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野菜の品質向上を目的とした発光ダイオードとプラズマ照射水を用いた新規技術の開発に関する研究

肖, 凌冉 東北大学

2023.09.25

概要

野菜の品質向上を目的とした発光ダイオードとプラズマ
照射水を用いた新規技術の開発に関する研究

肖凌冉

目次
まえがき ................................................................. 1
第1章 発光ダイオードを利用したトマト果実の品質向上のためのオミクス解析
緒言 ................................................................... 4
第1節 メタボローム解析 ............................................... 5
材料および方法 ......................................................... 6
結果および考察 ........................................................ 11
第2節 トランスクリプトーム解析 ...................................... 15
材料および方法 ........................................................ 16
結果および考察 ........................................................ 18
第3節 マルチオミクス解析 ............................................ 20
結果および考察 ........................................................ 21
図表 .................................................................. 27
第2章 プラズマ照射水が葉菜の生育および品質に及ぼす影響
緒言 .................................................................. 55
材料および方法 ........................................................ 56
結果 .................................................................. 59
考察 .................................................................. 60
図表 .................................................................. 63
まとめ .................................................................. 72
謝辞 .................................................................... 75
引用文献 ................................................................ 76

まえがき

現在の野菜生産において,「健康,美味しさ,簡便」といったニーズの多様化に伴
い,収量や味だけではなく,栄養成分,特にビタミン類や機能性成分への関心が高
まっている(Prasad ・ Chakravorty, 2015).したがって,健康増進をもたらす栄養成
分の増加は野菜の品質と付加価値の向上につながる.特に,周年供給や,気候変動
に左右されない安定生産のための施設栽培や植物工場は,栽培コストが高いので,
付加価値の高い高品質野菜の生産技術が求められている(金山,2020)
.本研究で用
いた果菜類や葉菜類においては,乾燥や塩類あるいは低温といった環境ストレスを
与えることで有用成分を増加させる方法が良く知られている(金山,2020).一方,
光質の制御やプラズマを用いた野菜の高品質化に関する知見は少ない.
植物において光は,光合成および花成や形態形成において様々な役割を果たすが,
その役割においてスペクトルや色を意味する光質は重要である(Fukuda ら,2008;
Kelly ら,2021; Yoshida ら,2016).光質を制御する方法として光選択性ネットやフ
ィルムの利用があり,これら資材の利用により園芸作物の収量や品質を向上させる
ことが可能である(Ilić ・ Fallik, 2017).ほかの光質制御の方法として,人工光を利
用する方法がある.人工光は太陽光型植物工場を含む施設栽培における補光や,人
工光型植物工場における光源として,主に光合成を促進し,安定生産を実現するた
めに利用されている(Ohashi-Kaneko ら,2007).すでに人工光型植物工場における
商業栽培が行われている葉菜類においては,生育や収量とともに品質に及ぼす光質
の影響に関する研究が比較的進んでいる(Kozai,2013).一方,代表的な果菜類で
あるトマトでは補光に関する研究が行われており,寡日照条件下における発光ダイ
オード(LED)によるキャノピー内補光技術の開発などが進んでいる(Heuvelink ら,
2018). LED は電気エネルギーを光エネルギーに変換する効率が他の光源と比較して
高く,寿命も長い上,放熱が少なく小型軽量化も可能であるという利点を持ってい
る(Singh ら,2015).従って,LED は経済的かつ環境に優しく,また応用範囲の広
い光源として従来からの光源の代替品として良い選択肢になっている.この LED は
単色光を放射する特性を持つため,光質の影響に関する研究において有用であると
ともに,栽培技術への応用も可能である.既述のようにトマトでは,補光による光
1

