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書き出し

光化学系IIの量子収率を指標にした植物工場におけるLED照射の標準化

野末, 雅之 信州大学

2020.03.12

概要

1版

様 式 C−19、F−19−1、Z−19 (共通)

科学研究費助成事業  研究成果報告書
平成 30 年

6 月 25 日現在

機関番号: 13601
研究種目: 基盤研究(C)(一般)
研究期間: 2015 ∼ 2017
課題番号: 15K07664
研究課題名(和文)光化学系IIの量子収率を指標にした植物工場におけるLED照射の標準化

研究課題名(英文)Standardization of LED irradiation based on quantum yield of photosystem II in a
plant factory with artificial lighting
研究代表者
野末 雅之(Nozue, Masayuki)
信州大学・学術研究院繊維学系・特任教授

研究者番号:30135165
交付決定額(研究期間全体):(直接経費)

3,700,000 円

研究成果の概要(和文): 人工光型植物工場における効率的なLED光環境を構築するために、光合成環境を総
合的に評価する指標としてのPSII量子収率(ΦII)の有用性について調査した。また、種々の広域分光スペクト
ルをもつ白色LEDを用いて光質と消費電力量との関係を調査した。その結果、効率的な野菜生産には赤、青、遠
赤色光に適正な光強度比が存在すること、赤色光強光照射で生じる光阻害が遠赤色光補光によって軽減されるこ
と(Fv/FmとΦIIの回復)がわかった。本研究により、光質と光強度の最適化が効率的な野菜生産に必須である
こと、その光合成環境がΦIIによって総合的に評価できることが示唆された。

研究成果の概要(英文):
The availability of the quantum yield of PSII (Φ II) as an index for the
evaluation of photosynthetic environment was validated in a plant factory with LED lighting. The
relationship between light quality and power consumption in vegetable production was also
investigated using various white LEDs that have a broad spectrum. It was shown the existence of the
appropriate ratios between the light intensity of blue, red and far-red for the efficient production
of vegetables. The photoinhibition caused by high intensity of the red light was alleviated by
light supplement with far-red. The present studies suggested that the optimization of both light
quality and intensity is essential and the measurement of Φ II makes it possible to evaluate the
photosynthetic environment needed for the efficient vegetable production.

研究分野: 植物環境工学
キーワード: 人工光型植物工場 光化学系II 量子収率 光質 光強度 遠赤色光 消費電力 白色LED

様 式 C−19、F−19−1、Z−19、CK−19(共通)
1.研究開始当初の背景
⑴蛍光灯を主体とする従来の人工光型植物
工場では生産コストの大半を照明の消費電
力が占める。そのため、植物工場ではエネル
ギー効率の良い野菜生産が求められてきた。
⑵植物は光合成で固定される二酸化炭素量
以上には成長できない。光は植物工場にとっ
て最も重要な環境要因といえる。したがって、
効率的な野菜生産には、高い光合成効率を達
成するための光環境の最適化が必須である。
⑶蛍光灯の製造、販売が間もなく停止される
ことから、蛍光灯に変わる新たな光源として
発光ダイオード(LED)が注目されている。
植物育成用 LED の条件として、蛍光灯と同
等以上の植物育成効果と省エネルギー効果
があげられる。しかし、そのような LED 照
明法は必ずしも確立されていない。
⑷人工光型植物工場での光環境要因として
光質と光強度があげられるが、温度、湿度、
二酸化炭素濃度などの環境要因によって最
適な光環境は変動する。また栽培する品目に
よっても最適な光環境は異なる。全ての要因
を考慮して光合成環境を総合的に評価し、人
工光型植物工場での最適な光環境を構築す
るのは容易ではない。
⑸人工光型植物工場では、ある程度の光合成
効率が保持されかつ高い光合成速度が得ら
れる光強度の設定が重要となる。しかし、
様々な光合成環境下で適正な光強度を設定
するための標準化された方法は確立されて
いない。
2.研究の目的
本研究では人工光型植物工場における効
率的な野菜生産のための光環境を構築する
ために以下の検討を行った。
⑴PAM クロロフィル蛍光測定により得られ
る光合成パラメータから光合成効率と光合
成速度を推定することができる。それらのパ
ラメータのうち、光化学系 II(PSII)の量子
収率(ΦII)を指標にして光合成環境を評価
し適正な光強度を設定する方法について検
討した。
⑵光質により光合成効率は大きく異なる。そ
こで、光質(特に遠赤色光)が適正な光強度
にどのように影響するか、光阻害に着目して
検討した。
⑶効率的な野菜生産は最終的には消費電力
量に反映される。そこで、白色 LED を用い
て、光質(青、赤、遠赤色光の光量子束比)
が生産量と消費電力量にどのように影響す
るかを実証試験した。
3.研究の方法

