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大学・研究所にある論文を検索できる 「細胞内グルタチオンの求核付加・解離平衡に基づく超解像蛍光イメージングプローブの開発」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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細胞内グルタチオンの求核付加・解離平衡に基づく超解像蛍光イメージングプローブの開発

両角, 明彦 東京大学 DOI:10.15083/0002002543

2021.10.15

概要

【序論】
 超解像蛍光イメージング法は、光学顕微鏡の空間分解能の限界を超えた画期的なイメージング技法であり、その1つに、蛍光プローブ分子を確率的に明滅させ、1分子ずつ高精度に位置決定することで超解像画像を構築するsingle-molecule localization microscopy(SMLM)という手法がある。なかでも、一般的な蛍光色素を明滅させることでSMLMを達成するdSTORMおよびGSDIMは、最も汎用される手法の1つである。しかしながら、一般的な色素を明滅させるには添加剤や強い光照射が必要であり、細胞毒性や蛍光色素の光褪色が問題となる。この問題を克服するべく、当研究グループでは、添加剤や強い光照射によらず自発的に明滅し、穏和な条件下で使用できるSMLM用赤色蛍光ローダミン色素HMSiRを開発した(Nature Chem. 6, 681-689(2014))。この分子は蛍光性の開環体と無蛍光性の閉環体との間の分子内スピロ環化平衡に基づき自発的に明滅する。その特徴から、生細胞の超解像観察に適した蛍光プローブとして注目を集めており、次なる段階として、特に多色観察を可能にするために、HMSiRと異なる波長域を有する色素の開発が強く望まれている。しかしながら、分子内スピロ環化平衡を利用する分子設計のみでは、分子構造上の制約から実現しうる光特性が限られるという課題があった。実際に、当研究グループでは、同じ分子設計戦略の下にSMLM用蛍光プローブの多色化を試みてきた(Chem. Commun. 54, 102-105(2018))が、HMSiRと異なる波長域を有するスピロ環化型ローダミンで、適切な明滅特性を示し、かつ生細胞SMLMに適用可能なものを開発するには至らなかった。そこで本研究では、新たな蛍光明滅原理に基づく分子設計指針を確立することで、生細胞で機能するSMLM用蛍光プローブの幅広い光特性の実現、特に多色化に資することを目指した。

【本論】
1. 新たな蛍光明滅原理に基づき適切に明滅する蛍光色素母核の開発
 分子内スピロ環化平衡の本質は、求電子種としてのキサンテン系蛍光団に対する分子内求核基の求核付加および解離であるが、同様の現象はキサンテン系色素と外部求核種との間の分子間反応としても起こり得る。このことに着目し、本研究では、キサンテン系色素の自発的な蛍光明滅の原理を、従来の分子内スピロ環化平衡から外部求核種との分子間の求核付加・解離平衡へと拡張することを試みた。生理的条件の細胞内環境で利用できる求核種としては、生きた動物細胞内にmMという高濃度で存在する低分子性チオールであるグルタチオン(GSH)に着目した。すなわち、生細胞内GSHの求核付加・解離平衡を新たな蛍光明滅原理として利用することで、新たなSMLM用蛍光プローブの開発を試みた(Figure 1)。
 そこでまず、生細胞内のGSHに応答してSMLMに適した明滅特性を示すように、色素分子構造の最適化を図った。ここで、色素分子が満たすべき条件は、(1)生細胞内のGSH濃度下において大部分が無蛍光性のGSH付加フォームとして存在し(蛍光性フォームの存在比率が0.1-1%程度)、(2)蛍光性フォームが、その蛍光シグナルを顕微鏡下で十分に検出できる時間だけ持続することである。上記2点を定量的に評価するための指標として、GSH共存下での吸光度の測定から算出される解離定数(Kd, GSH)、およびlaser photolysisによる求核付加過程の観測から決定される蛍光性フォームの平均持続時間(τ)を、それぞれ検討した。ここで、Kd, GSHについては、生細胞内のGSH濃度が1-10mM程度であることを考慮し、その目標範囲を1-100μMと定めた。また、蛍光性フォームの持続時間は、顕微鏡用カメラのうち比較的高速なものに対応するべく、100μs-100msを目標範囲とした。
 まず、2’MeSiR600のKd, GSHが1mM程度であるという知見(Nature Chem. 9, 279-286(2017))をもとに、これよりも小さいKd, GSHを示すと予想されるキサンテン系色素6種を合成・評価した(Figure 2)。その結果、9PheSiP600, SiP650, CP550の3化合物が目標範囲内のKd, GSHを示した。続いて、これらのτを測定したところ、SiP650およびCP550は1-10mMのGSH存在下で目標範囲内のτを示した。一方、9PheSiP600は、GSHが低濃度の場合にτが長すぎること、また蛍光量子収率が低いことから、SMLMでの利用においては不利だと考えられた。以上を総合して、赤色蛍光色素SiP650および黄緑色蛍光色素CP550の2化合物を候補色素母核とした(Table 1)。

