リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

大学・研究所にある論文を検索できる 「Theoretical Proposal for Extraction of Quantum Mechanical Properties of Single Nanoparticles Based on Optical Manipulation」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

コピーが完了しました

URLをコピーしました

論文の公開元へ論文の公開元へ
書き出し

Theoretical Proposal for Extraction of Quantum Mechanical Properties of Single Nanoparticles Based on Optical Manipulation

和田 拓道 大阪府立大学 DOI:info:doi/10.24729/00017758

2022.07.21

概要

光と物質の相互作用によるミクロな諸現象が積み重なり、我々が目にしているマクロな光学現象として発現する。そのような現象の一つとして、光が物質に及ぼす力である輻射力がある。この力は通常非常に小さく、我々が日常的に体感する機会はないが、例えば彗星の尾は輻射力で押し流された彗星の微小粒子から構成される他、レーザー光や太陽光を推進力として利用する宇宙船が研究されるなど、宇宙空間においてはその効果が以前から議論されていた。近代以前は、地上でこうした力を観測するには重力は勿論のこと、熱や気流などの擾乱による影響を慎重に考慮した実験が必要であった。それでも、19 世紀後半に電磁波の概念が提唱されたのち、輻射力の大きさは理論的に予想され、その後精緻な実験によって高い精度で検証されている。更に近年では輻射力による細胞やポリマーなどマイクロ物質の操作技術(光ピンセット)が確立されてバイオ分野が大きく進展した。2018 年にはその功績で Ashkin がノーベル物理学賞を受賞している。また輻射力で原子を操作する技術もレーザー冷却技術として確立し、上記受賞に先立って二度のノーベル物理学賞が授与された。

最近では、ナノテクノロジーの発展と共にこうした輻射力による物質操作をナノ粒子に対して適用しようという試みがなされてきた。もし量子ドット、ナノカーボン、有機分子などのナノ物体を直接捕捉し、操作することができれば、高感度なセンシング、新しいナノ加工技術、効率的なナノ計測技術の実現につながる。特にナノ粒子操作を自由自在に行うことが出来れば、文字通り微小な物質を組み立てることができ、非破壊・非接触に物質を操作するという光マニピュレーションの特性はナノデバイスの生産効率を飛躍的に向上させうる。

しかし、マイクロ領域と原子サイズ領域の中間であるナノ領域では、粒子の操作は本質的に困難である。ナノ粒子は多くの場合、溶媒中で利用されることが多いが、ナノ粒子にかかる輻射力はマイクロ粒子に比べると光との相互作用が小さいために微弱なものであり、溶媒等の環境から受ける擾乱の寄与を克服しての操作が従来の光マニピュレーションでは実現できないためである。こうした問題に対処するには輻射力の増強が必要であり、大きく分けて二つの試みが研究されてきた。一つはプラズモン共鳴に基づく光電場増強効果を用いたプラズモン光ピンセットで、もう一つはナノ粒子の電子的共鳴効果を用いた共鳴光マニピュレーションである。後者の共鳴光マニピュレーションは、個々の粒子の量子力学的性質と密接に関係することから粒子の選択的な操作を可能とするほか、非線形光学効果の考慮や入射場のデザインによって新たな操作自由度の実現に繋がる。

こうしたナノサイズ領域の光マニピュレーションを応用技術として確立するには、共鳴効果を最大限に利用することが不可欠であるが、例えば共鳴ナノ粒子がポリマー等の母体に埋め込まれている場合は全体にかかる輻射力の大きさは母体の体積で決まるなど、共鳴以外の寄与が問題となる例が多い。また、共鳴効果を最大限利用するには操作対象となる単一ナノ粒子の物性に応じて入射光条件を粒子ごとに最適化しなくてはならない。こうした物性測定は一般的に分光法によって行われるが、単一ナノ粒子に対してこれを行うことは様々な研究分野で依然挑戦的な課題である。従来の粒子の吸収を議論する多くの研究は、プラズモン共鳴やフォトサーマルイメージングの一環として行われており、最近では 1 分子レベルの吸収を測定する強力な手法も登場している。しかし、ほとんどの分光法では、測定された光信号が散乱、蛍光、熱的要因などの散逸過程を経て得られるため、対象物質の光吸収を直接測定したことにはならない。

