Tyrosine kinase receptor TIE-1 mediates cell growth by regulating PI3K/Akt signaling pathway in high-PI3K-expressing ovarian cancer.
概要
【研究の背景】
卵巣癌は女性の悪性腫瘍の中で高い死亡率を示しており、新たな治療戦略が求められている。チロシンキナーゼ受容体型タンパク質TIE-1は血管内皮細胞に発現し、血管新生および血管の安定性に関与する分子であるが、近年、白血病細胞あるいは乳癌、メラノーマなど種々の癌組織においてTIE-1の過剰発現および腫瘍血管の発生への関与が報告され、悪性腫瘍の進展や患者予後予測因子となる可能性も認識されてきた。しかし血管内皮細胞ではなく癌細胞におけるTIE-1の腫瘍生物学的な意義はいまだ解明されていない。我々は先行研究で、卵巣癌細胞においてTIE-1がDNA修復機構を介して抗癌剤耐性に関与することを明らかにし、さらにTIE-1の発現を抑制することで癌細胞の増殖も抑制されることを示した。今回我々は、TIE-1がDNA修復機構のほかに卵巣癌細胞の増殖や生存へ関与する機序を解明した。
【研究の方法】
11種の卵巣癌細胞株(A2780、A2780CP、PE01、PE04、ES2、CAOV3、JHOC5、JHOC7、JHOC8、SKOV3、TOV112D)を用いて実験を行った。TIE-1を強制発現または抑制し、細胞増殖速度を比較することにより、TIE-1の細胞増殖への関与を検証した。さらに、TIE-1を抑制または強制発現することで、PI3K/AKT経路をはじめ、細胞増殖や細胞生存に関与する因子の蛋白およびmRNA発現を確認し、TIE-1によって制御されている分子を同定した。
【結果・考察】
TIE-1 siRNAを卵巣癌細胞に作用させると、細胞の増殖や生存に関与する一連の因子PI3K/Akt経路の介在分子であるp110αが蛋白レベルでもmRNAレベルでも減少し、phospho-Aktの発現も顕著に減少した。TIE-1はPI3Kを制御して細胞増殖に関与している可能性が考えられた。さらに、11種類の卵巣癌細胞株においてTIE-1ノックダウンによる細胞増殖速度の変化を検証したところ、PI3K高発現の細胞株(SKOV3、CAOV3)では優位に細胞増殖が抑制され、PI3K低発現の細胞株(TOV112D、A2780)では細胞増殖の抑制は弱かった。以上よりTIE-1はPI3Kの上流調節因子として細胞増殖に関与しており、さらにPI3K高発現の癌に対して特異的に細胞増殖抑制作用を発揮すると考えられた。またPI3K低発現細胞株TOV112Dにおいて、TIE-1を強制発現すると、PI3Kの高発現が誘導され、PI3K依存的な表現型を示した。よって、TIE-1は、PI3K/Aktシグナル伝達経路を調節することにより、細胞増殖に関与すると考えられた。TIE-1はPI3K高発現卵巣癌に対する新たな治療標的となり得る。