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老化細胞特異的な生存維持因子の網羅的探索

周, 翔宇 東京大学 DOI:10.15083/0002005165

2022.06.22

概要

【序論】
細胞⽼化とは、度重なる細胞分裂によるテロメアの短縮や、DNA傷害などの様々なストレス、がん遺伝⼦の活性化などによって、細胞周期が不可逆的に停⽌する現象である。細胞⽼化は、ストレスに応答して細胞分裂を停⽌させる細胞⾃律的な腫瘍抑制機構としての役割を持つと考えられてきたが、近年は⽼化細胞が炎症性サイトカインを含む様々な分泌因⼦を⾼発現する現象である「細胞⽼化随伴分泌現象」を介して様々な⽣理的役割を持つことも明らかになっている。これまでに、⽣体において細胞⽼化を起こした細胞(⽼化細胞)が加齢に伴い増加することや、加齢性疾患の病変部位において⽼化細胞が観察されることなどから、細胞⽼化が個体⽼化に関与することが⽰唆されてきた。近年、成体マウスにおいて、細胞⽼化マーカーであるp16を発現する細胞に細胞死を誘導することや、⽼化細胞選択的に細胞死を引き起こす化合物を投与することによって、加齢に伴う機能低下が緩和し、健康寿命が延伸することが報告され、⽼化細胞が個体⽼化に対して促進的に働くことが⽰された。そのため、⽼化細胞選択的な細胞死の誘導(“senolysis”と呼ばれる)が加齢関連疾患に対する治療戦略として有⼒視されており、その⼿法の探索が盛んに⾏われている。しかし、senolysisを引き起こす上で重要な標的となる、⽼化細胞特異的な⽣存維持機構はほとんど明らかになっていない。そこで私は本研究において、⽼化細胞特異的な⽣存維持因⼦を新たに同定することを⽬的としたゲノムワイドsiRNAスクリーニングを⾏った。

【⽅法・結果】
1.⽼化細胞特異的な⽣存維持因⼦を同定するためのsiRNAスクリーニング系の構築
本研究では、正常なヒト線維芽細胞(正常細胞)およびDNA傷害性の薬剤であるドキソルビシンによって細胞⽼化を誘導した同細胞(⽼化細胞)のそれぞれに対して、約18,000個のヒト遺伝⼦に対するsiRNAを個別に処置し、発現抑制により⽼化細胞選択的に⽣存度が低下する遺伝⼦を陽性とするゲノムワイドsiRNAスクリーニングを⾏うことにした。

ゲノムワイドsiRNAスクリーニングでは、多数の実験条件におけるデータをhigh-throughputかつ⾼精度に得る実験系を構築することが重要である。私は、予めゲノムワイドsiRNAライブラリーを分注した384ウェルプレートにおいて、正常細胞または⽼化細胞の各遺伝⼦を発現抑制し、細胞の⽣存への影響を評価する実験系を構築した。細胞の⽣存度は、細胞内の脱⽔素酵素群の活性に⽐例して吸光物質を⽣じる試薬を培地に添加し、吸光度を測定することで定量した。本実験系は、細胞の播種からデータの取得に⾄るまでの操作を⾃動分注機およびプレートリーダーにより⾃動化したhigh-throughputな系である。また、正常細胞および⽼化細胞の両⽅において、⽣存に必要である既知の遺伝⼦の発現抑制による⽣存度の低下を⼗分な精度(Zʼ>0.5)で検出可能な系であることも確認された。以上より、スクリーニングに適⽤可能なhigh-throughputかつ⾼精度な実験系を構築できたと判断した。

