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結晶化促進剤を添加したシリケートガラスの結晶化挙動に関する研究

梶原, 貴人 KAJIHARA, Takato カジハラ, タカト 九州大学

2023.12.31

概要

九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository

結晶化促進剤を添加したシリケートガラスの結晶化
挙動に関する研究
梶原, 貴人

https://hdl.handle.net/2324/7165097
出版情報:Kyushu University, 2023, 博士(工学), 課程博士
バージョン:
権利関係:

(様式3)Form 3



名 :梶原 貴人

Name

論 文 名 :結晶化促進剤を添加したシリケートガラスの結晶化挙動に関する研究
Title



分 :甲

Category

論 文 内 容 の 要 旨
Thesis Summary
結晶化ガラスはガラス組成を適切に設計し、目的の結晶相を生成させることでガラス単相では達成できない
機械特性や光学特性、熱物性等を発現することができる優れた材料である。結晶化ガラスの作製方法はガラスに
熱処理を行うことで結晶相を析出させる手法が一般的である。したがって、所望の特性が発現するように結晶化
ガラスの微細構造を制御するだけでなく、製造コストを抑えるために低温・短時間で結晶化ガラスが得られる熱
処理プロセスを開発することは産業的にも重要である。そのためには、結晶化を促進させるために副成分として
ガラス組成に添加する核形成剤やアルカリ金属(これらを結晶化促進剤と呼称する)が結晶化を促進させるメカ
ニズムを理解する必要があるが、そのメカニズムの詳細は明らかになっていないものが多い。
本論文は、SiO2 を主成分とする Li2O-Al2O3-SiO2 (LAS) 系ガラスと BaO-SiO2 (BS) 系ガラスに対して、種々
の結晶化促進剤を添加し、結晶化前後のガラスの構造解析を行うことで結晶化促進剤が結晶化を促進させるメ
カニズムを解明することを目的とした研究をまとめたものである。
第 1 章では、結晶化ガラスの歴史と応用および研究例に触れながら、結晶化ガラスを作製する上で重要な役
割をもつ結晶化促進剤について説明し、本研究の目的および構成について述べている。
第 2 章では、LAS 系ガラスに核形成剤として ZrO2 を添加したガラス、SnO2 を添加したガラス、ZrO2 と SnO2
を共添加したガラス、ZrO2 と SnO2 を含有しないガラスを作製し、作製したガラスの構造や熱特性について述
べている。ZrO2 と SnO2 を含有しないガラスでは結晶相の生成に伴う発熱ピークが確認されず、それ以外の核
形成剤を含むガラスでは結晶相の生成に伴う発熱ピークが確認された。さらにその発熱挙動は核形成剤の構成
で大きく異なり、結晶核の形成を促す熱処理(核形成処理)を行うことで結晶相の生成に伴う発熱挙動が変化す
ることを確認した。
第 3 章では、第 2 章で作製したガラスに熱処理を行い、核形成処理や核形成剤の違いが結晶化挙動に与える
影響について述べている。いずれの核形成剤においても核形成処理を行うことで分相が生じ、核形成剤由来の結
晶相の生成が促進される。LAS 系結晶相の生成挙動に注目すると、ZrO2 と SnO2 を共添加した組成と SnO2 を
添加した組成では、核形成処理を行うことで LAS 系の結晶相である β-石英固溶体の生成が促進される。その一
方で、ZrO2 を添加した組成では核形成処理を行うことで β-石英固溶体の生成が阻害される。しかしながら、ZrO2
を添加した組成では、β-石英固溶体の相変態によって形成される β-スポジュメン固溶体の形成が促進される熱
処理条件も確認された。
第 4 章では第 3 章で作製した結晶化ガラスについて微細構造解析を行い、核形成剤由来の結晶相の同定と熱
処理に伴う微細構造変化を述べている。ZrO2 を添加したガラスでは正方晶の ZrO2、SnO2 を添加したガラスで
は正方晶の SnO2、ZrO2 と SnO2 を共添加したガラスでは ZrSnO4 固溶体が核形成剤由来の結晶相として結晶化
初期に生成すること、熱処理条件によってこれらの結晶相の微細構造が異なることが明らかとなった。さらに、
ZrSnO4 固溶体が β-石英固溶体に接して存在することを初めて明らかにし、ZrSnO4 固溶体が β-石英固溶体の結
晶核として作用する可能性が示唆された。核形成剤由来の結晶相の微細構造の違いが、核形成剤由来の結晶相の
界面で形成される LAS 系結晶相の生成挙動に影響を与えるものと考えられる。
第 5 章では、0.2 mol%から最大 3 mol%までの Li2O を BaO と置換した BS ガラスを作製し、作製したガラス
の構造や熱特性について述べている。
BaO を Li2O に置換することでガラスのネットワーク構造を形成する SiO4
4
四面体の Q 構造の割合が増加する一方で、Li2O 量が多くなるにつれてガラス転移点や結晶化開始温度の低温化