2. GSHの求核付加・解離平衡に基づくSMLM用蛍光プローブの開発と評価
 SiP650およびCP550を用いて生細胞における観察標的を標識し可視化するための手段として、タンパク質タグの利用を考えた。本研究ではまず、HaloTagをモデル系として、SMLM用蛍光プローブの開発と評価を行った。具体的には、各色素母核にアルキルリンカーを介してカルボン酸を付与した誘導体(SiP650-BA,CP550-BA)を経て、HaloTagリガンドとなるクロロアルカン構造を縮合反応によって導入した(SiP650-Halo,CP550-Halo)。さらに、各色素がタンパク質に結合した状態での特性評価を行うために、予め精製・単離されたHaloTagタンパク質をSiP650-Halo,CP550-Haloにより共有結合的に標識したSiP650-HaloTag, CP550-HaloTagを調製した。
続いて、SiP650-BA,CP550-BAおよびSiP650-HaloTag,CP550-HaloTagに関して、その光特性およびGSH応答性を評価した。その結果、誘導体化およびタンパク質への結合により、Kd, GSHおよびτが色素母核単体に比べて数倍から数十倍程度増大する傾向が見られたものの、これらは当初設定した目標値に照らして実用範囲内にあると判断した(Table 1)。さらに、全反射蛍光顕微鏡下で蛍光挙動の1分子観測を行ったところ、SiP650-HaloTag, CP550-HaloTagともに、生理的濃度のGSH存在下で大部分の分子が無蛍光性状態として存在し、かつ強い光照射や他の添加剤によらず自発的かつ可逆的な蛍光明滅を示すことが確かめられた。さらに、それら明滅イベントに関して輝点解析を行った結果、プローブ1分子が放出するフォトン数および1分子の位置決定精度といった観点からも、SMLM用蛍光プローブとしての有用性が示された。

3. 超解像イメージングへの応用
 まず、SiP650-HaloおよびCP550-Haloを用いて、生細胞における微小管のSMLMを試みた。具体的には、HaloTag融合β-チューブリンを発現した哺乳類細胞にプローブを加えて洗浄した後、蛍光顕微鏡下で観察した。その結果、プローブは細胞膜を透過し、HaloTagを介して生細胞内の微小管を特異的に標識できること、添加剤や強い光照射なしに蛍光明滅を示すことを確認した。さらに、100-400W/cm2の励起光照射下、1000-5000frame(8.8ms/frame)の画像を取得しSMLM画像を構築した結果、平均化画像に比べて高い空間分解能で微小管を可視化できることを示した(Figure 3)。特に、CP550は緑色光で励起され黄緑色の蛍光を発する色素であることから、自発的に明滅するSMLM用蛍光色素として、赤色蛍光色素HMSiRに続く2色目の色素の開発に初めて成功したことになる。
 続いて、CP550に関し、生細胞2色SMLMを含めた応用範囲の拡張を狙って、SNAP-tag基質型誘導体を開発した。すなわち、SNAP-tag基質構造をCP550に導入したCP550-BnClPyを新たに合成し評価したところ、本誘導体も生細胞内の観察対象を特異的に標識することが可能であり、超解像画像を構築できることを確認した。特に、ミトコンドリア局在型SNAP-tagを発現した細胞にCP550-BnClPyを添加し染色することで、ミトコンドリアの動態を数秒という比較的高い時間分解能で経時的に超解像観測することに成功した(Figure 4)。本結果は、CP550が自発的かつ比較的高速な明滅を示すことをうまく利用した例である。さらに、CP550誘導体をHMSiR誘導体と併用することで、生きた哺乳類細胞においてミトコンドリアと微小管を、生きたバクテリア細胞においては細胞分裂関連タンパク質と細胞膜を、それぞれ2色で超解像観察することに成功した。前者の系では経時的観察も達成した。

【総括と展望】
 細胞内GSHの求核付加・解離平衡を利用した新たな蛍光明滅原理を提案し、本原理に基づく2種の新規SMLM用蛍光色素を開発した。特にCP550の開発により、自発的に明滅する色素による生細胞2色SMLMを初めて可能にした。今後は、生物学研究者とも協同しながら、より高次な生物学的実験系への応用を進めるとともに、プローブの改良やさらなる開発展開を目指す。

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