助産師の専門職自律性尺度の開発
概要
学位報告4
別紙4
報告番号
※
第
主
号
論
文
の
要
旨
論 文 題 目 助産師の専門職自律性尺度の開発
氏
名 小幡さつき
論 文 内 容 の 要 旨
緒言
近年、日本では専門職として自律した助産師が求められている。しかし、より専門的な判断や技術
を必要とする助産師外来や院内助産を任されることに自信が持てず躊躇する助産師も少なくない。実
際、日本の助産師は産科医師の指示や管理のもと助産ケアを行う事が多いため、助産実践における自
律性が培われにくいと考えられる。そのため、自身で意思決定し責任をもって助産ケアすることに自
信が持てないのではないかと推測される。日本の助産師が医師の指示に頼らず自身の判断のもと助産
師外来や院内助産で専門職として自信を持って働くためには、助産実践における自律性を育成しなけ
ればならない。そのためには、助産師の専門職としての自律性を可視化し、個々に応じた教育をする
必要がある。しかし、現在日本の助産師に求められている専門職としての自律性を測定する尺度がな
いため、助産師独自の自律性を測定する尺度を開発する必要がある。その尺度が開発され使用するこ
とは、周産期医療の現場で働く助産師の助産実践における自律性を定期的に評価でき、助産師自身の
キャリア開発や助産師の自律性を育成する教育に役立つことにつながり、今後の助産師教育において
重要であると考える。そこで、本研究では助産師の専門職自律性尺度を作成し、その尺度の信頼性と
妥当性を検証することを目的とした。
方法
1.助産師の専門職自律性尺度の原案作成
助産師の専門職自律性尺度項目の抽出は、助産師教育に携わる専門家 3 名で行った。項目は先行研
究等をもとに助産師としての自律性が高く認知される思考や行動の特徴に関する内容を抽出し、
44 項
目の助産師の専門職自律性尺度試作案を作成した。次に、10 名の助産師教育に携わる教員や病棟管理
者とともに助産師の専門職自律性尺度試作案 44 項目について、助産師の自律性を測定する内容であ
るか等の内容的妥当性を検討した。そして、その試作案を病院等で働いている助産師 30 名に対しパ
イロットスタディを実施し、そのデータを項目分析し項目間相関係数による項目の選定および内容の
修正の結果、
「助産師の専門職自律性尺度」原版 33 項目が完成した。評定は「かなりそう思う」7 点
から「全く思わない」1 点の 7 件法とした。
2.本調査
対象は中部地方で分娩を取り扱っている施設で勤務している助産師を対象とした。
学位関係
調査は無記名自記式質問票を用いて実施し、回収はすべて郵送法とした。また、尺度の信頼
性と妥当性の検討のため、再テストは 1 回目の本調査から 2 週間後を目途に実施を依頼した。
調査内容は、社会的属性、助産師の専門職自律性尺度原案 33 項目、基準関連妥当性を検討
するための項目として職務満足度、自己効力感と自尊感情とした。
なお、調査は名古屋大学大学院医学系研究科生命倫理委員会の承認を受けて実施した。
結果
分娩を取り扱う 43 施設に勤務する助産師 695 名に無記名自記式質問紙を配布し、402 部の回
収(回収率 57.8%)をした。そのうち尺度の質問項目に回答不備のない 399 部(有効回答率
99.3%)を分析した。
対象の助産師の平均年齢は 39.4±10.4 歳であり、経験年数は平均 13.3±9.4 年であった。対
象者の 助産師の専門職自律性尺度の中央値は 129.0 点(四分位範囲 119.0–139.0)であった。
年齢、経験年数、出産介助の件数が増えるにつれて中央値の増加がみられた(p<0.01)
。
構成概念妥当性の検討には探索的因子分析を行い、5 因子 24 項目からなる因子構造が得ら
れた。5 因子は第Ⅰ因子「周産期ケアにおける助産実践力」、第Ⅱ因子「助産ケアに対する責任」、