が認められた。
第 6 章では、第 5 章で作製したガラスに熱処理を行い、熱処理による結晶化挙動とガラス組成の関係につい
て述べている。Li2O を含有しない組成では、BS 系の結晶相である Ba2Si4O10 (H-BaSi2O5)が生成するが、結晶化
初期では準安定構造を多くもつことが分かった。この組成では 24 時間と長時間の熱処理を行っても H-BaSi2O5
が化学量論組成よりも Ba が少ない構造であった。その一方で、わずか 0.2 mol%の Li2O を添加するだけで結晶
化初期に生成する H-BaSi2O5 の準安定構造の割合は減少し、Li2O を含有しない組成では 24 時間の熱処理でも
生じなかった H-BaSi2O5 から BaSi2O5 (L-BaSi2O5) への相変態が 1 時間以内に生じた。微細構造観察から Li2O
を含有する組成では熱処理によってバイノーダル分相が生じてマトリックス相のガラス組成が変化することや、
イオン拡散速度が大きなLi+イオンの存在によってイオン拡散速度が小さなBa2+イオンの拡散が促進されること
が結晶化を促進させる原因である可能性が示唆された。微量の Li2O を BS ガラスに添加することで低温・短時
間での結晶化処理が可能となることが明らかとなった。
第 7 章では、Li2O を添加した BS ガラスの熱処理中の構造変化を in-situ 測定で調査した内容について述べて
いる。in-situ 測定から結晶化初期に Ba6Si10O26 に類似した結晶相が確認され、この結晶相が H-BaSi2O5 の結晶
核であると考えられる。Li2O 添加量の増加に伴い BaO 量が少なくなると、Ba6Si10O26 に類似した結晶相の生成
量が減少し、H-BaSi2O5 が生成しにくくなった。BS ガラスでは Li2O 添加によって結晶化が促進されるが、目的
の結晶相の生成を促進させるには結晶核の形成も考慮してガラス組成を設計する必要がある。
第 8 章では、本研究で得られた知見と今後の展望を述べ、総括としている。

この論文で使われている画像

参考文献

1. 田渕雅夫, “AbsC : 吸収量計算プログラム”, HX-XAFS group of Nagoya Univ. SR-Center and Aichi

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14. T. Kajihara et al., J. Am. Ceram. Soc., 106 [7], 4181-4191 (2023).

157

第8章

結論

本研究では,結晶化促進剤が Li2O-Al2O3-SiO2 系ガラスおよび BaO-SiO2 系ガラスの結晶化を促

進するメカニズムを明らかにし,結晶化ガラスの微細構造制御と低温・短時間で結晶化が可能な

ガラス組成を設計するための指針を得ることを目的とした.特に結晶化挙動への影響が大きい

と考えられる分相現象に伴うガラス構造の変化や,結晶核の生成およびその微細構造が結晶化

挙動に与える影響に着目して結晶化促進剤の効果を調査した.以下に各章で判明したことを述

べ総括を行う.

