これらの結果は、図2に示すオキソ架橋内圏錯体の形成を強く支持している。次に、Ru(IV)=O種の室温及び低温(-40℃)における溶液内挙動をアセトニトリル中で詳細に検討した。まず、Ru(IV)=O種の吸収スペクトル変化を20℃で追跡したところ、溶解直後の数分はRu(IV)=O種由来の吸収が観測されるものの、数時間のタイムスケールで徐々にRu(II)種へと変化した。次に、-40℃で同様の実験をおこなったところ、20℃の時とは異なりRu(IV)=O種が安定に存在することを明らかにした。続いて、Ru(IV)=O種とCANを混合したところ、どちらの温度条件においても速やかに反応が進行し新たに600nm付近にブロードな吸収帯が出現した。次に、Ru(IV)=O溶液に対しCANの添加実験を行ったところ、CAN1当量に達するまで吸収スペクトルは大きな変化を示した一方で、さらなるCANの添加は吸収スペクトルに大きな変化を与えなかった。これらの結果から、溶液中においてもやはりRu(IV)=O種とCANは図2のような内圏錯体を形成することが強く示唆された。

 以上、本博士論文では、機能性配位子上で進行する特異な電子移動過程を巧みに制御することにより水素生成錯体触媒の過電圧を劇的に低下させることに成功した。また、分子性酸素発生触媒と酸化剤に基づく内圏錯体の単離に初めて成功し、反応溶液中においても実際に同様のオキソ架橋中間体を形成することを明らかにした。本研究の成果は、触媒反応の前駆段階として進行する錯体触媒への電子移動過程を錯体化学の見地から綿密に解き明かした前例のない研究であり、博士論文に十分値するものであると考えられる。

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