合成の維持を目的とした研究が中心であり,光質の調節による果実の有用成分への
影響に関する研究は,収穫後の果実を用いた若干の報告(Panjai ら,2019)を除けば
希少である.
プラズマとは,固体,液体,気体に続く物質の第 4 の状態で,中性粒子に高エネ
ルギーの電子が衝突することで生まれる.これまでは,核融合技術やナノスケール
の微細加工技術の開発に欠かせないものとして,主に物理学や電子工学の分野で研
究されてきたが,大気圧環境下で生成されるプラズマ(低温プラズマ)が開発され
たことで農業などへの応用が可能となった.低温プラズマでは,室温に近い温度で
反応性の高いプラズマを供給することが可能であり(Adamovich ら,2017),その中
で,活性酸素種や活性窒素種の生成や,溶液への照射においては pH,電気伝導度,
酸化還元電位の変化が誘導される(Attri ら,2020a).近年低温プラズマは,医療お
よび食品産業を含む農業への応用にまで研究が広がっている(Attri ら,2020b;
Hoon Park ら,2015;Kumagai ら,2022;Sera ら,2010;Tsukidate ら,2022)
.例え
ば医療とその応用分野では殺菌(Kumagai ら,2022)や創傷の治療(Bekeschus ら,
2021)に関する効果,食品産業を含む農業分野では包装資材の表面処理(Pankaj ら,
2014)や作物の発芽と初期成長促進(Sera ら,2010)などに関する報告があり,低
温プラズマは物理学と生物学をつなぐ学際的な分野として急成長している
(Adamovich ら, 2017)
.低温プラズマ処理は,残留毒性がなく処理対象への損傷が
少ないなど環境にも植物体にも優しい技術であるため,その効果が実証されれば普
及させやすい.
現在,園芸作物の品質の向上と高付加価値化を実現する技術においては,その効
果とともに環境負荷が小さく安全性が高いことが必要条件となっている.LED およ
び低温プラズマを用いる新規技術はこれらの条件によく合致しているが,これらの
技術を生産に利用するためには,LED による光質制御や低温プラズマ処理の園芸作
物への影響を解明する必要がある.低温プラズマ処理は種子や幼植物への応用は可
能であるが,広範囲での処理が難しいため栽培現場での利用は難しい.そのため,
低温プラズマを照射し,活性酸素種や活性窒素種が溶解したプラズマ照射水を本研
究では用いることとした.そこで,第1章では異なる光質の LED 照射がトマト果実
の代謝に及ぼす影響を,第 2 章ではプラズマ照射水がレタスとコマツナの生育と品
2

質に及ぼす影響について解析することとした.

3

第1章

発光ダイオードを利用したトマト果実の品質向上のためのオミクス解析

緒 言

光合成およびバイオマス生産では青色と赤色の波長の効果が大きく(Bantis ら,
2018;Hogewoning ら,2010),形態形成や花成では青色,赤色,遠赤色の波長の光
が主に影響するとされている(Shibuya ・ Kanayama, 2014).植物の応答が光質によ
って異なることは,基礎研究および応用研究の両面で興味深く,これまでにも様々
な報告がある.本研究では取り上げないが,光質の影響としては花成制御が最もよ
く調べられており,モデル実験植物であるシロイヌナズナでは青色光と遠赤色光に
よる花成の促進と,赤色光による抑制が分子機構とともに報告されている(Eskins,
1992;Shibuya ら,2019)

花成以外の光質の影響としては,栄養成長に関する知見が比較的多い.例えば,
赤色光がトマトの茎と根の伸長を促進することが様々な光合成有効光量子束密度
(PPFD)で検証されている(Li ら,2017;Pham ら,2019;Wu ら,2014).同様な
赤色光の効果は他の園芸作物でも報告されており,レタスやハクサイの育苗時の草
丈は赤色光によって増加する(Chen ら,2021;Fan ら,2013)
.しかし,赤色光のみ
では形態異常が生じるため(Ouzounis ら,2016)
,正常な発育を促すためには赤色光
と異なる作用を有する青色光(Wu ら,2014)を混ぜる必要がある.栄養成長段階で
収穫される葉菜類では光質の影響が収穫期においても調べられており,レタスでは,
赤色光のみと比較して,青色光および青色光と赤色光の混合光の照射が収穫物の形
態と重量において好ましい影響を及ぼす(Johkan ら,2010).この他,光質は果実の
成熟にも影響を及ぼすことが知られている.すなわちトマト果実において,赤色光
はエチレンの生合成と着色を促進し(Lee ら,1997),この成熟促進効果は MADSRIN を含む成熟制御因子の発現促進によるとされている(Zhang ら,2020).
園芸作物では,品質に関わる成分の濃度に及ぼす光質の影響も調べられている.
葉菜類では,植物工場での生産が広く行われているレタスの報告が多く,例えば,
青色光を照射されたレタスにおいてアントシアニンおよびカロテノイドの濃度が高
まる(Li・Kubota,2009).果実でも,青色光の効果として,トマトではリコペンな
4

