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大学・研究所にある論文を検索できる 「赤かび毒分解細菌を用いた植物病害防除に関する研究」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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赤かび毒分解細菌を用いた植物病害防除に関する研究

森村, 洋行 名古屋大学

2022.06.01

概要

コムギやオオムギの赤かび病は赤かび病菌 Fusarium graminearum species complexによって引き起こされる世界的に被害が深刻な最重要病害の一つである。発病した小穂では穀粒の肥大化の阻害や穂枯れが生じ、品質、収量が低下するとともに、穀粒にかび毒が蓄 積する。 赤かび病 菌が産 生するかび毒の中でも、デオキシニバレノール(Deoxynivalenol, DON)は検出頻度が高く、問題視されている。赤かび病の発生は、日本、北米、欧州などの温帯地域を中心として報告されており、その経済的被害は大きい。アメリカ合衆国では、かび毒を含めた赤かび病による経済的損失は1990年代の10 年間で30億ドルにも及んだと報告されている。穀粒中のかび毒汚染は世界各国で注目されており、日本はもとよりアメリカ合衆国、カナダ、EU、オーストラリア、中国などがそれぞれ独自のかび毒の含有制限を設けている。これらの国々が掲げたガイドラインにはDONは必ず含まれており、各国はDONに対してより注視していることが分かる。さらに、日本で発生する赤かび病菌はニバレノール(Nivalenol, NIV)産生菌の比率が高いと報告されている。NIVの毒性はDONよりも10倍高いとされるため、DONだけではなくNIVに関しても管理が必要である。近年の世界各地での気候変動による赤かび病の被害拡大が懸念されており、特に収穫後のかび毒蓄積が増大するリスクが潜んでいる。そのため、赤かび病とかび毒蓄積の発生を防ぐ方法の開発が求められている。本研究は、かび毒DON/NIV分解微生物を分離・選抜・機能解析し、赤かび病発生とかび毒蓄積の同時抑制法の構築を目的として実施した。

これまでに、Nocardiodes sp. HEM株、Marmoricora sp. KOM株、Sphingomonas sp. IMS株を新規 DON分解細菌として分離しているが、これらの機能解析は詳細に行われていなかったので、DON分解活性やDON 資化能試験を実施した。全ての新規細菌が事前にDONを含む無機塩類培地で培養をすることでDON分解速度が上昇していた。DON資化能試験に関しては、HEM株とKOM株は資化能を有していることが確認できたが、報告番号※ 第号赤かび毒分解細菌を用いた植物病害防除に関する研究森村洋行IMS株では見ることができなかった。今回の研究でNIV分解活性の試験も行ったところ、いずれの細菌株もDON含有培地で事前に培養するとNIVの分解速度が上昇した。

このことは、各分解菌のNIV分解はDON分解機構と密接に関わっていることを示唆している。

DON分解細菌の有益な機能として、赤かび病発症抑制効果が期待されている。これはDONがコムギ赤かび病菌の感染拡大を助長する役割を担っているため、DON分解細菌がコムギ上のDONを分解すれば赤かび病の発症を防ぐことができるという仮説に基づいている。これまでに、発芽コムギを用いた簡便な赤かび病発症抑制試験(Petridish test)を実施し、DON分解細菌接種による幼苗のDONの蓄積および発症の抑制効果を明らかにしているが、コムギ小穂での効果は不明であった。そこで、本研究ではコムギ小穂を用いた赤かび病発症抑制効果を検証した。その結果、DON分解細菌を事前にコムギ小穂に接種すると、赤かび病菌が引き起こす赤かび病の発症が抑えられる現象を確認した。特にNocardioides sp. SS3株とSphingomonas sp. KSM1株を接種した小穂は、発症を抑制するだけではなく、コムギ穀粒中のDON 蓄積量も低下していた。

さらに、NIV 産生菌のF. asiaticumを用いた発症抑制試験のケースでも、DON分解細菌は赤かび病発症を抑えていた。以上の結果は、コムギ小穂でのかび毒分解によって赤かび病菌の発症を抑制していたことを示唆している。なお、Petri dish testとコムギ小穂での発症抑制効果の相関を調べた結果、USU-Apogeeと農林61号の両品種ともに相関が認められた。特に農林61号の小穂を用いた試験との間にはスピアマンの相関係数r = 0.7~0.8であったため、高い相関があることを示した。そのためPetri dish testを使うことで要望な微生物の選抜ができる可能性が示された。また、コムギ小穂へのDON分解細菌接種による植物側の代謝産物の動態をGC/MSを使って解析した。発症抑制試験で効果が見られたSS3株とKSM1株を接種すると、Fructose、Glucoseなどの糖類、Proline、Norvaline、Glutamine、Glycineなどのアミノ酸、Pentadecanoic acid、Octadecanoic acid、Myristic acid、などの脂肪酸、Benzoic acidなどの芳香族化合物の量が比較的多く存在していた。これらの代謝物は植物の防御応答に関わる物質として知られているため、DON分解細菌がコムギのDON分解のみならず、宿主の免疫反応にポジティブな影響を及ぼしたと考えられる。

分解菌接種によるコムギ上のDON分解が赤かび病発症抑制に及ぼす影響、および新規 DON代謝酵素遺伝子の探索のために、UV照射法によってNocardioides sp. SS3株とLS1株のDON代謝低下変異株を作出した。野生株での発症抑制効果が見られたSS3株の変異株はコムギ品種 USU-Apogeeでは発症が抑制できなかったが、農林61号では発症抑制効果が認められ、品種間によってDON分解による発症抑制効果の寄与が異なることが示唆された。既にドラフトゲノムが決定されているLS1株の野生株と変異株の比較ゲノム解析の結果、変異株ではaldo/keto reductaseやenoyl-CoAhydratase/isomerase family proteinをコードする遺伝子に変異が発生していることが分かった。これらはNocardiodes属細菌が持つ薬剤分解代謝に関与する遺伝子として報告されていることから、DON代謝酵素遺伝子候補として挙げられる。

以上の研究結果は、現在問題視されている植物病害およびかび毒蓄積を同時に抑制できる新たな生物的防除資材の開発や、かび毒分解微生物の環境中での役割の一端を理解する上で重要な知見となる。

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