iPS 細胞由来顆粒球の産生を促進する化合物の探索
概要
[課程-2]
審査の結果の要旨
氏名日野 俊哉
本研究は当研究室で作成した iPS 細胞由来顆粒球前駆細胞において、4 日間で好中球へと
分化することを過去に報告しているが、臨床応用につなげるには分化に要する期間をさら
に短縮することが重要であると考え、終末分化の表面抗原である CD16b を指標とした化合
物スクリーニングを行い、分化期間の短縮に寄与する化合物の同定を試みたものであり、下
記の結果を得ている。
1.1885 種類の既知薬理活性試薬を用いて化合物でスクリーニングを行い、MK-2206
dihydrochloride (MK-2206)、Scriptaid、AP26113 添加条件下で分化誘導 72 時間後の iPS
細胞由来顆粒球前駆細胞の CD16b の早期発現量および形態学的にコントロールと同様
の分化した好中球が認められた。
2.上記3種類の化合物を加えて分化誘導を行った iPS 細胞由来顆粒球前駆細胞について、
Oxidative Burst 機能は Scriptaid 添加時にコントロールと比較して有意に低下を認め、表
面抗原 CD11b の発現は MK-2206 および Scriptaid 添加時にコントロールと比較して早
期発現を認めたため、MK-2206 を候補としてさらに解析を進めた。
3.MK-2206 は AKT 阻害剤として既知薬理活性が知られているため、別の AKT 阻害剤で
ある GSK690693 を添加し分化誘導を行ったところ、CD16b の早期発現が認められた。
また、AKT pathway の下流として知られる mTOR および S6K の阻害剤を用いて分化誘
導を行ったが、CD16b の早期発現は認められなかった。
4.さらに解析を行ったところ、MK-2206 を加えて分化誘導を行った iPS 細胞由来顆粒球
前駆細胞では貪食能の早期獲得が認められ、また、貪食に関わる表面抗原である CD32a
や CD35、および走化性に関わる表面抗原である FPR1 や CXCR1 の発現がコントロー
ルと比較して早期に発現が認められた。しかし、走化性および E.coli に対する殺菌能に
ついては、早期獲得は認められなかった。
以上、当研究室で作成した iPS 細胞由来顆粒球前駆細胞の好中球分化において、化合物ス
クリーニングにより、MK-2206 が貪食能や走化性に関わる表面抗原の早期獲得および貪食
能の早期獲得に寄与することを示した。走化性および E.coli に対する殺菌能については、
早期獲得は認められなかったが、MK-2206 添加による分化促進と機能低下に関わる因子を
明らかにすることで、その点を克服できる可能性があり、iPS 細胞由来顆粒球前駆細胞を
用いた顆粒球輸注療法の臨床応用に貢献を成すと考えられる。
よって本論文は博士( 医 学 )の学位請求論文として合格と認められる。