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絶滅した長頸竜類の遊泳性能に関する研究

松岡, 晃史 MATSUOKA, Koji マツオカ, コウジ 九州大学

2020.03.23

概要

長頸竜類は三畳紀・ジュラ紀・白亜紀に生息した水棲爬虫類である.長頸竜類はこの時代に地球の各地に生息していたが,白亜紀末には絶滅したと考えられている.この絶滅した長頸竜類の遊泳性能を解明すべく,古生物学者たちは努力を重ねてきた.彼らの主なアプローチは,化石を発掘し,その形状から遊泳性能さらには捕食活動を推定するものである.この科学的なアプローチは長頸竜類の遊泳性能をある程度解明しつつあるが,流体工学的・制御工学的な裏付けに乏しいと言える.

船舶海洋工学分野では,海中を航走する水中ビークルの開発が進められており,この開発には流 体工学的・制御工学的アプローチが用いられている.このアプローチでは,まず CFD(Computational Fluid Dynamics)により,水中ビークルに働く流体力が計算され,運動方程式を構成する各種流体力係数が導出される.次に運動方程式を数値積分することにより水中ビークルの運動が計算される.運動方程式(数学モデル)はモデルベースの制御器の設計にも使用される.計算で得られた運動性能を検討した結果がビークル設計にフィードバックされる.この流体工学的・制御工学的アプローチにより,化石の形状から推定された長頸竜類の遊泳性能を裏付ける.

本研究では代表的な長頸竜類として,Hydrotherosaurus と Stenorhynchosaurus を取り上げ,流体工学的・制御工学的アプローチにより遊泳性能の違いを解明する.前者は小さな頭部や歯と長い頸部を特徴とし,後者は大きな頭部や丈夫な歯と短い頸部を特徴とする.これらの長頸竜類は化石の解釈から捕食活動が異なり,それに伴って遊泳性能が異なっていたとされている.頸の長い Hydrotherosaurus は水中をあまり鰭を動かさずに滑空して遊泳し,海底に達した時に貝類などを口ですくい取って捕食したと考えられている.頸の短い Stenorhynchosaurus は水中で鰭を大きく頻繁に動かして遊泳し,魚などの水中の他の生物を追いかけて捕食したと考えられている.この二種類の遊泳性能の違いを流体工学的・制御工学的アプローチにより裏付ける.長頸竜類は化石の形状から,頸部の骨ががっちりとかみ合っていて,頸部をまっすぐに保っていたと考えられ,胴体部分も大きく曲がらなかったと思われる.従って,研究では長頸竜類を剛体として取り扱うことにする.

長頸竜類の遊泳の形態は明らかになっていない.そこで推進段階,移行段階,縦方向滑空段階, 旋回滑空段階の四つからなる遊泳の形態を考え,流体力計算と遊泳シミュレーションを行う.推進段階では,長頸竜類が鰭を大きく動かすことで,前進速度を得る.移行段階は,推進段階で前進速度を得た後に鰭を使って姿勢を変更することにより安定的な滑空遊泳に至る段階である.縦方向滑空段階と旋回滑空段階では,鰭を使って姿勢制御し安定的な滑空を行う.各段階について運動シミュレーションを行って遊泳性能を議論する.

本論文は,流体工学的・制御工学的アプローチを用いて,化石から推定された長頸竜類の遊泳性能を精緻に裏付けることを目的とする.論文は 7 章で構成されており,内容は以下のとおりである.

第 1 章は緒言であり論文の背景と目的および論文の構成を説明している.研究対象とした長頸竜類である Hydrotherosaurus と Stenorhynchosaurus の標本骨格や化石発掘風景を示すことにより,外見上の違いから推定されている捕食活動・遊泳性能の違いを説明する.また,これらの長頸竜類の剛体へのモデル化を説明し,モデルの主要目を示している.加えて,長頸竜類の遊泳の裏付けに用いる流体工学的・制御工学的アプローチを説明している.本章の最後に本論文の構成を示した.

