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大学・研究所にある論文を検索できる 「Outcomes and predictors of cardiac events in medically treated patients with atrial functional mitral regurgitation」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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Outcomes and predictors of cardiac events in medically treated patients with atrial functional mitral regurgitation

Kim, Kitae 京都大学 DOI:10.14989/doctor.r13420

2021.05.24

概要

【背景】
僧帽弁閉鎖不全症(mitral regurgitation, MR)のうち、僧帽弁複合体に器質的異常がないものは機能性MR(functional MR, FMR)と呼ばれ一般的には左室収縮能低下と左室拡大により生じた乳頭筋の偏位と弁葉の牽引(テザリング)が原因とされている。一方、左室収縮能低下や左室拡大がなくとも、主に心房細動で左房が拡大することにより弁輪が拡大し、機能性MRが生じることが知られており、心房性機能性僧帽弁閉鎖不全症(atrial FMR)と言われている[1-4]。一次性MRや左室収縮能低下によるFMRと異なり、atrial FMRの予後に関するデータは非常に少ない。過去の報告で、高度のatrial FMRに対する僧帽弁形成術によるMRの制御と良好な中期的予後が報告されているが[5]、内科的に治療されたatrial FMR患者の予後や、心臓イベントの予測因子についての報告は非常に少ない。

【方法】
当院にて2011年7月から2018年12月までに、経胸壁心エコー図で3+以上のMRと診断された患者1405例を後方視的に検討した。僧帽弁手術後(n=63)、先天性心疾患(n=36)、肥大型心筋症(n=48)、高度の大動脈弁疾患(n=102)は除外した。僧帽弁複合体に器質的異常のある一次性MRの患者を抽出し、残りの機能性MRのうち、左室駆出率50%未満、もしくは左室駆出率50%以上だが左室局所壁運動異常を認めるものを左室収縮能低下によるFMRと定義し、atrial FMRは左室壁運動異常がなく、かつ左室拡大(左室拡張末期容積係数>74ml/m2[男性]、>61ml/m2[女性])がない症例と定義した。いずれの群においても、内科的に治療された症例の予後を検討するため、診断後3か月以内に手術を行った症例は除外した。結果として、一次性MR319例、左室収縮能低下によるFMR395例、atrialFMR184例を解析対象とした。

【結果】
観察期間の中央値は1030日(四分位範囲328-1909日)であった。3年時点での全死亡の累積発生割合は、一次性MR10.3%、左室収縮能低下によるFMR25.1%、atrialFMR16.6%であった。また、3年時点での心臓死もしくは心不全入院の累積発生割合は、一次性MR10.5%、左室収縮能低下によるFMR37.5%、atrialFMR14.0%であった。経過中に、一次性MR65例、左室収縮能低下によるFMR10例、atrialFMR9例が僧帽弁手術を受けた。僧帽弁手術を受けた全ての患者を除外した後も、atrial FMRにおける予後は、左室収縮能低下によるFMRより良く、一次性MRより悪かった。

Atrial FMR群184例の平均年齢は75.9±10.9年、59%が女性であった。平均の左房容積係数は74.9±39.8ml/m2、僧帽弁輪径は31.3±4.0mm、僧帽弁輪面積は960±192mm2、テンティング高は3.58±1.28mmであった。心臓死もしくは心不全入院が発生した患者は29例で、それらのイベントがなかった患者と比較して、持続性心房細動、症候性(NYHA≥2)、併存疾患(冠動脈疾患、末梢血管疾患、脳血管疾患、透析、肝疾患、慢性呼吸器疾患、活動性がん)の存在の割合、左室拡張末期容積係数、左房容積係数が有意に大きく、左室駆出率は有意に低かった。多変量コックス回帰分析において、左室拡張末期容積係数(ハザード比[HR]1.06,95%信頼区間[CI]1.02–1.10)、高度MR(4+)(HR2.73,95%CI1.21–6.12)、症侯性(NYHA≥2)(HR2.82,95%CI1.15–6.92)、併存疾患の存在(HR3.96,95%CI1.74–9.00)が、心臓死もしくは心不全入院の独立したリスク因子であった。

