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大学・研究所にある論文を検索できる 「TICT機構に基づく新規無蛍光性rhodamine類の開発と蛍光プローブ開発への応用」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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TICT機構に基づく新規無蛍光性rhodamine類の開発と蛍光プローブ開発への応用

池野, 喬之 東京大学 DOI:10.15083/0002007103

2023.03.24

概要





















池野

喬之

池野喬之は「TICT 機構に基づく新規無蛍光性 rhodamine 類の開発と蛍光プローブ開発へ
の応用」と題し、以下の研究を行った。Rhodamine 類は、高い蛍光量子収率や光退色耐性と
いった優れた特性を併せ持つ色素としてバイオイメージングにおいて汎用されている蛍光
色素である。これまでに rhodamine 類の蛍光 OFF/ON を制御することで、様々な生命現象を
可視化する蛍光プローブの開発が行われてきた。これら蛍光プローブの開発においては、
蛍光色素の蛍光消光メカニズムの解析、及びそれに基づく蛍光制御法の確立が重要となる。
本研究において池野は、これまで蛍光の OFF/ON 制御としてあまり利用されてこなかった
rhodamine 類におけるねじれ型分子内電荷移動(twisted intramolecular charge transfer: TICT)
による蛍光消光に着目し、その詳細な解析を行うことで新たな蛍光 OFF/ON 制御原理の確
立、及びそれに基づく新規蛍光プローブの開発を行った。具体的には以下の 2 つの研究成
果を達成した。
(1) 立体障害の導入による分子内ねじれを利用した新規無蛍光性 rhodamine 類の開発
蛍光プローブの開発において、蛍光色素に分子修飾を加えることで蛍光 OFF 状態を作り
出すことが重要となる。本研究では、rhodamine 類における TICT による消光について詳細
な解析を行い、その知見を基に新規無蛍光性 rhodamine 類の開発を行った。TICT とは、励
起状態において分子内の電子 donor-acceptor 間の結合が約 90°ねじれると共に電荷分離状態
を形成する現象である。
これまでに、tetramethylrhodamine 等の一部の rhodamine 類において、
光励起された分子の一部が励起状態で TICT 状態を経て基底状態へと無輻射的に失活するこ
とで、蛍光量子収率が低下することが報告されている。そこで、この rhodamine 類の TICT
について、時間依存密度汎関数法(TD-DFT 法)を用いた解析を行った。その結果、rhodamine
類には励起状態において locally excited state (LE state) とキサンテン環-N 原子間の結合が
90°ねじれた TICT state の 2 つの局所安定構造が存在し、さらに光励起された分子の TICT
state の形成は、LE state から TICT state へ移行する際のキサンテン環-N 原子間結合の回転障
壁の大きさ、及び LE state と TICT state とのエネルギー的安定性の差に影響されることが示
唆された。この知見を基に、励起状態における TICT state の形成を促進し、無蛍光性化する
分子設計として、rhodamine のキサンテン環上 dialkylamino 基のオルト位(キサンテン環 2
位)にかさ高い置換基を導入し、基底状態においてキサンテン環-N 原子間結合にねじれを
与えることを考えた。TD-DFT 法による検討の結果、tetramethylrhodamine のキサンテン環 2
位に Me 基を置換した化合物(2-Me TMR)は、基底状態においてキサンテン環-N 原子間結