どカロテノイドの含量(Wang ら,2021; Xie ら,2019),リンゴおよびオウトウでは
アントシアニンの蓄積促進が報告されている(Kokalj ら,2019a, 2019b).トマトで
は,収穫後の照射ではあるが,リコペンなど数種類の機能性成分が赤色光によって
増加するとの報告もあり,興味深い(Panjai ら,2019).
以上のように,園芸作物と光質の研究では,生育および葉菜類の成分濃度に及ぼ
す影響が研究されてきたが,最近では果実の成分濃度に及ぼす影響が報告されるよ
うになってきた.しかし,光質が成分濃度に及ぼす影響に関する報告では,調査対
象となる成分が限られており,またその影響に関する生理機構解明のための遺伝子
発現の解析を同時に行った例も希少である.代謝物および遺伝子発現を網羅的に調
べることのできるオミクス解析を用いれば,応用につながる発見や新たな生理機構
の解明につながる成果が期待できる.そこで本研究では,果実のモデルであり,産
業的にも重要な野菜であるトマトに着目し,矮性の実験用品種‘Micro-Tom’を用い
てメタボローム解析とトランスクリプトーム解析を行い,光質の影響を明らかにす
ることとした.栽培期間を通して単色光を照射すると正常に生育できないため,本
研究では,栄養成長期には白色蛍光灯を用いて栽培した(Ouzounis ら,2016; Xiao ら,
2022a).開花後に,青色 LED または赤色 LED,および比較のために白色蛍光灯を照
射し,果実の成長に伴う成分蓄積に焦点を絞って光質の影響を調べた.

第1節 メタボローム解析

メタボロームは低分子の代謝物の総体であり,代謝物を網羅的に解析するメタボ
ローム解析はあらゆる生物種での利用が進められている(Sévin ら,2015).メタボ
ローム解析では,個々の代謝物の測定と比べると,得られる情報量が飛躍的に多く,
代謝物組成に及ぼす遺伝的要因あるいは環境要因による影響の全体像を把握できる
(Moco ら,2007).トマトにおいては,果実の組織特異的な代謝物組成やヘキソキ
ナーゼ遺伝子の過剰発現が代謝物へ及ぼす影響を明らかにするため,メタボローム
解析が用いられている(Moco ら,2007;Roessner-Tunali ら,2003).またメタボロ
ーム解析は,トマトの近縁野生種やその染色体断片置換系統を材料とした,環境ス
トレス応答や栄養価に関連する代謝物を明らかにする研究においても利用されてい
5

る(Ikeda ら,2016;Schauer ら,2005)
.一方,トマト果実の代謝物に及ぼす光質の
影響については,カロテノイドやフラボノイドなどの抗酸化関連代謝物の報告はあ
るが(Liu ら,2009;Panjai ら,2019;Wang ら,2021;Xie ら,2019)
,メタボロー
ム解析によるアプローチは見当たらない.そこで本節では,光質がトマト果実の代
謝物に与える影響について,メタボローム解析によって代謝物を網羅的に解析する
ことで,光質の影響を明らかにすることとした.青色光や赤色光の照射による高蓄
積成分を見出すことができれば,付加価値の高い果実の生産技術の開発や,光質に
よる代謝制御機構の解明が期待できる.