第 2 章では,長頸竜類モデルの滑空遊泳シミュレーションに必要な運動方程式を示した.運動方程式を数値積分することで運動シミュレーションが可能となる.長頸竜類は化石で残された骨の形状から頸や胴体が大きくは曲がらなかったとわかっているので,頸や胴体は剛体とみなすことを第 1 章に示したが,鰭についても剛体の 3 次元翼に近似した.前後・左右の鰭 4 枚を動かし,水中重量を調節することで,長頸竜類モデルを遊泳させる.構築した長頸竜類の運動方程式は水中ビークルや航空機の運動方程式を基にはしているが,異なる特徴は,縦方向運動だけでなく旋回などの横方向運動も方向舵を使用せず 4 枚の鰭(動翼)で制御していることである.

第 3 章では,運動方程式に含まれる抵抗係数・揚力係数や付加質量係数などの流体力係数を求めるための CFD による流体力計算方法や流体力計算結果から流体力係数を求める方法を説明し,得られた流体力係数の値を示した.計算結果の安定性はメッシュ分割数を変更して計算することにより検討し,計算時間の短縮を考慮して分割数を決定した.乱流モデルが計算結果に及ぼす影響も検討し,計算精度と計算時間短縮の両面から採用する乱流モデルを決定した.計算された流体力係数の一部は模型を使用して曳航水槽で計測された流体力係数の値と比較することにより,精度が良好であることを確認した.最後に,得られた流体力係数を比較することにより長頸竜類の頸の長さが流体力係数に及ぼす影響を明らかにした.

第 4 章では,縦方向滑空段階と旋回滑空段階の運動シミュレーション結果を示した.滑空の静安定性と動安定性を調査し,頸の長い Hydrotherosaurus は縦方向に静安定・動安定であるが横方向には静安定も動安定も無いこと,頸の短い Stenorhynchosaurus は縦方向にも横方向にも静安定・動安定が無いことを示した.静安定・動安定が無いことは鰭による運動制御が行いやすいこと(小回りの利く運動が可能であること)を示唆している.次に,平衡滑空状態を計算し,これを初期状態として,PID 制御器と LQI 制御器による鰭を使った縦方向の姿勢制御性能を検討し,生物と同様の運動制御と考えられる多入力多出力系の LQI 制御が運動制御性能に優れていること, 頸の長い Hydrotherosaurus の方が滑空比が大きく滑空に適した形状であることを示した.さらに鰭による旋回を LQI 制御器により行い,頸の短い Stenorhynchosaurus のほうが小さな旋回半径で旋回できることを明らかにした.運動の安定性や縦方向運動性能・旋回性能を検討した結果,化石の形状から推定された捕食活動(頸が長く頭骨や歯の小さい Hydrotherosaurus は海底まで滑空して海底の貝などをすくい取って捕食し,頸が短く頭骨や歯が大きい Stenorhynchosaurus は機敏に動き回って魚を捕食していた)が流体工学的・制御工学的に裏付けられた.

第 5 章では,長頸竜類が鰭を動かして前進速度を得るまでの推進段階を議論した.CFD を用いて鰭を動かした状態の流体力計算を行い,長頸竜類が鰭を動かすことで得た前進速度を計算した.これにより,鰭のはばたきや鰭軸まわりの回転,二つの運動の周期や位相が前進速度に与える影響を明らかにし,長頸竜類がカメなどの現存生物と同様の鰭の運動周期範囲で速度 2 m/s を実現することが可能であることを示した.この速度は現存する体長が同程度のクジラの速度と同じである.

第 6 章では,移行段階のシミュレーションを行い,推進段階から滑空遊泳段階に至るまでの過程をシミュレーションした.鰭による前進速度を得た状態を初期状態として,鰭により速度・姿勢を LQI 制御器で制御することで,移行段階の滑空遊泳を議論している.初期速度が速い(2 m/s 程度)場合は頸の長さにかかわらず速度 2 m/s の安定した滑空状態に移行できること,初期速度が遅い(1 m/s 程度)場合は頸が長い Hydrotherosaurus は速度 2 m/s の安定した滑空状態に移行できるが頸の短い Stenorhynchosaurus は移行できないことがわかった.これは頸の長い長頸竜類は縦方向の滑空が得意であることを裏付けている.

第 7 章では本研究で得られた知見を総括し,本論文の結論とした.

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参考文献

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