第 1 章では結晶化ガラスの歴史と応用に触れながら,結晶化ガラスの産業利用上で重要な役

割をもつ結晶化促進剤について説明し,本研究の目的および構成について述べた.

第 2 章では,核形成剤の構成が異なる Li2O-Al2O3-SiO2 ガラスを作製し,添加した核形成剤の

微細構造の解析と各ガラスの熱的特性の分析を実施した.ZrO2 と SnO2 を共添加した組成と ZrO2

のみを添加した組成の微細構造の比較から,Zr の配位数や周囲の元素との結合距離に大きな違

いは確認できなかった.ZrO2 と SnO2 を共添加した組成と SnO2 のみを添加した組成の微細構造

の比較から,ZrO2 と SnO2 を共添加した組成において 2 価の Sn の比率が高い傾向にあり,Sn 周

囲の構造にもわずかに違いがみられた.各ガラスの熱分析から,ZrO2 も SnO2 も含有しない組成

を除き,明瞭に結晶化に伴う発熱ピークが確認され,その挙動は核形成剤の構成によって大きく

異なっていた.さらに 750 °C - 4 時間の熱処理を行うことで結晶化挙動が大きく変化する傾向が

確認された.これより LAS 系結晶相の結晶化処理を行う前に 750 °C - 4 時間の熱処理を行うこ

とで,核形成処理が結晶化挙動に与える影響を調査することができると結論付けた.

第 3 章では,第 2 章で作製した核形成剤の構成が異なるガラスに対して熱処理を行い,750 °C

- 4 時間の核形成処理や核形成剤構成の違いが生成する結晶相に与える影響を調査した.ZrO2 と

SnO2 を共添加した組成,ZrO2 を添加した組成および SnO2 を添加した組成に 750 °C - 4 時間の核

形成処理を行うことによって,分相が生じる可能性が示唆され,その結果として核形成剤由来の

結晶相の生成が促進することが分かった.また,結晶化初期に生成する結晶相は核形成剤由来の

結晶相であり,ZrO2 と SnO2 を共添加した組成では ZrSnO4,ZrO2 を添加した組成では t-ZrO2 も

しくは c-ZrO2,SnO2 を添加した組成では t-SnO2 が生成した可能性が示唆された.LAS 系結晶相

の生成挙動に注目すると,750 °C - 4 時間の核形成処理を行うことで ZrO2 と SnO2 を共添加した

組成では β-石英固溶体の生成が促進されることが分かった.その一方で,ZrO2 を添加した組成

で同様の核形成処理を行うと,逆に β-石英固溶体の生成を阻害する可能性が示唆されたものの,

158

一部の熱処理条件では β-スポジュメン固溶体の生成が促進された.これは結晶化初期に生成す

る核形成剤由来の結晶相の種類だけでなく,核形成処理の有無や核形成処理の条件によって微

細構造が異なり,その微細構造の違いが LAS 系結晶相の生成挙動に影響するためであると考え

られた.

第 4 章では STEM および XAFS を用いて核形成剤由来の結晶相の同定と,結晶化温度の違い

による核形成剤由来の結晶相の微細構造の変化を調査した.ZrO2 と SnO2 を共添加した組成では,

核形成剤由来の結晶相として ZrSnO4 固溶体,t-ZrO2,t-SnO2 の生成が認められた.ZrSnO4 固溶

体は熱処理温度の上昇に伴い Sn が排出され ZrSnO4 固溶体の分解が進み,最終的には t-ZrO2 と

t-SnO2 が形成されることが明らかとなった.また,核形成処理によって ZrSnO4 固溶体の生成が

促進され,生成した ZrSnO4 固溶体は β-石英固溶体と接して存在することをはじめて明らかにし

た.ZrSnO4 固溶体は,先行研究で報告されている β-石英固溶体と配向関係をもつ ZrTiO4 固溶体

と同様の結晶構造をもつことから,β-石英固溶体が ZrSnO4 固溶体に配向して生成する可能性が

示唆された.ZrO2 を添加した組成では,核形成剤由来の結晶相は t-ZrO2 であった.SnO2 を添加

した組成では,核形成剤由来の結晶相は t-SnO2 であった.

