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大学・研究所にある論文を検索できる 「Impaired pain processing and its association with attention disturbance in patients with amyotrophic lateral sclerosis」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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Impaired pain processing and its association with attention disturbance in patients with amyotrophic lateral sclerosis

原田, 祐三子 名古屋大学

2021.07.16

概要

【緒言】
筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、上位運動ニューロンと下位運動ニューロンの変性を特徴とする進行性疾患であるが、近年ALSは運動系に限局しないmultisystem disorderと考えられている。特にTDP-43プロテイノパチーという疾患概念が提唱され、ALSと前頭側頭型認知症は臨床的・病理学的にも連続性を有する疾患群と認知されている。ALS患者の認知機能障害は遂行機能障害を特徴とし、注意機能は遂行機能障害にとって特に重要な項目である。また近年ALS患者およびマウスモデルにおいて、運動ニューロンのみではなく、痛覚に寄与する小径線維の障害が報告されている。
本検討で施行した痛み関連脳電位は末梢神経系と中枢神経系を含む痛覚経路を評価するための低侵襲な方法である。以前我々のグループは、Aδ線維を選択的に刺激できる表皮内電極を用いて痛み関連脳電位を行い、パーキンソン病(PD)患者の痛み関連脳電位の振幅が、認知機能検査における注意および記憶の項目双方との相関関係を示し、疼痛経路の病理学的異常がPD患者の認知機能障害および嗅覚機能障害に関連していることを示唆した。しかし、ALS患者において表皮内電極を使用した痛み関連脳電位に関する報告はない。今回、我々は、表皮内電極を使用して、痛み関連脳電位と認知機能、特に実行機能または注意機能との関係を調べることを目的とした。さらに、ALS患者における小径線維障害の関与を考慮して、痛み関連脳電位と感覚症状や腓腹神経伝導検査との関係も調べた。

【対象および方法】
対象
2018年7月から2019年10月の間に痛み関連脳電位を施行した23人の連続したALS患者23例、年齢が一致する健常者14例を対象とした。ALS患者は、ALS機能評価尺度改訂(ALSFRS-R)スコアにて運動機能を評価し、四肢と顔面において体性感覚検査を行った。末梢神経障害や神経根症を有する患者は除外した。

神経生理学的評価
痛み関連脳電位については、Aδ線維を選択的に刺激できる表皮内電極を用いて測定した。被験者の頬部を刺激し、頭頂部(Cz)を記録電極、耳朶を基準電極とした。刺激は慣れの要素を除外するために約10秒間隔のランダム刺激とした。10回1セットとし加算平均化し、これを3セット行なった。痛み関連脳電位の成分はCzで記録される二相性の成分であるが、陰性電位の頂点をN1、その後出現する陽性電位の頂点をP1として、pain pathwayの障害を反映するN1/P1頂点間振幅(N1/P1振幅)をその指標とした。
さらに、痛み関連脳電位の振幅は、電気刺激中の慣れや注意の変化に応じて減衰または変化する可能性があるため振幅の減衰率を次のように定義した。

10回の平均振幅最大値−30回全ての平均振幅
10回の平均振幅最大値
またALS患者において末梢神経伝導検査が実施されているが、腓腹神経の検査結果を使用した。

認知機能検査
認知機能はMini-mental state examination (MMSE)、日本語版 Montreal Cognitive Assessment (MoCA-J)、Frontal Assessment Battery(FAB)で評価し、各バッテリーのtotal scores、副項目(attention、memory、orientation、language、visuospatial、 executive function)とN1/P1振幅との相関について統計学的検討を行った。

データ解析
値は平均と標準偏差(SD)で表記した。t検定または分散分析を使用して、2つの独立したグループ間の差異を比較した。χ2検定を使用して、グループ間の性別分布を比較した。スピアマンの順位相関を使用して、変数間の関係を調べた。多変量解析を使用して、予測変数を推定した。解析にはSPSS(バージョン25.0)を使用し、p<0.05を有意とした。

【結果】
臨床的特徴
ALS患者と健常者の間で、年齢、身長、体重、および肥満度指数(BMI)に有意差は認めなかった。7人のALS患者がなんらかの感覚症状を訴えたが、その症状がALSに関連しているかどうかは判断できなかった。
認知機能検査については、MMSEとFABの合計スコアは、健常者よりもALS患者で有意に低かった。健常者と比較して、ALSの患者は、MMSEの注意、記憶、言語の副項目、およびMoCA-Jの視空間と見当識の副項目で有意に低いスコアを示し、FABの類似性/運動系の副項目のスコアは、健常者よりもALS患者の方が有意に低かった
(表1)。

痛み関連脳電位と末梢神経伝導検査
健常者とALSの代表的な波形を示す(図1)。N1/P1振幅は、健常者群に比しALS
群で有意に低く(p<0.01)、振幅の減衰率は、ALS患者で有意に大きかった(p<0.01)
(表2)。
腓腹神経伝導検査は、全てのALS患者で正常範囲内であり、感覚症状を認める患者と認めない患者の間でN1/P1振幅に有意差は認めなかった。

痛み関連脳電位と臨床パラメーターとの関連
ALS患者において、痛み関連脳電位の振幅は、MoCA-Jの注意、記憶、実行機能の
副項目、およびFABの流暢性の副項目と相関を認めた(図2)。振幅の減衰率は、MoCA-JとMMSEの合計スコアと相関を認め、またMOCA-JとMMSEの注意、およびMoCA-Jの遂行機能の副項目と相関を認めた(図3)。

【考察】
本研究では、ALS患者の痛み関連脳電位の振幅が低下していることを示した。また、その振幅の減衰率が、特に注意の項目において認知機能障害と関連していることを示した。
痛み関連脳電位によって記録されたN1/P1成分は、複合電位と考えられており、先行研究にて脳磁図の内側側頭葉領域の活動の潜時と一致すると報告がある。その潜時の大部分は、脳レベルでの情報処理に費やされていると考えられており、主観的な痛みの程度や小径線維の障害がある場合の表皮内神経密度の低下など、さまざまな要因が痛み関連脳電位の振幅に影響を与える。本研究では、痛み関連脳電位の振幅と認知機能、特に注意力をより要する副項目との間に相関関係があることを見出した。また、痛みを認識するための注意力と集中力の低下が、痛み関連脳電位の振幅に影響を与えることも明らかとなった。さらに、慣れまたは注意の変化による痛み関連脳電位の減衰は、ALSの患者で有意に大きく、この減衰の程度はMoCA-JおよびMMSEの注意項目と相関していた。これは、注意が痛み関連脳電位の振幅に強い影響を与えることを示唆している。注意機能はALS患者の認知機能障害に関連する重要な項目であり、振幅の減少と振幅の減衰はALS患者の認知機能に関連していることが示唆された。

【結論】
ALS患者において痛み関連脳電位の振幅の有意な減少を認めた。さらには、刺激に対する慣れまたは注意の変化によると考えられる振幅の大きな減衰を示したが、これは注意障害の存在が示唆された。痛み関連脳電位の振幅は、末梢神経障害よりも認知機能に密接に関連しており、特に注意力や集中力の低下に密接に関連を認め、これらはALS病理の大脳皮質への広がりを示している可能性がある。痛み関連脳電位は、部分的にはALS病変の広がりを容易に評価するための有用なマーカーとなるかもしれない。今後ALSの予後と進行も含めたさらなる研究が必要である。

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