炭酸アパタイト人工骨中の炭酸基含有量が骨置換に及ぼす影響
概要
九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
Effects of the carbonate content in carbonate
apatite on bone replacement
出口, 佳愛
https://hdl.handle.net/2324/6787522
出版情報:Kyushu University, 2022, 博士(歯学), 課程博士
バージョン:
権利関係:Public access to the fulltext file is restricted for unavoidable reason (2)
(様式3)
氏
名 :出口 佳愛
論 文 名 :Effects of the carbonate content in carbonate apatite on bone replacement
(炭酸アパタイト人工骨中の炭酸基含有量が骨置換に及ぼす影響)
区 分 :甲
論 文 内 容 の 要 旨
典型的な人工骨である焼結体ハイドロキシアパタイト人工骨(HAp)は骨伝導性を示す
が、生体内で吸収されず、新しい骨には置換されない。一方、骨組成である炭酸アパタイ
ト人工骨(CO3Ap)は、HAp と比較して骨伝導性が圧倒的に高く、骨リモデリングに調和し
て新しい骨に置換される。両者の差異の一つはアパタイト構造中に炭酸基が存在すること
である。現在臨床応用されている CO3Ap は炭酸カルシウムを前駆体としてリン酸塩水溶液
中での溶解析出反応による組成変換を行っており、CO3Ap 中の炭酸基含有量は炭酸カルシウ
ムが有する炭酸イオンに依存するため、炭酸基含有量は制御できない。そのため、炭酸基
含有量と骨置換の関連性は評価できていなかった。そこで本研究では、炭酸基含有量の異
なる CO3Ap 調製の可否および炭酸基含有量が CO3Ap の骨置換性に及ぼす影響を検討した。
CO3Ap 顆粒は、炭酸基を含まないカルシウム塩である石膏を前駆体とし、炭酸イオン濃度
が異なるリン酸-炭酸塩混合水溶液に 100℃の条件下で 72 時間浸漬し、溶解析出反応によ
り調製を行った。調製した顆粒の組成解析は粉末 X 線回折、フーリエ変換赤外分光法およ
び CHN 元素分析により行った。その結果、水溶液中の炭酸イオン濃度に関わらず、前駆体
である石膏が CO3Ap に組成変換すること、反応溶液中の炭酸イオン濃度の増大に伴い、炭
酸基含有量が高い CO3Ap 顆粒を調製できることがわかった。この CO3Ap 顆粒を、破骨細胞の
ハウシップ窩を模倣した pH 5.5 の 0.08 mol/L 酢酸緩衝溶液に浸漬したところ、炭酸基含
有量の増大に伴い CO3Ap 顆粒の溶解速度が増大することが明らかになった。この結果か
ら、炭酸基含有量の増大に伴い CO3Ap の破骨細胞性吸収が促進される可能性が示された。
そこで、18 週齢の日本家兎大腿骨遠位端に骨欠損を作製し、炭酸基含有量の異なる
CO3Ap 顆粒を埋入し、その生体内挙動をマイクロ CT および病理組織学的検索により評価し
た。埋入 4 週目では、炭酸基含有量に関わらず CO3Ap 顆粒周囲に豊富な血管新生および新
生骨形成が認められた。一方、埋入 8 週目では、CO3Ap 中の炭酸基含有量が高いほど、顆粒
の形態が不明瞭になり、埋入部には新生骨と骨髄組織が充満し、より生体骨に近い構造を
呈した。また、CO3Ap 中の炭酸基含有量が高いほど、CO3Ap 顆粒周囲の破骨細胞の数が多
く、CO3Ap 顆粒の吸収が促進されていた。
以上の結果から、CO3Ap 中の炭酸基含有量の増大に伴い、破骨細胞性吸収が促進され、そ
れに伴い骨置換が加速することがすることで、骨のリモデリングに影響を及ぼしているこ
とが示唆された。