第Ⅲ因子「助産ケアにおける倫理的感応力」、第Ⅳ因子「助産ケアにおける協働・連携」、第Ⅴ因
子「助産ケアに関する自己研鑽」と命名した。
基準関連妥当性は助産師の専門職自律性尺度と職務満足度、自己効力感尺度、自尊感情尺度
のそれぞれの得点間の相関係数を算出した結果、自己効力感では中等度の有意な正の相関を認
めた(rs=0.440, p<0.01)
。また、職務満足度(rs=0.258,p<0.01)と自尊感情尺(rs=0.358,
p<0.01)も弱いながらも有意な正の相関を認めた。さらに、助産師の専門職自律性尺度の下位
尺度との相関では、すべてにおいて中等度もしくは脆弱ながらも有意な正の相関を認めた(rs =
0.174 ~0.425,p<0.01)。特に、第Ⅱ因子「助産ケアに対する責任」は自己効力感と中等度の
有意な正の相関 (rs = 0.425,p < 0.01) であった。
信頼性は助産師の専門職自律性尺度全体および因子ごとに Cronbachα係数を算出し、内的整
合性を確認した結果、尺度全体の Cronbachsα係数はα=0.95、各因子は第Ⅰ因子α=0.94、第
Ⅱ因子α=0.89、第Ⅲ因子α=0.83、第Ⅳ因子α=0.85、第Ⅴ因子α=0.69 であった。また、
再テスト法を用いて、1 回目と 2 回目の尺度の得点間の相関係数を求め安定性を確認した結果、
クラス内相関係数は 0.899(p<0.001)であり有意に強い正の相関が確認された。さらに、構成
概念妥当性が確認された助産師の専門職自律性尺度の項目を Item-Total 相関分析および GoodPoor 分析した結果、中等度から強い相関が確認され十分な識別力が示された。
考察
助産師の専門職自律性尺度は 5 因子 24 項目の構成であり、十分な適合性があることが確認さ
れた。5 因子の「周産期ケアにおける助産実践力」、
「助産ケアに対する責任」、
「助産ケアにおけ
る倫理的感応力」、「助産ケアにおける協働・連携」、「助産ケアに関する自己研鑽」は、本研究
の「助産師の専門職自律性」の概念モデルとなった伊藤(2015)の助産師の自律性の概念および
助産師のコア・コンピテンシーに合致する内容であり、自律した助産師に必要とされる特性で
構成されていることから構成概念妥当性が確認されたと考える。
本研究の結果より、助産師の自律性と職務満足度、自尊感情および自己効力感との間に有意
な正の相関が示されたことは、助産師の専門職自律性尺度の基準関連妥当性が確認されたと考
える。特に、自己効力感と第Ⅱ因子「助産ケアに対する責任」との有意な正の相関は、分娩経
過中に母子の 2 つの命を預かっている責任を感じながら自律して助産実践できたことを認識し
た助産師は、自己効力感が高いことを示していると考えられる。職務満足度と自尊感情尺度の
合計点も助産師の専門職自律性尺度の合計点との相関も弱いながらも有意な正の相関を示した
ことは、少なからず関連していると考えるため自律性が高まることにより職務満足度や自尊感
情が高まる可能性があると考える。
本研究の結果、助産師の専門職自律性尺度の内的整合性による信頼性が確認できた。また、
本調査と再テストの尺度の得点間で有意な正の相関を示し、尺度得点の安定性も確認できた。
さらに、Item-Total 相関分析で中等度から強い相関が確認され、Good-Poor 分析でも十分な識
別力が示されたことから、助産師の専門職自律性尺度の信頼性が確認されたと考える。
結論
助産師の専門職自律性尺度は 24 項目 5 因子で構成され、下位尺度には「周産期ケアにおける
助産実践力」
、
「助産ケアに対する責任」、
「助産ケアにおける倫理的感応力」、
「助産ケアにおける
協働・連携」
、「助産ケアに関する自己研鑽」があり、信頼性と妥当性が確認された。