マウスにおける亜鉛欠乏が嚥下機能に及ぼす影響
概要
(書式18)
学
(
位 論 文 要 約
A b s t r a c t )
博士論文題目 Title of dissertation
マウスにおける亜鉛欠乏が嚥下機能に及ぼす影響
東北大学大学院医学系研究科医科学専攻
神経・感覚器病態学講座 耳鼻咽喉・頭頸部外科学
氏名 Name
小柴
分野
康利
摂食・嚥下障害には大きく二つの問題点があり、第一に経口摂取が不良になる点、第二に下気道の
防御機能が低下する点である。後者は、誤嚥性肺炎や窒息のリスクが増すことで、生命予後に大きな影響を与
えている。嚥下障害患者の栄養状態の特徴として、エネルギーや蛋白質、亜鉛を含めた必須微量元素の減少が
報告されている。亜鉛は、ヒトの生体において 300 種以上の補酵素に関与し、欠乏すると皮膚障害や消化管
障害、味覚障害など様々な臨床症状が出現する。また、亜鉛欠乏では筋萎縮や骨格筋量の重量の低下、仕事量
の低下を起こす報告もある。これらの報告から、亜鉛欠乏は嚥下運動の「準備期」
、
「口腔期」を中心に障害を
もたらすと推測し、亜鉛欠乏マウスに対し嚥下透視検査などを用いて検証することとした。
雄の C57BL/6 マウス、20 匹を 4 週齢で購入し、コントロール群と亜鉛欠乏群とに、それぞれ 10 匹ず
つランダムに振り分けた。1 週間の馴化を行った後に、各群にそれぞれコントロール餌、低亜鉛餌を投与し、
10 週齢まで飼育した。体重、摂餌量は毎週測定し、嚥下透視検査は 5 週齢、10 週齢で 2 回行った。10 週齢
での嚥下透視検査の後に採血を行い、組織学的分析として準備期の指標として舌、咽頭期の指標として顎二腹
筋前腹を採取し解析した。
亜鉛欠乏群では、8 週齢以降に有意な体重減少を認め(p<0.05)
、食餌摂取量も減少した。血清亜鉛濃
度は、亜鉛欠乏群で有意な低下を認めた(p<0.05)
。組織学的分析では、亜鉛欠乏群で舌筋において筋線維の
断面積の割合に変化を認める一方、顎二腹筋前腹では有意な変化を認めなかった。嚥下透視検査では、5 週齢
で有意差を認めなかったが、10 週齢で準備期の 2 項目、咽頭期の 1 項目で有意差を認めた。準備期では 1 回
嚥下当たりの皿にある造影剤を口腔内へ運ぶ運動(以下「舐める」と表記)回数の有意な増加(p<0.05)、1
秒当たりの顎の開閉回数の有意な増加を認め(p<0.05)、咽頭期では食塊面積の有意な減少(p<0.05)、を認
1
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めた。
本研究から、マウスを用いた亜鉛欠乏モデルでは、嚥下関連筋の筋線維の変化や嚥下透視検査の嚥下
運動の変化から、
「準備期」を中心に嚥下関連筋の運動機能低下が示唆された。本研究の結果と、亜鉛欠乏症
では咽頭知覚低下による咳反射低下が生じるという報告を鑑みると、亜鉛欠乏症は嚥下関連器官の感覚と運動
機能の両面で誤嚥性肺炎のリスク因子となる可能性が考えられた。 ...