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大学・研究所にある論文を検索できる 「認知症高齢者の尊厳への思いを推定する方法の検討 : 家族と看護師の他者評価から」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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認知症高齢者の尊厳への思いを推定する方法の検討 : 家族と看護師の他者評価から

大竹, 恵理子 名古屋大学

2022.03.24

概要

背景
看護において尊厳は重要な概念であるが、尊厳は損なわれやすいものであり、患者に安全や安楽を提供するはずの看護ケアの提供においても尊厳が損なわれる可能性がある。特に高齢者は加齢による身体・認知機能の変化などの理由から、社会的に脆弱な存在であり、尊厳が損なわれる可能性が高い。更に認知症を持つ高齢者の多くは、尊厳に対してより脆弱な存在であるにもかかわらず、自身の尊厳について語ることが困難である。多くの先行研究から、認知症高齢者の尊厳への配慮の重要性が示されている。今後、世界的に認知症高齢者が増加する中で、認知症高齢者の尊厳に配慮したケアの提供は、看護における喫緊の課題であると言える。
しかし、看護師のみならず患者自身も尊厳がどの程度守られているのかを定量的に把握することは難しく、尊厳の定義は様々である(Street & Kissane, 2001; Walsh & Kowanko, 2002; Griffin-Heslin, 2005; Matiti & Trorey, 2008; Nordenfelt, 2003)。尊厳について評価するツールは報告されているが、多くのツールの回答者は患者自身であり、認知機能が低下した人は対象としておらず、日常的なケアの中で看護師が容易に評価できる方法ではない。そのため、医療者は認知症患者の尊厳に対する期待や満足度を推測しながらケアを提供している。もし医療者が日常的に使用できる尊厳の評価ツールがあれば、認知症患者はより尊厳に配慮されたケアを受けることができると期待される。看護師などの医療者が容易に尊厳を代理評価できる評価ツールとその評価方法の開発が求められる。なお、代理評価の評価者は、評価者間格差が少ない者を代理評価者として選択することが望ましいとされている(Pickard et al., 2005)。先行研究から入院患者の尊厳の代理評価者として、著者らは、患者自身の回答との相関が高い家族(Coucill, 2011)、および患者のケアを通じて継続的な観察をしている看護師が妥当だと考える。
以上から、本研究では、患者の家族、および看護師が認知症高齢者の「尊厳への期待」と「尊厳への満足度」を代理評価できる調査票の開発、および、その調査票を用いた代理評価の妥当性を検討することを目的とする。

研究方法
本研究は 2 段階の調査によって実施した。
第 1 段階では、認知症高齢者の家族 7 名と看護師 11 名に対し、長谷川ら(2017)が開発したJ-PDS の開発過程で使用した J-PDS 調査票の回答と、回答をもとにした個別の半構造化面接から、認知症患者の尊厳を他者が代理評価するための尊厳代理評価用調査票原案(以下、調査票原案)を作成した。
第 2 段階として、作成した調査票原案を用いて認知機能が低下していない高齢患者 69 名と患者の家族 57 名、および看護師 60 名の三者に質問紙調査を実施した。三者の調査票への回答を相関分析、重回帰分析をした結果から、患者の尊厳の代理評価が可能な項目を抽出し、それらの結果から認知症患者の尊厳の代理評価方法の検討、および信頼性、妥当性のある尊厳代理評価用調査票の開発を行った。
本研究は、名古屋大学大学院医学系研究科生命倫理委員会の承認を受けて実施した。

