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大学・研究所にある論文を検索できる 「急性期病院から自宅へ退院する高齢者に対して行う退院直後の移行期支援の効果に関する研究」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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書き出し

急性期病院から自宅へ退院する高齢者に対して行う退院直後の移行期支援の効果に関する研究

角川, 由香 東京大学 DOI:10.15083/0002005141

2022.06.22

概要

序文
我が国では、急速な高齢者人口の増加や医療費高騰といった課題に対し、在院日数短縮化、病院機能の分化促進、在宅医療の推進等の施策をすすめている。このような状況下、高齢患者をはじめとするケアニーズの高い患者が、適切な時期に療養場所を移動し円滑に次の療養場所で生活を再開させるための移行期支援が求められている。しかし、現状、日本において移行期支援の多くは退院時をエンドポイントとした入院中の支援にとどまっている。療養場所を移動する前後の時期は、入院生活という安定した状況から退院後の生活再開に向けた変化の時期であり、治療を終え退院した直後に患者は様々なリスクに直面する。そのため移行期支援のうち、現在、国内では手薄となっている退院直後の継続的な移行期支援の取り組みは重要であると考え、本研究では、高齢入院患者が病院から自宅へ退院する際の退院直後の移行期支援の実施と、患者アウトカムとの関連を検証することを目的とした。

研究の流れ
本研究では、退院直後の移行期支援の内容抽出を目的としたインタビュー調査を【研究1】で、退院後の対処困難さ尺度:日本語版(J-PDCDS)の作成および信頼性・妥当性の検討を【研究2】で、退院直後の移行期支援実施と患者アウトカムとの関連検証を【研究3】で行なった。

【研究1】
急性期病院から自宅へ退院した直後の高齢患者に対し、退院直後の移行期支援に積極的に取り組んでいる臨床現場で行われている移行期支援の要素と支援目標を抽出するため、急性期病院で移行期支援に携わる退院支援看護師、地域関係職種、および患者・家族へインタビューを実施した。その結果、研究対象となった退院支援看護師が行っていた退院直後の移行期支援は<評価>と<支援>に分類され、<評価>は2つの要素から、<支援>は6つの要素から構成された。さらに、これらの移行期支援を受けたことによる「患者の反応・経験」、「患者に関わるケアチームの経験」および「支援の短期・長期目標」を時系列モデルとしてまとめ、本研究の仮説モデルとして以後の研究で参照した。さらに、退院支援看護師による退院直後の移行期支援の目標の1つとして抽出した【退院後に患者が直面する対処困難さの緩和】は、先行研究で示されているPost-dischargecoping difficultyの概念と近似していることを示した。

【研究2】
【研究1】で退院直後の移行期支援の目標の1つとして抽出した、患者の退院後の対処困難さに着目し、Post-dischargecoping difficultyを評価する尺度(PDCDS)、すなわち退院後の対処困難さ尺度:日本語版(以下、J-PDCDS)を作成し、その信頼性・妥当性を検討した。PDCDSは、米国の急性期病院から退院した患者の自宅での対処困難さを自己評価する質問項目群である。

原作者から日本語版作成の了承を得たうえでJ-PDCDSを作成した。信頼性・妥当性検討の調査対象は九州地方A市のB病院で、入院中の移行期支援を受け自宅退院する65歳以上患者とした。調査は、T1調査:退院時点、T2調査:退院約2週間後、T3調査:退院30日後の3回行った。T1調査では、患者の基本属性と入院中の移行期支援の内容を診療録から情報収集した。T2調査では、J-PDCDSを用いた患者の退院後の対処困難さ、退院後の療養生活適応に向けた患者の反応・経験、健康関連QOL、自己統御感覚、退院後に有している不安・困り事について自記式質問紙調査を行なった。T3調査では、退院後30日時点までのヘルスケア利用状況と自宅療養の継続について患者への聞き取りと診療録調査から情報収集した。

121名の調査対象者から同意が得られ、最終分析対象者は101名であった。J-PDCDSのCronbachのα係数は0.915であった。併存的妥当性では、退院後の療養生活への適応に向けた患者の反応・経験合計得点との相関係数は0.664(p<0.001)、健康関連QOLのうち身体側面および精神側面サマリースコアとの相関係数はそれぞれ-0.722(p<0.001)、-0.682(p<0.001)、退院後の不安・困り事合計得点との相関係数は-0.819(p<0.001)、自己統御感覚合計得点との相関係数は0.305(p=0.006)であった。退院後の療養に対し大変さを感じている者はそうでない者に比べて、J-PDCDSが有意に高かった(p<0.001)。予測的妥当性としては、退院30日後までに再入院した者はそうでない者に比べて、J-PDCDSが有意に高かった(p<0.001)。退院後30日時点までの再入院を判別するJ-PDCDSをROC曲線により導いた結果、AUCは0.94(95%信頼区間:0.885–0.996)で統計学的に有意な判別能を示し(p<0.001)、カットオフ値57点での感度は91.7%、特異度は81.6%であった。因子妥当性では、10項目1因子モデルの確証的因子分析の結果、適合的指標は統計学的な許容基準を満たさなかった。以上の結果から、作成したJ-PDCDSは一定の信頼性・妥当性を確保したと考える。