ここで Li2O-Al2O3-SiO2 系結晶化ガラスについてまとめる.第 2 章から第 4 章までの検討から,

ZrO2 と SnO2 を共添加した Li2O-Al2O3-SiO2 系ガラスは,ZrO2 や SnO2 を単独で添加するよりも β石英固溶体の生成を促進させる効果があることが明らかとなった.ZrO2 や SnO2 の添加は,ZrO2

も SnO2 を含有しない組成と比較すると β-石英固溶体の生成を促進させる効果はあるものの,

ZrO2 と SnO2 を共添加した組成よりも β-石英固溶体の生成温度は高温であった.

先行研究では,β-石英固溶体の生成メカニズムについて,①分相界面の Al-rich 層から β-石英

固溶体が生成するモデルと,②β-石英固溶体が核形成剤由来の結晶相に配向して生成するモデル

(ZrTiO4 固溶体を結晶核にもつ LAS 系結晶化ガラスで報告されている)が提案されている.本

研究では,結晶化初期に生成する核形成剤由来の結晶相の種類に加えて,核形成処理の有無やそ

の熱処理条件によって β-石英固溶体の生成のしやすさが変化していた.仮に①の分相界面の Alrich 層から β-石英固溶体が生成するモデルを仮定すると,ZrO2 を核形成剤として添加した組成

で見られたような 750 °C - 4 時間の核形成処理によって β-石英固溶体が生成しにくくなる現象が

生じるとは考えにくい.一方で,②の β-石英固溶体が核形成剤由来の結晶相に配向して生成す

るモデルを仮定すると,核形成剤由来の結晶相の種類や熱処理条件による微細構造の違いが β石英固溶体の生成に影響する可能性は高いと考えられる.

ZrSnO4 固溶体が初期に生成する LAS 系結晶化ガラスでは,t-ZrO2 や t-SnO2 が初期に生成する

結晶化ガラスと比較して β-石英固溶体の生成温度が低かった.この理由としては,β-石英固溶体

が t-ZrO2 や t-SnO2 よりも ZrSnO4 固溶体に配向して生成しやすいためであると考えられる.しか

し,本研究では ZrSnO4 固溶体が β-石英固溶体に接して存在することまでは明らかにできたが,

159

ZrSnO4 固溶体と β-石英固溶体との配向関係までは明らかにできなかった.これ以上の議論を行

うには ZrSnO4 固溶体,t-ZrO2 および t-SnO2 と,β-石英固溶体との配向関係の有無の調査,β-石英

固溶体の生成起点の解析など,より詳細な微細構造解析が必要である.結晶核と生成する結晶相

の微細構造の関係が明らかになれば,LAS 系の結晶化ガラス以外の結晶化ガラスにおいても,

目的とする結晶相に合わせた核形成剤を選択し,核形成処理および結晶化条件を最適化するこ

とが可能になると考えられる.

第 5 章では xLi2O-(30−x)BaO-70SiO2 [mol%] (x = 0, 0.2, 0.5, 1, 2, 3)の LBSx ガラスを作製し,ラ

マン分光法および XAFS を用いた構造解析を行った.また,DSC を用いて Li2O の導入がガラス

転移点やガラス相からの結晶相の生成に伴う発熱挙動に与える影響について調査した.作製し

たガラスはターゲットの組成に対して微量のコンタミや組成ずれが確認されたが,XAFS,ラマ

ン分光,DSC 測定の結果は Li2O 量や BaO 量に相関がある結果であった.ラマン分光から Li2O

の導入に伴い SiO4 四面体の Q2 および Q3 構造が減少し,Q4 構造が増加する傾向が確認された.

