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大学・研究所にある論文を検索できる 「Prognostic impact of mitral L-wave in patients with hypertrophic cardiomyopathy without risk factors for sudden cardiac death」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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Prognostic impact of mitral L-wave in patients with hypertrophic cardiomyopathy without risk factors for sudden cardiac death

Sugiura, Yuki 杉浦, 由規 名古屋大学

2020.11.10

概要

【緒言】
 重度の拡張機能障害を伴う肥大型心筋症(HCM)は致死性不整脈に関連する心不全、心臓突然死(SCD)の原因となる。HCM 患者においては様々な SCD リスク因子が報告されているが、過去の研究より SCD のリスク因子を持たないか又はリスクが低い HCM 患者においても SCD は発症することがあると報告がされている。それゆえ心臓イベントリスクを低減するために、無症候性の段階において HCM の潜在的な心筋障害を有する患者を層別化することが重要である。拡張中期経僧帽弁流入速波形(僧帽弁 L 波)は経胸壁心臓超音波検査において経僧帽弁左室流入血流速波形の拡張中期血流としてドップラーで認められ、僧帽弁 L 波は心臓超音波検査における左心室コンプライアンスの指標であり、非侵襲的に評価できる高度拡張機能障害の指標の一つとされている。今回我々は SCD のリスク因子を持たない HCM 患者における心臓イベント予測因子としての僧帽弁 L 波の有用性を検討した。

【方法】
 我々は 2005 年 7 月から 2016 年 2 月の期間に HCM と診断された 112 名のうち、SCDリスク因子を持たない 96 名を登録した。HCM の定義は左室心筋肥大を引き起こす他の心疾患や全身性疾患を除外した最大左室壁厚が 15mm 以上の心筋肥大を有する患者とし、SCD リスク因子は(1)非持続性心室頻拍の既往、(2)最大左室壁厚が 30mm 以上、 (3)原因不明の失神歴がある、(4)運動時の異常な血圧応答、(5)SCD の家族歴があることと定義した。僧帽弁 L 波の再現性を確保するために複数回心臓超音波検査にて僧帽弁 L 波が確認できなかった 3 名の患者を除外した後、93 名の中で僧帽弁 L 波の有無により、Group L(+)(僧帽弁 L 波を有する)および Group L(-)(僧帽弁L波を有しない)の 2 つのグループに分類、その後の心臓イベント[心臓突然死、致死性不整脈(心室頻拍、心室細動)発症]との関連を検討した。
 すべての患者には血液検査、経胸壁心臓超音波、心臓カテーテル検査を行った。経胸壁心臓超音波検査はアメリカ心エコー図学会の測定項目に従い、僧帽弁 L 波は心尖部からパルスドップラーで確認される 0.2m/s 以上のピーク速度を有する拡張中期の経僧帽弁左室流入血流波速形を陽性とした。代表的な経僧帽弁左室流入血流速波形を Figure 1 に示す。

【結果】
 最初に登録された HCM 患者 112 名の平均年齢は 58.5±13.1 歳で 32.1%が女性であった。SCD リスク因子を有する群では左房径の拡大を認めたがその他の項目で有意差は認めなかった(Table 1)。複数回の心臓超音波検査が未施行な 3 名の患者を除き、 SCD リスク因子を持たない 93 名の HCM 患者における患者背景、採血結果を Table 2に示す。僧帽弁L波は 14 名(15.1%)(GroupL(+))に認め、GroupL(+)では有意に心拍数が低く、β受容体遮断薬、カルシウム拮抗薬を内服している割合、脳性ナトリウム利尿ポリペプチド(BNP)値が高値であった。また心臓超音波検査において E/A 比が有意に GroupL(+)で高かったが、他の計測では差を認めなった。心臓カテーテル検査では平均肺動脈楔入圧(PAWP)、平均肺動脈圧(mPAP)が Gourp L(+)で高く、心係数は低い傾向を認めた。心筋生検検体(n=69)による病理学的な検討では、心筋線維化率(CVF)に関して両群間に有意な差を認めなかった( Group L(-):n=60; median,11.0% [range8.0-19.0%], GroupL(+):n=9; median, 9.0% [range4.0-14.5%], P=0.441)(Table 3)。追跡期間中[4.7(2.9-7.5)年]、最初に登録した 112 名では SCD リスク因子を有する群で心イベント発生率が有意に高く(P<0.001, Figure 2)、リスク因子を 1 つも有しない 93 名での検討では、7 例の心臓イベント(心臓突然死:2 名、致死性不整脈:5 名)が発生し、イベント発生率が Group L(+)で Group L(-)よりも有意に高いことが示された(log-rank P = 0.002)(Figure 3)。さらに心イベントに関連をする因子での多変量解析において L波の有無は心臓イベントの独立した予測因子であった。(Table 4)

【考察】
 SCD リスク因子を持たない HCM 患者での SCD 予測に関しては、今日まであまり検討がされてこなかったが、我々の研究では僧帽弁 L 波の存在は SCD 発症と独立した関連があることが示された。一般的に SCD は HCM 患者の臨床経過において最も重要な合併症と考えられている。これまでの研究では HCM 患者全体の年間死亡率は 0.53- 1.3%で、複数の SCD リスク因子を有する場合は心臓イベント発生率が高く(1.3-5.0%/年)、SCD のリスクが低くても年間死亡率は 0.53-0.6%と報告されている。我々の研究でも SCD の割合は 0.46%/年と以前の報告に近い結果で、SCD リスク因子を有しない HCM 患者においても一定の確率で SCD を発症することが確認された。
 僧帽弁 L 波が発生するメカニズムは左室弛緩の遅延と左房圧の上昇であり、これらにより拡張中期に左房左室間に圧力勾配が生じ拡張中期血流が発生すると考えられている。拡張中期血流は非侵襲的に評価できる拡張機能不全の指標であり、拡張障害の評価に適している。本研究では心臓超音波検査、心臓カテーテル検査において Dct、 E/e’比、LVEDP、LVdP/dtmin、T1/2 には差を認めないものの、Group L(-)と比較し Group L(+)は BNP と E/A 比が有意に高く、PAWP、mPAP は高い傾向、CI は低い傾向を示した 。これらの結果は僧帽弁 L 波の存在が心臓過負荷を意味し、多変量解析の結果より、 SCD のリスク因子を持たない HCM 患者においてでも僧帽弁L波の同定はリスク階層化に有用となり得る事を示した。

【結語】
 肥大型心筋症における僧帽弁L波の出現は低侵襲な検査で評価可能な拡張障害指標であり、その後の心臓イベント予測に有用であることが明らかとなった。たとえ心臓突然死のリスク因子を1つも有しない場合であっても肥大型心筋症患者のその後の突然死発症予測に僧帽弁L波の存在を評価することは重要である。