【考察】
本研究の主要な結果は以下の通りである。1)Atrial FMRは全ての原因のMRのうち約15%を占めた、2)Atrial FMRの予後は、左室収縮能低下によるFMRより良く、一次性MRより悪かった、3)左室拡大、高度MR、症候性であること、併存疾患の存在は、心臓イベントの独立したリスク因子であった。

最近のMRの原因と予後の関係を検討したコホート研究では、左室リモデリングがないか軽度であるが、左房リモデリングが高度であるFMR(atrial FMRに相当する)は全体の27%(194例/727例)を占めたと報告されている[6]。Atrial FMRの割合の本研究との違いは、左室収縮能低下や左室拡大のカットオフ値の違いによるものが考えられる。

前出のコホート研究においては、5年時点での心不全の累積発生割合は、左室リモデリングを伴うFMRで最も高く(83%)、次いで左房リモデリングが主体のFMR(59%)、器質性MR(40%)であった[6]。本研究の結果は、atrial FMRの予後が左室収縮能低下によるFMRより良く、一次性MRより悪かったという点において、過去の報告と一致している。一方、過去の心不全患者を対象とした報告においては、中等度以上のMRを合併する左室駆出率の保たれた患者において、全死亡もしくは心不全入院の累積発生割合は約30%である[7]。また左室駆出率の保たれた、心房細動を合併する心不全患者を対象とした報告では、有意やMRの残存がその後の予後不良と関連することが報告されている[8]。本研究における累積イベント割合はこれらの報告よりやや低いが、これは患者背景の違いにより説明可能と思われる。本研究においては、心不全患者のみならず、心房細動のカテーテルアブレーション目的に紹介された心不全症状のない患者も含まれており、累積イベント割合の違いが生じているものと考えられる。

本研究では併存疾患の存在が心臓イベントの発生と関連していることが示されたが、これは左室駆出率の保たれた心不全患者を対象とした過去の報告と一致しており[9]、atrial FMRと左室駆出率の保たれた心不全の類似性を示唆する。Atrial FMRの患者には様々な拡張能障害や併存疾患を持つ患者が含まれており、左室収縮能低下によるFMRと比較して、不均一な病態である考えられる。

本研究においては、左室拡張末期容積係数は心臓イベント発生の予測因子であった。左室拡大は、一次性MR、虚血性心筋症や拡張型心筋症においても、臨床的な転帰と有意に関連することが報告されている[10-12]。Atrial FMRは、通常左室駆出率や左室容量は正常範囲内であるが[3]、いくつかの報告では、MRのない症例と比較して軽度の左室拡大を認めている[4,7]。本研究では、atrial FMRの診断を明確にするため、有意な左室拡大例(左室拡張末期容積係数>74ml/m2[男性]、>61ml/m2[女性])は、atrial FMR群から除外されているが、atrial FMRにおいても慢性的な容量負荷によって左室拡大は生じうる。本研究においては、有意な左室拡大の診断基準は満たさないものの、経年的に左室拡大を来たしうる軽度の左室拡大例は含まれており、atrial FMRにおいては、軽度の左室拡大も臨床的な転帰に影響する可能性がある。

atrial FMR患者において、心臓イベントの発生は比較的多く、ハイリスク患者においては、僧帽弁手術や僧帽弁に対するカテーテル治療を考慮する必要がある。本研究において、診断後3か月以内に僧帽弁手術を施行したatrial FMRの患者9例においては、術後にMRが再発した2例を除いて心臓イベントの発生は認めなかった。僧帽弁手術が予後に与える影響は、サンプルサイズが小さく、統計学的な有意差を認めなかった。僧帽弁手術や僧帽弁に対するカテーテル治療がatrial FMR患者の予後改善に寄与するかどうかについては、今後の研究が必要である。

【結論】
内科的に治療されたatrial FMR患者の予後は、左室収縮能低下によるFMRより良く、一次性MRより悪かった。atrial FMR患者において、左室拡大、高度MR、症候性であること、併存疾患の存在は、心臓イベントの独立したリスク因子であった。