⑴ΦII と電子伝達速度(ETR)の測定と野菜
成育
異なる LED 光強度下でロメインレタス
(80
〜200 μmol photons m-2s-1)とコマツナ(120
〜300μmol photons m-2s-1)を水耕栽培し、
それぞれ生産量(新鮮および乾燥重量)、Φ
II、電子伝達速度(ETR)
、消費電力量を測定
した。また、LI6400 (LI-COR)を用いてΦII
と ETR の light-curve を測定した。
⑵ 光質と光阻害
ワサビ葉を用いて光阻害を指標とした光
環境(光質と光強度)の評価を行った。植物
は強光を吸収して生じた過剰な光エネルギ
ーが安全に消去されないと光障害を引き起
こす。陰生植物であるワサビは強光感受性が
高いと考え、本実験に供試した。青単色光、
赤単色光および白色光(青、緑、赤単色光混
合)の各 LED 下でワサビを栽培し、経時的
に PAM クロロフィル蛍光測定を行った。
Fv/Fm の低下を光阻害の指標とした。
⑶ 白色 LED の分光スペクトルと生産性
光質の生産性に対する影響を検証するた
めに、広域分光スペクトルを持つ種々の白色
LED 素子を用いて灯具を作製し、ロメインレ
タスを水耕栽培した。光質を青色光(B)
、赤
色光(R)および遠赤色光(FR)の3領域に
分類した。R/B 比と R/FR 比(光量子束比)
に注目し、生産量と消費電力量との関係を調
べた。
4.研究成果
⑴ ΦII による光環境評価
ロメインレタス、コマツナともに栽培時の
光強度の増加に伴いΦII が顕著に低下する
が、成長量は増加した。これは、光合成効率
が低下しても光合成速度が光飽和に達する
までは成育が進むためと思われる。ΦII と光
強度(PAR)の両方のパラメータを含む ETR
は両品目とも光強度の増加とともに上昇し
た。ETR は光合成効率と光合成速度の両者を
考慮したパラメータとして有効と思われる。
ΦII と ETR の関係をより詳細に検証するた
めに、両者の Light-curve を求めた(図1)

ΦII と ETR は明確に相反する関係を示す。Φ
II は光強度の増加と逆に直ちに低下する。一
方、ETR は光強度が増加する初期は直線的に
上昇し、やがて上昇率は減少する。ETR と光
強度の増加が直線関係を示す最大の光強度
付近で、成長量あたりの消費電力量が最も低
く、この成育環境下での最適な光強度と判断
できる。
ΦII および ETR は栽培環境の光強度を総合
的に評価するのに有効と思われる。
⑵ 光阻害に対する光質の影響
光強度の増加とともにΦII が減少する。過
剰な光は光合成効率を低下させるだけでな
く生産量の減少に直結する光阻害を引き起

(730 nm)を補光すると Fv/Fm の低下とΦII
の減少がともに軽減された(図2)

遠赤色光の光合成効率に対する影響が調
べられている(引用文献③)
。赤色光(638 nm)
と青色光(453nm)LED で栽培されたレタスに
遠赤色光(735 nm)を補光すると、ΦII が直
ちに増大し、しばらくして熱放散の指標とな
る NPQ が減少、光合成速度の増加が観察され
る。この遠赤色光効果に対して、次のような
理由が考えられる。赤や青色光照射では PSI
よりも PSII が優先して励起されるため、両
光化学系間で励起アンバランスが生ずる。遠
赤色光補光すると PSI 励起が促進されるので
励起アンバランスが解消され、電子伝達全体
が円滑に進み、PSII の量子収率が向上すると
考えられる。
太陽光放射には 700 nm 以上の遠赤色光が
豊富に含まれるが、遠赤色光含まない光源を
用いた人工光型植物工場では PSI の恒常的励
起不足が懸念される。ワサビ葉における赤色
光照射下でのΦII が低下し、光阻害が生ずる
一因として、PSI の励起不足の関与が考えら
れる。本研究から、人工光型植物工場におけ
る遠赤色光の重要性が示唆された。

こし、照明エネルギーコストの多大な浪費と
なる。しかし、光合成速度は光飽和に達する
まで増大するため、可能な限り光強度を上げ
て成育を促進させたい。そこで、光阻害に対
する光質の影響について調査した。
陰生植物のワサビ葉に各種光質の LED を
200 μmol photons m-2s-1 で連続照射すると、
赤色光照射により Fv/Fm が低下し、ΦII も同
様に減少した。この時、赤色光に遠赤色光