材料および方法

1.植物材料と光質処理
トマト‘Micro-Tom’の種子を,オートクレーブで滅菌したスミソイル(住化農
業資材(株))に播き,白色蛍光灯(ネオボール Z,東芝ライテック(株)
)の下で明
期 16 時間,25℃で開花するまで栽培した.白色蛍光灯の PPFD は土壌表面の高さに
おいて,100 μmol・m-2・s-1 となるように設置した.その後,光質処理として,明期
の光源を青色 LED(青色区),赤色 LED(赤色区)に変更して栽培した.開花後の
LED 処理区と比較するため,白色蛍光灯を照射し続ける白色区も設けた.青色区は
ピーク波長 470 nm,赤色区はピーク波長 655 nm の LED パネル(ISLM,CCS Inc)を
用いた.各光源の分光分布を Light Analyzer(日本医化器械(株)
)によって測定した
結果を第 1 図に示した.PPFD は,LED 処理区では 100 μmol・m-2・s-1,蛍光灯処理区
では 80 μmol・m-2・s-1 とした.栽培には底面の直径 6.5cm,高さ 5.5cm のプラスチッ
クポットを用い,500 倍希釈のハイポネックス(ハイポネックスジャパン(株))を
週 1 回与えた.第 2 果房以降の開花 45 日後の果実を採取し,果皮を液体窒素で凍結
後-80℃で保存して,メタボローム解析に用いた.各処理区 3 個体から得た果皮を粉
砕しバルクにしたものを 1 反復とし,3 反復とした.なお,PPFD は栽培用ポット表
面で測定した.

2.メタボローム解析
6

キャピラリー電気泳動-飛行時間型質量分析計(CE-TOFMS)によるイオン性代
謝物質の測定と,液体クロマトグラフィ-飛行時間型質量分析計(LC-TOFMS)に
よる脂溶性代謝物質の測定を行った.
1)試料の前処理
(1)CE-TOFMS
凍結試料に内部標準物質 200 μM を含む 2,000 μL のメタノール溶液を添加し,冷却
下でホモジナイザーを用いて粉砕(1,500 rpm,120 秒 × 3 回)した.その後,2,000
μL のクロロホルムおよび 800 μL の Milli-Q 水を加えて撹拌し,遠心分離(2,300×g,
4℃,5 分)を行った後,水層を限外ろ過チューブ(ウルトラフリーMC PLHCC,
HMT,遠心式フィルターユニット 5 kDa)に 200 μL 移し取った.これを遠心分離
(9,100×g,4℃,120 分)し,限外ろ過後のろ液を乾固させ,再び 50 μL の Milli-Q 水
に溶解して測定に供した.
(2)LC-TOFMS
凍結試料に内部標準物質 10 μM を含む 1,500 μL の 1%(v/v)ギ酸-アセトニトリル
溶液を添加し,冷却下でホモジナイザーを用いて粉砕(1,500 rpm,120 秒×2 回)し,
さらに 500 μL の Milli-Q 水を加えて粉砕(1,500 rpm,120 秒×1 回)した.その後遠心
分離(2,300×g, 4°C,5 分)して上清を採取し,沈殿に 1,500 μL の 1%ギ酸-アセトニ
トリルおよび 500 μL の Milli-Q 水を加えて撹拌し,遠心分離後の上清を採取し,先の
上清と混合した.上清を限外ろ過チューブ(NANOSEP 3K OMEGA,PALL)に 300
μL ずつ 2 本移し取って遠心分離(9,100×g,4℃,120 分)し,限外ろ過処理を行った.
次いで,固相抽出によりリン脂質を除去した後,ろ液を乾固させて 200 μL の 50%
(v/v)イソプロパノール水溶液に溶解して測定に供した.
2)測定
(1)CE-TOFMS
カチオンモード,アニオンモードの測定を以下に示す条件で行った.得られたピ
ーク強度,形状から判断して,カチオンモードは 5 倍,アニオンモードは 3 倍の希釈
倍率で測定を行った.
i)カチオンモードによる陽イオン性代謝物の測定
装置:
7

Agilent CE-TOFMS system(Agilent) 3 号機
Capillary: Fused silica capillary i.d. 50 μm × 80 cm
測定条件:
Run buffer: Cation Buffer Solution(p/n: H3301-1001)
Rinse buffer: Cation Buffer Solution(p/n: H3301-1001)
Sample injection: Pressure injection 50 mbar, 10 s
CE voltage: Positive, 30 kV
MS ionization: ESI Positive
MS capillary voltage: 4,000 V
MS scan range: m/z 50-1,000
Sheath liquid: HMT Sheath Liquid(p/n: H3301-1020)
ii)アニオンモードによる陰イオン性代謝物の測定
装置:
Agilent CE-TOFMS system(Agilent) 5 号機
Capillary: Fused silica capillary i.d. ...

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