XAFS 測定では大きなガラス構造の違いは確認されなかったが,ラマン分光と同様に SiO4 四面

体の Q4 構造が増加する傾向が確認された.DSC 測定からは SiO4 四面体の Q4 構造の増加とは対

照的にガラス転移点や結晶化開始温度の低温化が認められた.これは Li+イオンが HSAB 則でハ

ードな酸であるためと考えられ,SiO4 四面体において Li+イオンと結合している NBO が Li+ イオ

ン側にひきつけられ,Si-O の結合力が弱くなったことでガラスの粘性が低下したものと考えら

れた.また,各ガラスの DSC 曲線から結晶化に伴う発熱挙動が大きく異なることが明らかとな

った.修正 Kissinger プロットから最大結晶化ピーク温度:Tc について活性化エネルギーを計算

したところ,Li2O 量の増加に伴い活性化エネルギーはいったん低下するものの,Li2O 量が約 1

mol%を境に上昇に転じることが明らかとなった.

第 6 章では LBSx ガラスに対して熱処理を行い,熱処理後のサンプルの構造解析を行った.

Li2O を含有しない LBS0 では準安定構造をもつ H-BaSi2O5 が高温・長時間の熱処理でも残存し,

結晶化処理温度で 24 時間保持しても H-BaSi2 O5 から L-BaSi2O5 の相変態は生じないことが明ら

かとなった.さらに LBS0 において 24 時間の保持で生成した H-BaSi2O5 は化学量論組成に対し

て Ba-poor な組成であった.これは熱処理前のガラス組成が BaSi2O5 の化学量論組成に対して Sirich で Ba-poor な組成であることに加えて,Ba2+イオンの拡散速度が小さいために Ba2+ イオンの

拡散に長時間の熱処理が必要であるためと考えられた.その一方で,Li2O を含有する組成では,

わずか 0.2 mol%程度の Li2O の添加で BaSi2O5 の結晶化が促進され,数十分から 1 時間程度の結

晶化処理温度での保持で H-BaSi2O5 から L-BaSi2O5 の相変態が生じることが明らかとなった.

Li2O を含有する組成では熱処理時にバイノーダル分相が生じやすく,バイノーダル分相に伴い

生成する Ba-rich なガラスマトリックスが核形成速度の向上や,H-BaSi2O5 の生成および LBaSi2O5 への相変態を促進させる可能性があると考えられた.また,拡散速度の大きな Li+イオン

160

がガラス中に存在することで Ba2+ イオンの拡散が促進され,結晶化を促進させる可能性が示唆

された.しかしながら,BaO 量が BaSi2O5 の化学量論組成に対して少なくなるにつれて H-BaSi2O5

から L-BaSi2O5 への相変態が起こりにくくなることも明らかとなった.

第 7 章では LBSx ガラスの熱処理中の in-situ XAFS 測定および in-situ XRD 測定を行いガラス

組成と結晶化挙動の関係を調査した.LBSx ガラスにおいて結晶化初期に生成する結晶相は BS2

ガラスにおいて H-BaSi2O5 の結晶核として報告されている Ba6Si10 O26 と近い構造をもつ結晶相

(S-Ba6Si10 O26 と呼称した)であり,Li2O 量が多く BaO 量が少ない組成では S-Ba6Si10 O26 の生成

量が減少する傾向が確認された.S-Ba6Si10 O26 の生成量が多い組成では,準安定構造をもつ HBaSi2O5 (M-BaSi2O5) よりも先に S-Ba6Si10 O26 が生成しており,S-Ba6Si10 O26 が M-BaSi2O5 の結晶

