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書き出し

出芽酵母を用いたプロテアソームによる分裂寿命制御機構の解明

趙, 憲 東京大学 DOI:10.15083/0002007097

2023.03.24

概要

























本論文は、真核生物の多様な細胞機能制御に必須の役割を果たすタンパク質分解酵素複合体プ
ロテアソームの活性が、寿命を変化させる分子メカニズムの解明を目指したものである。特に出
芽酵母の分裂寿命に注目し、プロテアソームの変異の中でも最も分裂寿命の短縮が顕著であった
Rpn10 欠損株の寿命を回復させるような復帰変異を網羅的に探索した結果、11 個の候補遺伝子
を寿命延長に効果ある遺伝子として同定するに至った。
ユビキチン・プロテアソームシステム (ubiquitin-proteasome system, UPS) は、ユビキチン修飾
を受けたタンパク質の分解を通じて、真核生物の多様な細胞機能を制御することにより、細胞及
び個体の恒常性の維持に重要な役割を担っている。近年、老化に伴う異常タンパク質の蓄積が、
細胞老化を促進する主要な原因である可能性が指摘されている。多くの生物種において、プロテ
アソームの活性は加齢とともに低下していくことから、プロテアソームは寿命と密接な関連があ
ることが推測される。プロテアソームが寿命に影響を与えるメカニズムに関して現時点で分かっ
ていることは、プロテアソームは sirtuin や TOR (target of rapamycin) といった代表的な寿命決定
の経路とは独立して寿命に影響を与えているということである。これはプロテアソームが sirtuin
や TOR と並ぶ重要な寿命決定因子であることを示唆している。しかしながら、プロテアソーム
の活性変化がどのようにして寿命に影響を与えるかに関しては殆ど分かっていない。そこで本研
究では、出芽酵母の分裂寿命に注目した。出芽酵母は名前の通り母細胞から娘細胞が出芽して分
裂するが、母細胞は分裂できる回数に制限があり、この回数を分裂寿命と言う。1 つの母細胞が
一生の間に分裂できる回数には 20-25 回の限度があり,最終的には娘細胞を産むことができなく
なる。つまり、出芽酵母の分裂寿命は、出芽する娘細胞の数として定義される。また、寿命制御
に関与する遺伝子は、酵母からヒトまで高度に保存されている。このことから、出芽酵母は老化
研究モデルとして非常に有用であると考えられる。
本研究では、まず出芽酵母の分裂寿命を簡単に測定できる BY-K6001 株を構築した。この株で
は、必須遺伝子 CDC6 が、ガラクトースにより誘導される GAL1 プロモーターと母細胞特異的に
発現する HO 遺伝子のプロモーターの両者により発現する。構築した BY-K6001 株は、ガラクト
ース存在下では正常に成長した一方で、グルコース存在下では、コロニーが形成されず、娘細胞
は CDC6 遺伝子の発現停止により、増殖が抑制されていることが確認できた。
続いて構築した BY-K6001 株を用い、分裂寿命の測定が可能かどうかを調べた。短寿命な Sir2
欠損株と長寿命な Fob1 欠損株を液体培地で培養し、培地の濁度を継時的に測定した結果、短寿
命な Sir2 欠損株の濁度上昇が培養期間の早い時期に止まるのと比べ、長寿命な Fob1 欠損株にお
いては濁度上昇が長時間継続した。このことから、BY-K6001 株を用いることによって分裂寿命
の長短は液体培地の濁度測定によって簡単に測定できることを確認した。
次に、プロテアソーム遺伝子の変異により短寿命となった株の寿命を正常に戻す変異のスクリ
ーニングを行う準備として、まず利用可能なプロテアソーム遺伝子変異のうち、どの変異がスク
リーニングに最も適しているのかを検討した。まず、欠損させても致死とはならない 10 種のプ
ロテアソーム関連遺伝子アレルを BY-K6001 株に四分子解析によって導入した。導入された変異
によって短寿命になった BY-K6001 株は、グルコース培地で一定時間培養するとその培養中に母
細胞の分裂回数の限界に達し、ガラクトース培地に戻して培養しても娘細胞の増殖が不可能とな
る。一方、導入された変異によって短寿命にならなかった株は、グルコース培地での一定時間培

