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大学・研究所にある論文を検索できる 「細胞老化による筋組織の恒常性破綻機構に関する研究」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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細胞老化による筋組織の恒常性破綻機構に関する研究

杉原, 英俊 東京大学 DOI:10.15083/0002006911

2023.03.24

概要





















杉原

英俊

ジストロフィン遺伝子 (DMD 遺伝子) によってコードされるジストロフィンは、骨格筋や心筋
に主に発現し、筋細胞膜を安定化させる。DMD 遺伝子に out-of-frame 変異をもつデュシェンヌ
型筋ジストロフィー(DMD)では筋線維の脆弱化に伴い炎症反応が繰り返される。炎症に伴う酸
化的ストレスなどが原因で細胞老化とよばれる現象が生じ、これが様々な疾患の病態悪化に関与
することが知られている。DMD では炎症反応が繰り返されることから、本論文では DMD をモデル
として細胞老化による筋組織の恒常性破綻機構を解明することを目的とした。

第一章では Dmd 遺伝子に out-of-frame 変異を持つラット(OF ラット)の DMD モデル動物とし
ての妥当性について検討した。OF ラットの筋力、体重を経時的に測定したところ、野生型ラッ
ト(WT)に比べ、2 ヶ月齢から加齢性の筋力低下が、6 ヶ月齢から体重の減少が認められた。OF
ラット前脛骨筋では、1-3 ヶ月齢の病態早期では筋線維の壊死像や炎症像が観察される一方、
6-10 ヶ月齢の病態後期では筋線維が線維・脂肪組織に置換され、ヒト DMD 患者に類似した重篤
な表現型が認められた。また、OF ラットでは加齢性に筋衛星細胞数が減少し、病態悪化ととも
に筋再生能が低下していた。心エコー検査を行ったところ、OF ラットでは左室収縮能の指標で
ある左室内径短縮率が WT に比べて低下していた。組織ドプラ法を用いてより詳細に検討したと
ころ、OF ラットでは左室・右室自由壁収縮能の指標である左室自由壁僧帽弁輪収縮期波最高速
度や右室自由壁三尖弁輪収縮期波最高速度がそれぞれ WT に比べて低下する一方、左室中隔壁収
縮能の指標である左室中隔壁僧帽弁輪収縮期波最高速度には両群間で差がみられなかった。心筋
の線維化については、OF ラットでは左室及び右室自由壁側で顕著である一方、左室中隔では軽
微であった。以上の結果から、OF ラットは DMD における筋組織の病態進行機序を解明する上で
有用なモデル動物であると考えられた。そこで、以降は DMD ラットと表記することとした。

第二章では細胞老化が DMD の病態悪化に関与する可能性を検討した。細胞老化が DMD ラットに
おいて誘導されているかどうかを検討するために、p16、p19、p21 などの細胞老化関連因子の発
現を前脛骨筋において調べたところ、いずれも加齢性に発現が上昇していた。前脛骨筋において
p16 および p19 をコードする Cdkn2a 遺伝子は筋線維、筋衛星細胞及び間葉系前駆細胞に発現し
ていた。実際に細胞老化が病態悪化に関与するかを検討するために、CRISPR/Cas 法により p16

欠損ラットを作出し、これを DMD ラットと交配させることで p16 欠損 DMD ラット(dKO ラット)
を作出した。dKO ラットでは体重、筋力などの全身状態の改善に伴い、骨格筋における線維・脂
肪化の減少や、筋再生能の亢進など、病態の改善が認められた。老化細胞除去薬 ABT263 を DMD
ラットに投与したところ、加齢に伴う体重・筋力の減少が抑制され、再生筋線維数の増加が観察
された。ヒト DMD 患者骨格筋においても細胞老化マーカーp14、p16、p21 の発現上昇が認められ、
筋衛星細胞や間葉系前駆細胞に CDKN2A の発現が観察された。以上の結果から、細胞老化は DMD
の病態悪化に関与することが示された。

第三章では老化間葉系前駆細胞による DMD 病態悪化機構の解明を行った。間葉系前駆細胞は線
維芽細胞や脂肪細胞に分化すると筋分化を抑制する一方、未分化な状態では筋分化を促進するこ
とから、その老化が病態悪化に関与するメカニズムとして、①線維芽細胞や脂肪細胞への分化能
が亢進し、間接的に筋分化を抑制する可能性、②細胞老化に伴う細胞老化随伴分泌現象(SASP)
によって直接筋分化を抑制する可能性を考えた。ラット間葉系前駆細胞クローン 2G11 細胞にお
いて酸化的ストレスを模倣するために H2O2 を培地に添加したところ、p21 や、Ccl2、Il6、Tgf1
の発現量が上昇したことから、早期細胞老化とともに SASP が生じることが分かった(以降、こ
の細胞を Prematurely-senescent 2G11: PMS-2G11 と表記)。①の可能性について検討するために、
PMS-2G11 細胞に線維芽細胞や脂肪細胞への分化誘導を施したところ、正常 2G11 細胞に比べて両
細胞への分化能が減弱していた。このことから①の可能性については低いと考えられた。次に、
②の可能性について調べるために、WT ラット骨格筋由来筋芽細胞を PMS-2G11 細胞と非接触性に
共培養したところ、筋芽細胞同士の融合による筋管細胞の形成が著しく阻害されていた。この結
果から細胞老化によって生じる間葉系前駆細胞の SASP により筋再生が抑制されている可能性が
示された。

本論文では、DMD ラット骨格筋では細胞老化が誘導され、病態悪化に関与することを明らかに
し、その機序の一つとして老化間葉系前駆細胞が筋再生を抑制する可能性を示した。一連の研究
成果は細胞老化の病態生理学的な意義の解明や、様々な筋疾患の新規治療法の開発に大きく貢献
することが期待され、学術上・応用上寄与するところが少なくない。よって、審査委員一同は本
論文が博士(獣医学)の学位論文として価値あるものと認めた。

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