核として作用する可能性が示唆された.S-Ba6Si10O26 の存在によって M-BaSi2O5 の形成は促進さ

れる一方で,Li2O 含有量が少ないガラスでは,Ba2+ イオンの拡散速度が小さいために H-BaSi2O5

の形成は遅く,Li2O 添加による結晶化の促進が重要となる可能性も示唆された.しかしながら,

Li2O 添加に伴いガラス中の BaO 量が少なくなると S-Ba6Si10 O26 の生成が抑制され,その結果 MBaSi2O5 の生成量が減ることが明らかとなった.第 5 章で求めた Tc における発熱の主な原因は

H-BaSi2O5 の形成によるものと考えられた.M-BaSi2O5 は H-BaSi2O5 の準安定相であるため,MBaSi2O5 の生成量が減ることで H-BaSi2O5 が形成されにくくなると考えられる.そのため,Li2O

量が多いガラスにおいて活性化エネルギーが増加した可能性が考えられた.

ここで Li2O を添加した BaO-SiO2 系結晶化ガラスについてまとめる.第 5 章から第 7 章まで

の検討から,先行研究よりも少ない Li2O の添加でも結晶化開始温度の低下や H-BaSi2O5 の生成

および H-BaSi2O5 から L-BaSi2O5 への相変態が促進されることが明らかとなり,わずか 0.2 mol%

程度の Li2O の添加でも十分結晶化促進の効果があることが分かった.この原因としては,Li2O

の添加によってバイノーダル分相が生じてマトリックスのガラス組成が BaSi2O5 の化学量論組

成に近づくこと,ガラス中でのイオン拡散速度の大きな Li+イオンが周囲の Ba2+イオンの拡散を

促進させることなどの理由から H-BaSi2O5 の生成および H-BaSi2O5 から L-BaSi2O5 への相変態を

促進する可能性が示唆された.その一方で,添加する Li2O 量が多くなりすぎると BaSi2O5 の化

学量論組成から離れてしまい,H-BaSi2O5 の生成に影響を与えると考えられる S-Ba6Si10O26 や MBaSi2O5 が生成しにくくなる可能性が示唆された.これより,バイノーダル分相によるガラス組

成の変化や,Ba2+ イオンの拡散を促進させるために Li2O 量を多くすればよいわけではなく,目

的の結晶相の生成を促進させる結晶核の形成も考慮してガラス組成を設計する必要があること

が明らかとなった.本研究では Li2O 添加による結晶化促進のメカニズムはおよそ明らかにでき

たものの,各組成における核形成速度の調査や、結晶核の微細構造解析はできておらず,より詳

細な議論を行うにはこれらの検討が必要であると考えられる.

161

最後に本研究に関するまとめと今後の展望を述べる.本研究では結晶化促進剤として LAS 系

結晶化ガラスにおける ZrO2 や SnO2 などの核形成剤,BaO-SiO2 系結晶化ガラスにおける Li2O(ア

ルカリ金属成分)に着目して結晶化挙動に関する研究を行った.どちらのガラス系においても,

これらの結晶化促進剤を添加することで分相が生じてガラス構造が変化し,核形成と結晶相の

生成を促進させることが明らかとなった.特に BaO-SiO2 系結晶化ガラスの検討からわかるよう

に,わずか 0.2 mol%と微量の Li2O の添加で結晶化温度が低下するだけでなく,バイノーダル分

相によって大幅に結晶化処理時間が短縮できたことは,結晶化ガラスの組成設計を行う上で重

要な知見が得られたと考えている.また,結晶化ガラスの微細構造制御や熱処理プロセスの最適

化を行うためには,結晶核となる結晶相と生成する結晶相の微細構造の関係を理解することが

重要であり,結晶相の生成起点の解析や結晶核の微細構造,結晶核と生成する結晶相との配向関

係など,よりミクロな視点での微細構造解析が重要になると考えられる.

