癌関連線維芽細胞はWnt5aを介して大腸癌の進展を促進する
概要
癌の進展には癌細胞を取り巻く“癌微小環境”が重要な役割を担っており、その構成要因の一つである癌関連線維芽細胞(Cancer-Associated Fibroblast: CAF)が癌細胞の浸潤や転移などに関与していることが近年報告されている。しかしながら、CAF による癌制御機構は未だ不明な点が多いのが現状であり、本研究では手術検体よりCAF と正常線維芽細胞(Normal Fibroblast: NF)の初代培養を行い、CAF による大腸癌の制御機構を解明する事を目的とした。5 症例から得られた CAF と NF の遺伝子発現プロファイルを解析したところ、Wnt シグナル経路に関連する遺伝子群がCAF で高発現しており、特にβ-カテニン非依存Wnt シグナル経路に関連する遺伝子が CAF と NF で有意に異なる結果を得た。さらにβ-カテニン非依存経路のなかで WNT5A が CAF で高発現しており、CAF の Wnt5a 発現が癌組織において重要な働きを担っていることが示唆された。Wnt5a を介したCAF と癌細胞の相互作用を解析するため、in vitro での機能解析および免疫組織化学による臨床病理学的検討を行った。Wnt5a 特異的siRNA を用いてCAF のWnt5a 発現を抑制し、大腸癌細胞株の遊走能を検討したところ、Wnt5a の発現抑制により大腸癌細胞株の遊走能が低下する傾向を認めたが、有意差は認めなかった。続いてヒトリコンビナントWnt5a タンパク質を用いて大腸癌細胞株を刺激したときの増殖能・遊走能の変化を検討した。その結果大腸癌細胞株の増殖能および遊走能が有意に上昇した。免疫組織化学による検討では、Wnt5a は正常上皮細胞や癌細胞でも発現を認めたが癌組織の間質でより強い発現を認め、高発現群では、腫瘍径が有意に大きく(P = 0.014)、腫瘍の深達度が有意に深かった(P < 0.001)。また、リンパ管侵襲陽性例(P < 0.001)、静脈侵襲陽性症例(P = 0.002)、リンパ節転移陽性症例(P < 0.001)が Wnt5a 高発現群で有意に多く、TNM Stage III 以上の症例(P < 0.001)も有意に多い結果であった。Stage I-III 症例の 140 例について検討したところ、Wnt5a 高発現群では手術後に再発した症例が有意に多かった(P = 0.012)。以上より、CAF はWnt5a を介して大腸癌の進展に関与していると考えられた。