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書き出し

細胞老化における時計遺伝子の機能と病態学的意義の解析

橋川, 健一 HASHIKAWA, Kenichi ハシカワ, ケンイチ 九州大学

2023.09.25

概要

九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository

細胞老化における時計遺伝子の機能と病態学的意義
の解析
橋川, 健一

https://hdl.handle.net/2324/7157319
出版情報:Kyushu University, 2023, 博士(創薬科学), 課程博士
バージョン:
権利関係:Public access to the fulltext file is restricted for unavoidable reason (3)

(様式5)




:橋川 健一

論文題名

:細胞老化における時計遺伝子の機能と病態学的意義の解析



:甲

















【背景・目的】
ヒトをはじめとする哺乳類動物においては体内時計の機能によって、ホルモン分泌、免疫機
能、睡眠・覚醒サイクルなどの生体機能が約 24 時間で変動し、健康の保持・増進に寄与してい
る。そのため、体内時計の機能低下や慢性的な変調は、がん、心血管系疾患、糖尿病、精神疾患
などの発症リスクの上昇に繋がることが指摘されている。近年、先進国を中心として平均寿命が
延伸したことを背景として、単に寿命を延ばすのではなく、健康寿命を延ばすことへの関心が高
まっている。老化に伴い、神経変性疾患、心血管疾患、がん、免疫系疾患、筋骨格系疾患などの
発症率は高くなるが、老化の病態を標的にして健康寿命を改善する薬剤を探索する取り組みも盛
んになってきている。老化に伴い体内時計の機能も低下するが、このことは加齢性疾患の発症に
も深く関係していると考えられる。このような背景を踏まえ、本学位論文では細胞老化における
時計遺伝子の機能変化とその病態学的意義を明らかにすることを目的に、発がんおよび加齢黄斑
変性に焦点を当てて検討を行った。

【結果・考察】
第一章:化学物質誘発性の原発がん発症における時計遺伝子 Clock の機能解析
本章では、哺乳類動物における主要な時計遺伝子 Clock に着目し、化学物質誘発性の原発がんに
対する本遺伝子の機能について個体レベルで解析を行った。野生型マウスおよび Clk/Clk マウス
の背部皮膚に発がん物質として DMBA を週2回塗布し続けた結果、Clk/Clk マウスにおいては野
生型マウスと比較して化学物質誘発性の腫瘍の発生が抑制されることが明らかになった。一方で、
がん細胞の異常増殖を引き起こす中心シグナルである EGFR を介した Ras の活性化は、Clk/Clk
マウスにおいて顕著に抑制されていた。発がん物質を塗布した Clk/Clk マウスの皮膚では、細胞
老化因子のひとつである p16INK4a および炎症性サイトカインの発現量が顕著に増大しており、
アポトーシスは抑制されていた。老化した細胞は増殖刺激に対して不応答になることから、
Clk/Clk マウスで腫瘍の形成が抑制されたのは、細胞老化が誘発されやすいことが原因のひとつ
であると考えられた。これらの結果から、時計遺伝子 Clock は原発がんの発症に対して促進的に
働くことが示唆された。体内時計の機能は加齢によって低下し、様々な生体リズム障害を引き起

1

こすことから、本研究で得られた結果は、体内時計・発がん・個体の老化との関係性を解き明か
す上でも重要な所見になると考えられた。

第二章:ヒト網膜色素上皮細胞における貪食活性の概日リズムに及ぼす細胞老化の影響解析
本章では、ヒト網膜色素上皮細胞株 ARPE-19 を用いて、過酸化水素により惹起された細胞老化
が貪食活性の概日リズムに影響を及ぼすかについて検討を行った。Dexamethasone 処理により細
胞の概日時計を同期させたところ、正常な ARPE-19 細胞の貪食活性は約 24 時間周期の有意な変
動を示したが、細胞老化の誘導時においてはこのリズムの変容が認められた。すなわち、老化し
た ARPE-19 細胞の貪食能は 24 時間を通して高いレベルで維持され、概日リズムの振幅も減弱し
ていた。また、老化した ARPE-19 細胞における貪食活性リズムの変化は、時計遺伝子および貪
食関連遺伝子の発現変化を伴っており、老化した ARPE-19 細胞では、概日時計を構成する遺伝
子の 1 つである REV-ERBα の発現レベルが恒常的に上昇していた。更に、REV-ERBα のアゴニ
ス トで ある SR9009 に よ る薬 理 学 的活 性 化 お よび REV-ERBα の強 制 発現 は 、 いず れ も 正常
ARPE-19 細胞の貪食活性を上昇させるとともに、貪食関連遺伝子の発現を増大させた。これら
の知見は、加齢に伴う網膜色素上皮細胞の貪食活性の変化における概日時計の役割の解明に繋が
るものであり、加齢黄斑変性の発症予防および病態の進行を遅らせる戦略を考案するうえで有用
と考えられた。

【結論】
本論文では、がんや加齢黄斑変性の各病態に着目し、それら疾患に関連した細胞の老化状態に
おける時計遺伝子の機能的な役割を明らかした。交代制勤務労働者を対象にした疫学調査において、
慢性的な体内時計の機能不全は発がんリスクを増大させることが指摘されている。第 1 章において、
時計遺伝子 Clock の機能不全は生体リズムの異常につながるものの、化学物質誘発性の発がんに対
しては抵抗性を示した。このことは、どのような形で体内時計の機能不全が生じているかによって
それらの生体機能に対する寄与が異なることを示唆していた。加えて、本論文の結果は時計遺伝子
Clock の機能が老化の制御にも重要であることを示しており、体内時計の機能不全が個体の老化に
おける生体機能の変化にも影響しうることが示唆された。また、加齢黄斑変性については、網膜色
素上皮細胞の機能が低下あるいは消失することにより生じることが指摘されている。本研究の第 2
章では、老化によって時計遺伝子 REV-ERBα の発現が上昇し、それに伴い網膜色素上皮細胞の貪
食能が 24 時間を通して高い活性を維持した状態になることを見出した。網膜色素上皮細胞の貪食
能の概日リズムは正常な視覚の維持において重要な役割を担っていることが指摘されている。その
ため、恒常的な貪食能の亢進は、結果的に視覚異常のリスクを上昇させる可能性が示唆された。以
上の結果から、時計遺伝子の機能低下や発現リズムの変調は、老化に伴う様々な疾患の発症や病態
にも影響を及ぼすと考えられた。本研究を通じて得られた成果や方法論は、体内時計の変調を伴う
加齢性疾患の病態の理解とその予防・治療法構築の一助となることが期待できる。

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