162

謝辞

本研究は,九州大学大学院 総合理工学府 量子プロセス理工学専攻 波多研究室と AGC 株式

会社 技術本部 材料融合研究所 無機材料部 ガラス・セラミックス材料チームにて行いました.

本研究の放射光実験は,公共財団法人高輝度光科学研究センター(JASRI)のビームラインであ

る BL14B2(課題番号:2021A1648,2021B1937,2021B2017,2022A1768)と BL13XU(課題番

号:2022B1858),科学技術交流財団あいちシンクロトロン光センターのビームラインである

BL6N1(実験番号:202105055)で行いました.また,本研究の一部は文部科学省「ナノテクノ

ロジープラットフォーム」事業(課題番号:A-19-KU-1005)および「マテリアル先端リサーチイ

ンフラ」事業(課題番号:JPMXP1222KU0102)の支援を受けました.

はじめに,本論文の主査である波多 聰 教授には,終始丁寧なご指導をしていただきました.

また,コロナ禍で研究を行うことが難しい状況の中,筆者が研究を行うことができる体制を整え

ていただき,無事に研究を完遂することができました.深く感謝を申し上げます.

副査である藤野 茂 教授には,本論文の審査に加えて,研究を進めるにあたりガラスの専門家

の視点から多くの貴重なご意見をいただきました.また,同じく副査である中島 英治 教授には,

本論文の審査にあたり論文の構成等に関してご指導いただきました.深く感謝を申し上げます.

九州大学の村山 光宏 教授には,本研究の進め方について様々なご意見をいただきました.同

大学の斉藤 光 准教授には,本研究において重要な実験である STEM 観察を進めるにあたり大

変ご尽力いただきました.深く感謝を申し上げます.

また,東北大学の西堀 麻衣子 教授,二宮 翔 助教には,放射光測定に関しての申請および実

験の進め方から解析方法まで懇切丁寧にご指導いただきました.深く感謝を申し上げます.

九州大学 波多研究室の高 紅叶 学術研究員,郭 子萌 学術研究員,池田 錬太 氏(現 マツ

ダ株式会社),太田 匠 氏(現 日軽エムシーアルミ株式会社)

,満田 彩欄 氏,浅原 大晟 氏,

下林 佑輝 氏(現 日本非破壊検査株式会社)には,お忙しい中筆者の実験をサポートいただき

ました.また同研究室の皆様は筆者を研究室に温かく迎えていただき,ゼミやイベントなど,久

しぶりの大学での生活を有意義に過ごすことができました.皆様に深く感謝を申し上げます.

筆者が所属する AGC 株式会社には,筆者の博士号取得の機会を与えていただきました.また,

同社の吉田 智 氏,土屋 博之 氏,赤塚 公章 氏には,研究の進め方に関する相談や実験および

考察,投稿論文執筆など,様々な面で多大なるご尽力をいただきました.筆者の上司である小池

章夫 氏,林 和孝 氏には学会発表に際して手厚くご指導いただきました.同社の山城 彩 氏,

宮嶋 達也 氏,西條 佳孝 氏,吉野 晴彦 氏,池田 定達 氏,小澤 沙記 氏,築山 慧之 氏,穴

澤 阿沙子 氏,池田 素 氏(順不同)には,筆者の実験に際して様々なご支援をいただきました.

また,筆者の上司,同僚の皆様には業務の調整をはじめとした様々なご支援をいただき,会社で

の業務と並行しながら研究を完遂することができました.皆様に深く感謝を申し上げます.

そのほかにも,本研究を進めるにあたり九州大学大学院 総合理工学府,公共財団法人高輝度

163

光科学研究センター,科学技術交流財団あいちシンクロトロン光センターの多くの方にご支援

いただきました.皆様に深く感謝を申し上げます.

最後に,筆者の妻である妙と息子の維月,両親の支えがなければ,本研究を完遂することはで

きませんでした.心から感謝しています.ありがとうございました.

164

...

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