On uniqueness for Schrödinger maps with low regularity large data
概要
シュレディンガー写像方程式は,終域と始域が多様体であるようなシュレディンガー方程式のことであり,数学的には元々のシュレディンガー方程式の幾何学的拡張であり,数理物理的には強磁性体におけるスピンベクトルモデルと考えられ,その数学解析は重要である.学位申請者は,2 次元ユークリッド空間で定義され球面に値を取るシュレディンガー写像方程式の初期値問題に対して,ソボレフ空間 H˙ 2に属する解の一意性を研究した.空間 2 次元は,シュレディンガー写像方程式のエネルギー汎関数がスケール臨界となるため,特に興味深い研究対象であある.また,ソボレフ空間 H˙ 2 に属する解は強解 (strong solution) とよばれ,エネルギー有限となる解のクラスの次に重要な解のクラスである.
先行研究にとして,Gustafson, Kang and Tsai (2008) は,エネルギー最小の調和写像の近傍から出発した解は H˙ 1 において一意であることを示した.最小エネルギー調和写像の近傍では,解は調和写像からのずれによって特徴付けことが出来ることを示したことが,彼らの証明のポイントであった.また,一般の初期値から出発した解に対しては,MacGahagan (2007) が H2+ε (ε > 0) における一意性を得ている.空間 2 次元においては,ソボレフの埋蔵定理 H1+ε ⊂ L∞ が成立するため解の 1 階導関数は有界となる.そこで,彼女はこの事実と幾何学的エネルギー評価を組み合わせることにより一意性の証明を与えた.しかし,一般の H˙ 2 に属する初期値から出発した解の一意性は未解決問題として残っていた.
以上の困難を克服するために,学士申請者は,非圧縮性オイラー方程式の初期値問題に対して解の一意性を示すために Yudovic が開発した証明方法を適用した.非圧縮性オイラー方程式とシュレディンガー写像方程式は方程式のタイプが全く異なるため,Yudovic の論法を適用するためには,McGahagan による幾何学的特質を用いたエネルギー法を使う必要がある.しかし,幾何学的特質を用いるために,McGahagan の論文では, 測地線のパラメータを弧長パラメータに選んで議論がなされていたが,そのままで解の差を評価すると特異性が現れてしまう.そこで,学位申請者は別のパラメータを取ることによりこの困難を回避するとともに, McGahagan とは異なる測地線の評価式を導出し,解の一意性を証明することに成功した.