2.⽼化細胞特異的な⽣存維持因⼦のゲノムワイドsiRNAスクリーニング
前述のスクリーニング系を⽤いて、1遺伝⼦あたり4種類のpooledsiRNAからなるゲノムワイドsiRNAライブラリーによる1次スクリーニングを実⾏した。測定した吸光度の値はrobustZ-scoreに変換し、プレート間の⽐較を可能にした。1次スクリーニングの結果、発現抑制によって顕著に細胞の⽣存度が低下した(robustZ-score<‒2.5)遺伝⼦を⽣存に必要な遺伝⼦としたところ、正常細胞では670個、⽼化細胞では232個の遺伝⼦がこれに該当した。これらの遺伝⼦に対してgeneontology解析を⾏った結果、正常細胞ではリボソームタンパク質をコードする遺伝⼦が⽣存に必要な遺伝⼦の中に集中していた⼀⽅、⽼化細胞の⽣存に必要な遺伝⼦の中に特定のgeneontologyを持つ遺伝⼦の集中は⾒られなかった。また、⽼化細胞の⽣存に必要な遺伝⼦の半数近くは正常細胞では⽣存に必要でない遺伝⼦であった。これらの結果から、正常細胞と⽼化細胞は少なくとも部分的には異なる⽣存維持機構を持つことが⽰唆された。次に、両細胞のスクリーニングにおけるrobustZ-scoreをもとに、発現抑制により⽼化細胞選択的に細胞の⽣存度が低下した184個の遺伝⼦を1次スクリーニングの陽性遺伝⼦として選出した。また、陽性遺伝⼦の選出基準となる閾値付近の陰性遺伝⼦のうち、陽性遺伝⼦や細胞⽼化、細胞死との関連が報告されている遺伝⼦が21個存在し、陽性遺伝⼦とともに2次スクリーニングの対象遺伝⼦とした。2次スクリーニングでは、1次スクリーニングと同様の実験系を⽤いて、1遺伝⼦あたり4種類のindividualsiRNAによるスクリーニングを⾏うことで、偽陽性の排除を⾏った。その結果、4種類中2種類以上のsiRNAにおいて⽼化細胞選択的に細胞の⽣存度が低下し、かつ再現性が確認される陽性遺伝⼦を10個同定した。

3.⽼化細胞特異的な⽣存維持因⼦としてのCHMP2A遺伝⼦の同定
スクリーニングにより得られた陽性遺伝⼦が、通常スケールの実験条件でも⽼化細胞における⽣存に必要であるか否かを追証した。その結果、少なくとも5個の陽性遺伝⼦については、発現抑制によって⽼化細胞の⽣存度が正常細胞の⽣存度と⽐較して有意に低下した。さらに、細胞にHRASの恒常活性化型変異体を過剰発現させることにより細胞⽼化を誘導するがん遺伝⼦誘導性細胞⽼化モデルにおいても、これら5個の遺伝⼦の発現抑制実験を⾏った結果、CHMP2A遺伝⼦でのみ複数のsiRNAにおいて⽼化細胞の⽣存度が正常細胞の⽣存度と⽐較して有意に低下した。これらの結果から、スクリーニングにおいて陽性遺伝⼦として同定されたCHMP2A遺伝⼦が⽼化細胞特異的な⽣存維持因⼦であると判断した。

4.細胞⽼化によるCHMP2Aの細胞内局在変化
CHMP2Aの遺伝⼦産物がどのようにして⽼化細胞特異的な⽣存維持機能を持つのかを知るために、まず細胞⽼化によってCHMP2Aが発現上昇するか否かを検証したところ、CHMP2Aのタンパク質発現量は細胞⽼化によって上昇しないことが分かった。そこで私は、CHMP2Aの細胞内局在や翻訳後修飾などに変化が⽣じている可能性を考え、正常細胞および⽼化細胞におけるCHMP2Aの細胞内局在を蛍光免疫染⾊法を⽤いて調べた。その結果、正常細胞においてはCHMP2Aが細胞内にほぼ⼀様に検出された⼀⽅で、⽼化細胞においてはCHMP2Aが核内の⼀部分に集積することが判明した。⽼化細胞におけるCHMP2Aの集積部位は核⼩体マーカーと共局在を⽰したことから、CHMP2Aが細胞⽼化によって核⼩体へ集積するようになることが明らかになった。

【考察・展望】
私は本研究において、⽼化細胞特異的な⽣存維持因⼦を同定するためのゲノムワイドsiRNAスクリーニング系を構築した。そして、構築したスクリーニング系を⽤いて、約18,000個のヒト遺伝⼦から10個の陽性遺伝⼦を同定し、陽性遺伝⼦の中から複数の細胞⽼化誘導モデルにおいて⽼化細胞特異的に⽣存維持に必要である因⼦としてCHMP2A遺伝⼦を同定した。さらに、⽼化細胞においてCHMP2Aが核⼩体に集積することを⾒出した。CHMP2Aは、細胞内の様々な⽣体膜のリモデリングを⾏うタンパク質複合体であるESCRT-Ⅲの構成因⼦であるが、これまでにCHMP2Aを含めESCRT-Ⅲが膜を持たない核内構造体である核⼩体において機能を持つかどうかは知られておらず、今回⾒出したCHMP2Aの局在変化は、⽼化細胞においてCHMP2Aが新規機能を介して⽣存維持に寄与することを⽰唆する点で興味深いものである。今後、CHMP2Aがどのような機構で⽼化細胞の⽣存に寄与するかを解析することにより、⽣体において⽼化細胞選択的に細胞死を誘導する上での新たな標的を提⽰することが可能になると期待される。

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