そこで本研究では、共鳴効果を抽出するために、対向進行光を用いて輻射力に対する共鳴以外の成分を相殺して粒子を選択的に輸送できることを理論的に提案した。特に NV 中心を含んだナノダイヤの選別手法の提案は、共同研究グループによって実験的に実証され、有用性が明らかとなった。更に、対象粒子の物性が粒子の運動に反映することを利用して、輻射力による粒子の運動計測から線形応答の範囲で吸収係数などの物理パラメーターを直接測定する方法を提案した。光の吸収によって引き起こされる力は、光から物質に伝達される運動量を直接反映する。そのため、多色光で共鳴効果を抽出したうえで移動距離を測定することで、単一のナノ粒子の吸収スペクトルや吸収係数を直接得ることができる。更にこの手法を二光子吸収に着目した操作にも適用することで、光マニピュレーションを用いた新奇の非線形光学分光法を提案した。特に吸収スペクトルには緩和定数の情報が含まれるが、単一粒子に対してその具体的な値が計測・報告された例はほとんどない。この量は、ナノ材料にかかる力を計算する上で最も重要な物理量の一つであるため、これを測定する方法を確立することは、理論と実験を結ぶ上で大きな意義があるだけでなく、単一粒子非線形分光法に新たな測定方法を提供することにもつながる。

更に、本研究では従来の光マニピュレーションでは発想されてこなかった、発光準位に基づく粒子選別についてもその方法を考案し、シミュレーションを行った。結果として、今後、産業界で求められる発光素子の高品質化に対して高精度な選別手法という全く新しい方向性を示すことができた。

また、ブラウン運動の寄与に比べて輻射力の影響が小さい場合、単純な輸送に よる粒子の選別や物性の測定は困難である。しかし、ブラウン運動による分散距離は時間の平方根に比例し、輻射力による粒子輸送距離は時間に比例することを 利用して、弱い輻射力を用いて粒子を選別するための長距離・長時間輸送を可能 とする流路構造を提案した。この構造はブラウン運動という熱擾乱を前提として、その等方的な性質を選別に利用することで輻射力の更なる応用を可能にする。

上記一連の提案は、共鳴光を用いてナノ粒子を輸送することで、個々のナノ粒 子の特性を測定し、結果に応じて操作条件を調整するというサイクルを可能とし た。これにより光マニピュレーション技術は物質の動きを操作するのに留まらず、ナノ粒子の特性を明らかにする輻射力分光学への道を拓くことが期待される。

本論文では、これらの研究成果を以下の七章にまとめた。第 1 章では本研究の背景と目的についてまとめた。

第 2 章では、輻射力の一般表式と輻射力の計算に必要な要素についてまとめた。特に、勾配力と散逸力の起源と分離に関する注意点について議論した。

第 3 章では、二色光を用いた共鳴成分の抽出の可能性と、その具体的な応用例である NV 中心を含むナノダイヤモンド選別の運動シミュレーションについて述べた。固液界面においてエバネッセント波で捕捉したナノダイヤを NV 中心の有無によって異なる方向へ輸送する手法を提案し、ブラウン運動を考慮した常温水中環境を想定して量子力学的特性に基づく粒子選別が可能となることを示した。この結果は共同研究を行ったグループによって実験的にも検証された。また、超流動ヘリウム環境を想定した量子ドットの共鳴選別についても述べた。

第 4 章では、共鳴効果を抽出することで可能となった、粒子の輸送距離を利用した緩和定数の測定法の理論的提案を紹介する。まず第3章で想定したものと同様に NV 中心を含むナノダイヤを考慮して、線形応答の範囲で NV 中心の緩和定数を議論した。次に二光子吸収を示す色素を想定したシミュレーションを行うことで、この方法が非線形分光法にも拡張可能であることを示した。

第 5 章では、発光準位に着目した操作法について議論した。特に対象ナノ粒子に反転分布状態を引き起こすことで輻射力の方向を制御し、より強い力を用いた操作が可能となる誘導反跳力の利用を議論した。この手法によりナノ粒子の操作が効率化されること、及び neV オーダーの線幅を持つ QD を選択的に輸送し、極めて狭い吸収線を持つ粒子集団を選び出すことができることを具体的な運動シミュレーションの結果を用いて示した。

第 6 章では、より効率的な粒子操作のための長距離輸送を可能にする流路構造について考察した。本来なら超克するべき対象である熱揺らぎそのものと共鳴効果を同時に活用することで、ブラウン運動の等方性を利用して粒子濃度を向上させる原理について議論し、マイクロ流路内の粒子の動きを計算してこの機構の有用性を示した。

最後に第7章では、以上の成果について総括し、展望を述べた。

全国の大学の
卒論・修論・学位論文

一発検索!

この論文の関連論文を見る