【研究3】
退院直後の移行期支援を受けた患者はそうでない患者に比べて、①退院後2週間時点での対処困難さが低い、②退院30日時点で自宅療養を継続している者が多いという仮説に従い、退院直後の移行期支援とアウトカムとの関連を検証した。

方法は、【研究2】と同様である。加えて、研究対象患者の入院中の移行期支援を担当した退院支援看護師を対象とした。データ収集は、【研究2】での収集項目に次を加えた。T1調査では入院中の移行期支援に対する満足度、退院準備状況を患者に対し自記式質問紙で尋ねた。T2調査では、退院支援看護師自身の基本属性および対象患者に対する退院直後の移行期支援内容を尋ねた。分析対象は、【研究2】と同様の101名である。

退院後の対処困難さを従属変数とし、独立変数を退院直後の移行期支援実施、対象患者の基本情報および患者の退院準備状況とした重回帰分析(強制投入法)により、「退院直後の移行期支援実施」と「退院後の対処困難さ」との関連を評価した結果、患者の退院後の対処困難さは、退院直後の移行期支援実施(標準回帰係数=-0.397,p<0.000)と負の関連があった。他に、介護上の課題を有していること(標準回帰係数=0.150,p=0.049)、退院時の課題として身体介護ニーズがある(標準化回帰係数=0.217,p=0.022)、生活介護ニーズがある(標準回帰係数=0.232,p=0.006)、精神症状への対応ニーズがある(標準回帰係数=0.172,p=0.027)ことと、正の関連があり、患者の退院準備状況(標準回帰係数=-0.499,p<0.000)と負の関連があった。

次に、退院後30日時点の自宅療養の継続有無を従属変数とし、ロジスティック回帰分析を行なった。その際、モデル1として独立変数に対象患者の基本情報、患者の退院準備状況および退院直後の移行期支援実施有無を、モデル2としてモデル1の独立変数に加え退院後の対処困難さを加えた結果、退院後30日時点での自宅療養の継続には、患者の退院準備状況(オッズ比1.040;95%信頼区間:1.010-1.071)と退院直後の移行期支援の実施(同10.287;同:2.019-52.400)が正に関連していたが、退院後の対処困難さを追加投入するとこれら2変数の有意性は消失し、退院後の対処困難さ(同0.885;同:0.821-0.953)のみが、負の関連として残った。

考察
本研究は、急性期病院から自宅へ退院した高齢者に対する退院直後の移行期支援が、患者の退院後の対処困難さを軽減し、退院後30日時点での自宅療養の継続に寄与する可能性を示した。退院直後の移行期支援が、上記の結果を示したことについて次の要点が考えられた。

1)退院直後の移行期支援は、退院後に生じうる課題に対する新たな戦略である
入院中に行う移行期支援は、退院後の患者のニーズや課題を予測し必要な資源を調整・準備する。しかし、在院日数短縮化や複雑な対応ニーズを有する患者の増加に伴い、入院中は予測できなかったニーズや課題が退院後に出現する可能性は高い。このような患者に対し、入院中からの経過を知っている病院の専門職が適切にフォローアップを行うこと、つまり退院直後の移行期支援を実施することは、患者の移行をよりよくする新たな戦略として、位置付けることが可能と考える。

2)退院直後の移行期支援は「退院後の対処困難さ」という患者の経験に作用する
本研究において退院支援看護師が行なっていた退院直後の移行期支援は、退院後に患者が直面する対処困難さという経験に働きかけることで療養生活に向けた患者の主体的行動を促し、結果として自宅療養の継続という患者にとって良好なアウトカムの達成に寄与していた可能性がある。

結論
本研究では、高齢者に対する退院直後の移行期支援の実施と退院後アウトカムとの関連を明らかにするため、インタビュー調査、尺度作成および前向き観察調査を行い以下の結果を得た。

1.急性期病院の退院支援看護師が実践している退院直後の移行期支援の要素を抽出し、支援の実施と患者アウトカムとの関連を示す仮説モデルを示した
2.退院後の対処困難さ尺度:日本語版(J-PDCDS)を作成し、一定の信頼性・妥当性を確保した
3.退院直後の移行期支援を受けた患者はそうでない患者に比べ、退院後2週間時点での対処困難さが低く、退院後30日時点で自宅療養を継続しているという可能性を示した

今後、より良質な退院直後の移行期支援内容を検討し、評価を重ねる必要がある。

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