⑶ 光質と省エネルギー栽培の実証
R/B 比および R/FR 比が異なる 15 種類の白
色 LED を用いてロメインレタスを水耕栽培し、
収穫時の生産量と栽培に要した積算消費電
力量を測定した。その結果、R/B 比が 2〜5、
かつ R/FR 比が 3〜10 の範囲内であれば、蛍
光灯よりも成育が促進されることがわかっ
た(蛍光灯の R/B 比は 0.5、R/FR 比は 1.3)
(図3)。上記の範囲からどちらか一つでも
外れると、成育は遅延した。
本調査により、植物育成には青色光、赤色
光および遠赤色光各領域の光質適性比が存
在することが明らかになった。
また、上記の白色 LED 栽培における消費電
力量はいずれも蛍光灯の約 1/3 に軽減された。
人工光型植物工場における効率的な野菜
生産は、最終的には消費電力量の低減として
認識される。その要因として、光質と光強度
の最適化が重要であり、その程度はΦII を測
定することにより総合的に評価できる可能
性が示された。
<引用文献>
① 野末雅之, 人工光型植物工場における
LED 光環境の最適化とその評価の試み, アグ
リバイオ, 1 巻, 2017, 49-51
② 野末雅之, 野末はつみ, 五味正男, 人
工光型植物工場における LED 光環境の最適化
と白色 LED の可能性, アグリバイオ, 12 巻,
2017, 76-80
③ Zhen, S., and van Iersel, M. W.,
Far-red light is needed for efficient
photochemistry
and
photosynthesis,
Journal of Plant Physiology, 209, 2017,
115-122
④ 野末雅之, 野末はつみ, 野菜栽培にお
ける白色 LED の効果と可能性, 施設と園
芸,181 巻, 2018, 19-23

5.主な発表論文等
〔雑誌論文〕
(計 5 件)






野末雅之, 野末はつみ, 野菜栽培にお
ける白色 LED の効果と可能性, 施設と園
芸, 181 巻, 19-23, 2018, 査読無, ISSN
0912-666X
野末雅之, 野末はつみ, 五味正男, 人
工光型植物工場における LED 光環境の最
適化と白色 LED の可能性, アグリバイオ,
12 巻 , 76-80, 2017, 査 読 無 ,
http://www.hokuryukan-ns.co.jp/maga
zines/agri.html
野末雅之, 人工光型植物工場における
LED 光環境の最適化とその評価の試み,
アグリバイオ, 1 巻, 49-51, 2017, 査読

,
http://www.hokuryukan-ns.co.jp/maga
zines/agri.html





Nozue, H., Oono, K., Ichikawa, Y.,
Tanimura, S., Shirai, K., Sonoike, K.,
Nozue, M. and Hayashida, N.,
Significance of structural variation
in thylakoid membranes in maintaining
functional
photosystems
during
reproductive growth, Physiologia
Plantarum, 160, 111-123, 2017, 査読
有, ISSN 0031-9317
野末雅之, 高橋伸英, 野末はつみ, コ
ンテナ植物工場開発の現状と課題, 計
測技術, 44 巻, 11-16, 2016, 査読無,
ISSN0385-9886

〔学会発表〕
(計 13 件)
① 野末はつみ, 白井花菜, 野末雅之, 遠
赤色・緑色光から考える植物育成におけ
る広域スペクトル白色 LED の可能性, 日
本生物環境工学会 2017 年松山大会, オ
ーガナイズドセッション I, 2017
② 久保勇人, 野口諒太, 岡本千晶, 野末
はつみ, 野末雅之, ワサビ植物におけ
る養液濃度の違いが生育および光合成
特性に及ぼす影響, 日本生物環境工学
会 2017 年松山大会, 2017
③ Nozue, H., Shirai, K., Kajikawa, K.,
Gomi, M. and Nozue, M., White LED light
with
wide
wavelength
spectrum
promotes
high-yielding
and
energy-saving
indoor
vegetable
production, International Society for
Horticultural Science GREENSYS 2017,
2017
④ Tanimura, S., Nozue, H., Shirai, K.,
Kumazaki, S. and Nozue, M., Changes in
PSI/II ratio of Arabidopsis thaliana
induced by long term acclimation to
red, green and blue LEDs, 第 58 回日
本植物生理学会年会, 2017
⑤ 種五勇気, 佐藤翔, 白井花菜, 岡本千
晶, 野末はつみ, 野末雅之, 陰生植物
の赤色光 LED による光阻害と遠赤色光
LED 補光によるその緩和, 第 58 回日本植
物生理学会年会, 2017
⑥ 谷村駿, 野末はつみ,野末雅之, 単色光
LED 長期投与が光合成システムに与える
影響, 日本生物環境工学会 2016 年金沢
大会, 2016
⑦ 関拓弥, 野末はつみ, 野末雅之, 遠赤
色光の光合成活性、形態および生産性へ
の影響, 日本生物環境工学会 2016 年金
沢大会, 2016
⑧ 種五勇気, 久保勇人, 岡本千晶, 野末
はつみ, 野末雅之, ワサビ植物の光阻
害に対する遠赤色光の影響, 日本生物
環境工学会 2016 年金沢大会, 2016
⑨ 野末はつみ, 白井花菜, 梶川幸治, 五
味正男, 野末雅之, 植物育成における









白色 LED の適性光量, 日本生物環境工学
会 2016 年金沢大会, 2016
白井花菜, 梶川幸治, 野末はつみ, 五
味正男, 野末雅之, 分光分布の異なる
白色 LED の植物育成効果, 日本生物環境
工学会 2016 年金沢大会, 2016
Sruta, R., Fukuda, S., Nozue, H.,
Kumazaki, S. and Nozue, M. ...

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