養中には分裂回数の限界に達さず、再びガラクトース培地で培養すると娘細胞の増殖が回復する。
この現象を利用した回復実験を行った結果、Ump1と Rpn10 の二つの欠損株において、グルコ
ース培地での培養後、再びガラクトース培地で培養した際に増殖の回復が認められず、短時間内
で分裂回数の限界に達したことが示された。このことから、Ump1 欠損株と Rpn10 欠損株をスク
リーニングに用いる変異株候補として選択した。
さらに Ump1 欠損株と Rpn10 欠損株の分裂寿命を詳細に調べた結果、Ump1 と Rpn10 の欠損
株は共に野生型株に比べて分裂寿命が確かに短くなっていること、また Rpn10 欠損株の方が
Ump1 欠損株よりも分裂寿命が短くなっていることがわかった。次に、Rpn10 欠損株において観
察された分裂寿命の短縮が本当に RPN10 遺伝子の欠損に由来するものかどうか遺伝子の相補実
験により確認した。Rpn10 欠損株に RPN10 遺伝子をプラスミドで入れ戻し、濁度測定を行った。
その結果、導入された RPN10 遺伝子によってグルコース培地における分裂回数の減少が相補さ
れた。Rpn10 欠損株で観察された分裂寿命の減少は確かに Rpn10 の欠損によることが確認され
た。これらの結果から、Ump1 欠損株と Rpn10 欠損株のうち、寿命を延長させる変異のスクリー
ニング用株として Rpn10 欠損株がより適切な株と判断した。
続いて Rpn10 欠損によって短くなった寿命を回復させる変異を網羅的に探索するために非必
須遺伝子については出芽酵母ノックアウト(Yeast Knock Out : YKO)ライブラリー、また必須遺
伝子については遺伝子の発現を低下させた DAmP (Decreased Abundance by mRNA Perturbation)
ライブラリー、の二つの変異ライブラリーを用いることにした。Rpn10 欠損株にこの二つのライ
ブラリー変異のいずれかを synthetic genetic array (SGA) 法で導入し、二重変異株ライブラリーを
作製した。
しかしながら、数千の二重変異株に対して一つずつ濁度を測定するのは現実的ではない。そこ
で母細胞の出芽痕に存在するキチン量測定を利用した分裂寿命の測定法である High-Life
(high-throughput replicative lifespan measurement)法を用いて長寿命株をライブラリーから選択す
る こ と に し た 。 High-Life 法 は 最 初 に フ ル オ レ セ イ ン ( 緑 色 ) を 結 合 さ せ た
N-hydroxysuccinimide-ester (NHS-ester)で細胞壁を標識し、標識されたもののみを母細胞として選
択できるようにして、さらに赤色の propidium iodide (PI) 染色で死細胞を除去したのち、生きて
いる母細胞のキチン量を CF405M-WGA の染色により測定する、という方法である。実際に、野
生型株と Rpn10 欠損株のキチン量と生存率との関係をフローサイトメトリーで継時的に測定し
た結果、Rpn10 欠損株は野生型株に比べ、キチン量が増加する前に生存率が下がった。このこと
から、母細胞の出芽痕に存在するキチン量測定を利用した High-Life 法が分裂寿命の測定法とし
て使用可能であることを確認した。
以上を踏まえ、BY-K6001 株と High-Life 法を組み合わせて出芽痕のキチン量を指標としたス
クリーニングを実施した。構築した二重変異株ライブラリーを NHS-ester、PI、CF405M-WGA で
三重染色し、Rpn10 欠損株と比べ、キチン量が増加している株をセルソーターで回収した。非必
須遺伝子については回収された YKO 細胞を用いた Barcode-sequencing (Bar-seq) 解析から、細胞
数が 4 倍以上増加した遺伝子として 197 遺伝子を取得した。さらに MATa 細胞と MATa 細胞の
解析結果の重ね合わせにより、8 遺伝子を候補として絞り込んだ。また必須遺伝子に関しては、
回収された DAmP 細胞をシングルコロニー化し、Inverse PCR を用いて3つの候補遺伝子を同定
した。
以上の結果から、趙憲は以下の成果を示した。出芽酵母の分裂寿命を簡単に測定できる
BY-K6001 株を構築し、プロテアソームサブユニット Rpn10 の欠損で分裂寿命が短縮することを
明らかにした。また独自に構築した網羅的スクリーニングによって Rpn10 欠損株の短縮した分
裂寿命を回復させる変異を 11 個同定した。今後得られた変異によって分裂寿命が回復する機構
を解析することで、プロテアソーム機能と寿命との関連性の詳細が明らかになると考えられる。
よって本論文は博士(薬科学)の学位請求論文として合格と認められる。

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