結果
インタビュー調査では、J-PDS 調査票を用いた代理評価の可否について、看護師 12 名、家族 6 名から回答を得た。看護師は 10 名および家族 5 名が「推測できる」、「修正すれば推測できる」と回答した。J-PDS 調査票への代理評価の回答の根拠として 560 コードが抽出され、そのうち「尊厳への期待」は 297 コード、「尊厳に対する満足度」は 263 コードだった。この結果をもとに「尊厳への期待」30 項目、「尊厳への満足度」23 項目の調査票原案を作成した。
第 2 段階の患者と家族、および担当看護師を対象とした質問紙調査結果について、患者の回答と家族および看護師の回答について相関分析を行ったところ、患者と家族の回答で有意な相関が認められた項目は「尊厳への期待」では 30 項目中 18 項目、「尊厳への満足度」では 23 項目中 21 項目だった。一方、患者と看護師の回答については相関が認められなかった。しかし臨床経験 20 年以上の看護師の回答に限定すると、「尊厳への期待」では 30 項目中 10 項目、「尊厳への満足度」については 23 項目中 6 項目について有意な相関が認められた(p<.05)。これらの相関が認められた項目を抽出して患者自身の回答について探索的因子分析(主因子法、プロマックス回転)を行った結果、「尊厳への期待」については 13 項目 3 因子構造が示された(KMO=0.851)。J-PDS(長谷川ら,2017)の因子構造と比較したところ、第Ⅰ因子 7 項目は、J-PDSの F1【人間性の尊重】とF4【正義と公平の尊重】、第Ⅱ因子は、J-PDS の F2【プライバシーの尊重】、第Ⅲ因子は、J-PDS の F5【自律性の尊重】から構成されていた。「尊厳への期待」全 13 項目と、F1【人間性と正義・公平の尊重】、F2【プライバシーの尊重】、F3【自律性の尊重】の 3因子における Cronbach’s α係数は、それぞれα=0.935、0.924、0.922、0.895 だった。しかしながら尊厳への満足度についは、尊厳を構成する因子を適切に抽出することができなかった。基準関連妥当性について RSES-J の結果をもとに、患者の回答の因子分析の結果による「尊厳への期待」のスコアとの相関をみたところ、有意な相関を認められなかった(p<.05)。

考察
尊厳代理評価用調査票の 13 項目 3 因子で構成された「尊厳への期待」について内的整合性を示す Cronbach’s α係数を求めたところ、「尊厳への期待」の全 13 項目の合計、第Ⅰ因子、第Ⅱ因子、および第Ⅲ因子ともに 0.80 を大きく上回り、高い内的整合性をもつことが確認された。構成概念妥当性についても、患者の尊厳を5 因子構造でとらえられるJ-PDSと因子構造を比較したところ、F1【人間性の尊重】と F4【正義と公平の尊重】は 1 つの因子に統合されたが、F2【プライバシーの尊重】と F5【自律性】はそれぞれ単独でとらえることができることが示された。F3【礼節と配慮】の因子は抽出されなかったが、5 因子のうち 4 因子はとらえることができたことから、尊厳の構成概念を反映できたと考えられる。しかしながら、「尊厳への満足度」は尊厳の構成概念を反映できておらず、今回作成した調査票では「尊厳への満足度」を測定できないことが示された。
「尊厳への期待」の患者の回答との相関について、家族の回答に比べ、看護師の回答は相関が認められた項目が少なかった。また、「尊厳への満足度」の患者との回答の相関は、家族では殆どの項目で相関が認められたが、看護師は相関が認められた項目はなかった。しかし、経験年数 20 年以上の看護師に限定すると、「尊厳への期待」、「尊厳への満足度」ともに相関が認められた項目が増え、かつ「尊厳への期待」については高い相関を示した。このことは患者の「尊厳への期待」や「尊厳への満足度」をより正しく推測するためには、看護師としての長い臨床経験を要する可能性があることを示すものと考える。回答の平均値の差について見てみると、「尊厳への期待」の患者と家族および経験年数 20 年以上の看護師の回答、「尊厳への満足度」の患者と家族の回答は 10%以内であり、大きな差は認められなかった。一方で、「尊厳への満足度」については、看護師の方が患者よりも 10~20%低く回答しており、看護師は患者の「尊厳への満足度」を過少評価する傾向が示された。

結論
「尊厳への期待」について、13 項目 3 因子の尊厳代理評価用調査票が得られた。この尊厳代理評価用調査票は、長谷川ら(2017)が開発した J-PDS で示された尊厳を構成する因子構造 5 因子のうち 4 因子を含んでおり、信頼性と妥当性を確認することができた。また、この尊厳代理評価用調査票用いることにより、家族および経験年数が 20 年以上の看護師によって代理評価ができることが示された。

なお、本研究成果の主要部分は Nursing Open(IF:1.762)に投稿し、オンライン版として掲載されている(https://onlinelibrary.wiley.com/doi/epdf/10.1002/nop2.1024)。

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