合が約 40°ねじれた構造が最安定構造となり、かつ励起状態において LE state→TICT state に
おける回転障壁エネルギーの低下、及び LE state に対する TICT state の相対的な安定化が起
こるために、tetramethylrhodamine に比べて TICT が起こりやすいことが予想された。実際に
この化合物を合成し光学特性を評価したところ、予想通りほぼ無蛍光性を示した。さらに、
オルト位上置換基のかさ高さを変化させた誘導体を合成・評価した所、かさ高さが増大す
るにつれて蛍光量子収率が低下する様子が観察され、キサンテン環 2 位の置換基とアミノ
基上アルキル基との間の立体障害の大きさによって TICT による消光を制御可能であること
が示された。
(2) Cytochrome P450 3A4(CYP3A4)活性検出蛍光プローブの開発と応用
上記において開発した新規無蛍光性 rhodamine 類はキサンテン環上 dialkylamino 基とオル
ト位上置換基との立体障害が消光の原因であることを利用し、キサンテン環上アミノ基の
N-脱アルキル化による立体障害の変化を蛍光プローブの蛍光 OFF/ON スイッチとして用い
る新規蛍光制御法の確立を行った。この蛍光制御法に基づき、薬物代謝酵素である
cytochromeP450 (CYP)の N-脱アルキル化活性を検出する蛍光プローブの開発を行った。CYP
活性検出蛍光プローブは、薬物間相互作用の原因となる医薬品の CYP に対する阻害・誘導
作用を簡便かつハイスループットに検出する手法として有用である。その中でも、多数の
サブタイプを有する CYP の中で特定のサブタイプの活性を選択的に検出する蛍光プローブ
は、肝ミクロソームや生細胞などの複数サブタイプの存在する生体サンプルでも特定のサ
ブタイプの活性を検出可能であるため、特に有用である。そこで、これまでに確立した分
子設計により消光する無蛍光性 rhodamine 類を種々合成し、そのサブタイプ選択性を評価し
たところ、CYP3A4 分子種に選択的に代謝され発蛍光性を示す化合物を見出すことに成功し
た。CYP3A4 はヒトの肝臓における CYP の約 30%を占め、医薬品の約半数の代謝に関わる
最も重要なサブタイプであるため、実用的な蛍光プローブの開発が望まれている。そこで、
見出した化合物を母核として CYP3A4 分子種との反応性の向上を目指し、誘導体の合成を
行った結果、CYP3A4 と反応することで大きな蛍光上昇を示す蛍光プローブ Probe-C5 の開
発に成功した。開発した Probe-C5 は、ヒト肝ミクロソームにおいても CYP3A4 の代謝活性
を選択的に検出可能であった。
次に、開発した Probe-C5 の生細胞応用を行った。ヒト肝腫瘍由来の細胞株で、一定条件
下において分化させることで薬物代謝酵素等の肝機能を示す HepaRG 細胞に対して
Probe-C5 を添加し蛍光イメージングを行ったところ、細胞内において蛍光上昇が観察され、
その蛍光上昇は CYP3A4 の阻害剤である ketoconazole の添加によって抑制された。また、
Probe-C5 は細胞同士が密集した部位を特に強く染色し、これは CYP3A4 に対する免疫染色
の結果とも一致したことから、蛍光性となったプローブが細胞内に滞留しやすく、CYP3A4
活性を有する細胞を 1 細胞レベルで染色可能であることが示唆された。そこで、この性質
を利用することで、フローサイトメトリーを用いたヒト iPS 細胞由来肝細胞様細胞の濃縮を
試みた。近年、再生医療や創薬研究への応用を目指し、ヒト iPS 細胞を成熟肝細胞へと分化

誘導する研究が注目を集めているが、その分化誘導率は未だ十分ではなく、未分化細胞を
除去し成熟肝細胞のみを濃縮する技術が必要とされる。そこで、CYP3A4 が成熟肝細胞マー
カーの 1 つであることを利用し、ヒト iPS 細胞から分化させた肝細胞様細胞にプローブを添
加し、CYP3A4 活性により強い蛍光を示した細胞をフローサイトメトリーにより分取した結
果、CYP をはじめとする成熟肝細胞マーカーの mRNA の発現量が高い細胞集団の濃縮に成
功した。このことから、本プローブを用いた簡便な手法によってヒト iPS 細胞から分化させ
た成熟肝細胞の濃縮が可能であることが示された。
以上、本研究において池野は、rhodamine 類における TICT 機構の解析とその知見に基づ
く分子設計により、
新たな無蛍光性 rhodamine 類の開発、及びそれを母核とした新規 CYP3A4
活性検出蛍光プローブ Probe-C5 の開発に成功した。今後は、Probe-C5 の薬物代謝や肝細胞
に関わる様々な生命科学研究への応用が期待される。また、本研究で見出した rhodamine 類
の N-脱アルキル化反応による蛍光制御を利用することで、CYP3A4 活性検出プローブだけ
でなく nitroreductase 活性検出蛍光プローブの開発にも成功しており、TICT に関する知見に
基づく更なる蛍光プローブの開発も期待される。
以上の業績は、薬学分野におけるバイオイメージングの進歩に顕著に寄与するものであ
り、博士(薬科学)の授与にふさわしいものと判断した。

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