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大学・研究所にある論文を検索できる 「根粒菌の3型分泌エフェクターによるマメ科植物の共生菌制御機構の解明」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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根粒菌の3型分泌エフェクターによるマメ科植物の共生菌制御機構の解明

日下部 翔平 東北大学

2020.03.25

概要

【背景・目的】
マメ科植物と根粒菌の共生の過程では、宿主の根から分泌されるフラボノイドや、根粒菌の分泌する、根粒形成を誘導する働きをもつシグナル分子である Nod factor (NF) を介した相互認識反応が重要な役割を担っている。しかし近年、NF を介した相互認識系に加え、根粒菌の 3 型分泌系(Type Ⅲ secretion system : T3SS) を介した、より厳密な相互認識系が明らかになりつつある。T3SS とは病原菌が宿主細胞にエフェクターと総称されるタンパク質を打ち込む際に用いるタンパク質分泌系であり、この分泌系は多くの根粒菌にも保存されている。広域宿主性を持つ根粒菌 Bradyrhizobium elkanii USDA61 株(USDA61 株)は少なくとも 10 種類の構造の NF を分泌することができ、複数の宿主植物に対して根粒を形成することができる。しかし、一般的に USDA61 株を含む広域宿主性の根粒菌は窒素固定活性が低い傾向にあり、宿主植物にとって不都合な根粒菌であると考えられる。USDA61 株は Rj4 遺伝子型のダイズ系統やリョクトウの KPS1 系統に対して共生不和合性を示すことが報告されており、これまでの研究から、USDA61 株の T3SS エフェクターがこの共生不和合性の要因となっていることが明らかとなっている。この結果は、宿主植物が NFの認識系とは独立に、T3SS エフェクターの認識によって不都合な共生者を排除していることを示唆している。しかし、T3SS エフェクターの認識による共生菌制御の詳細なメカニズムは明らかになっていない。このメカニズムの解明を促進するために本研究で着目したのが、マメ科のモデル植物として実験系の整備が進められているミヤコグサ(Lotus japonicus)である。そこで本研究では、USDA61 株とミヤコグサのリソースを用いた解析から、T3SS エフェクターを利用した宿主の共生菌制御機構の詳細な解析を試みた。

【結果・考察】
1) ミヤコグサとの共生における USDA61 株の T3SS の影響の調査およびエフェクターの探索
ミヤコグサに対する USDA61 株の T3SS の影響を確認するために、ミヤコグサの実験系統 MG-20(Miyakojima)、 Gifu (B-129) および、パキスタン由来の類縁実験系統 Lotus burttii に対して USDA61 野生株及び T3SS 破壊株(BErhcJ 株)の接種実験を行い、根粒の着生状況の観察を行った。 USDA61 株の接種の結果、MG-20 では根粒が形成されたのに対し、L. burttii では多数の無効根粒が形成され、Gifu では根粒の形成がほぼ観察できなかった。また、MG-20 及び L. burttii において形成された根粒では、中心部の茶色への変色が観察された。一方で、BErhcJ 株の接種では、3つすべての系統で赤色の成熟根粒の形成が確認された。DsRed 標識した USDA61 株の接種の結果、 MG-20 では根粒全体から菌の蛍光が確認されたのに対し、L. burttii では菌の蛍光が一か所に留められている状況が観察され、Gifu ではわずかに形成されるバンプからも菌の蛍光は観察されなかった。これらの結果から、USDA61 株の T3SS エフェクターがエフェクター誘導性免疫( effector triggered immunity : ETI) を誘導し、Gifu では根粒菌の侵入を阻害する反応が、L. burttii では根粒の成熟阻害の反応が誘導され、MG-20 と L. burttii の 2 つの系統では根粒の早期老化様の反応が誘導され、結果として老化根粒の特徴である茶色く変色した根粒が観察されることが示唆された。

ミヤコグサに ETI を誘導する T3SS エフェクターを同定するため、USDA61 株の既知の T3SS エフェクター破壊株の接種試験を行った結果、nopM の破壊株 (BEnopM 株)において L. burttii と MG- 20 で観察される根粒の早期老化が抑制されることが確認された。BEnopM 株の接種により、MG-20では BErhcJ 株と同等の成熟根粒数を示したが、L.burttii では茶色への変色は認められなくなったものの多数の無効根粒が形成され、Gifu への接種では根粒は形成されなかった。この結果から、NopM が根粒の早期老化を誘導するエフェクターであること、及び NopM が根粒の成熟阻害と根粒菌の侵入阻害には関与しないことが示された。そこで iTRAQ 法を用いて T3SS エフェクタータンパク質を網羅的に同定し、それらの破壊株を用いた解析を行った。その結果、Gifu に侵入阻害を誘導するエフェクター候補として NopF が同定された。NopF の破壊株(BEnopF 株)を Gifu に対して接種した結果、L. burttii と同様に多数の無効根粒が形成され、DsRed 蛍光標識した菌株の接種から、BEnopF 株が侵入阻害を回避できることが確認された。また、BEnopF 株を接種した Gifuでは成熟根粒の形成がほぼ認められず、かつ早期老化様の根粒が観察されたことから、Gifu は根粒の成熟阻害と早期老化の反応も有し、それらが NopF とは異なるエフェクターにより誘導されることが示唆された。さらに、USDA61 株の nopF 遺伝子をミヤコグサ根粒菌 Mesorhizobium loti に導入した菌株(M. loti-nopF 株)を作成し Gifu に接種した結果、根粒がほぼ形成されなくなることが確認された。M. loti-nopF 株の L. burttii と MG-20 への接種では顕著な阻害反応は認められないことから、NopF が M. loti においても根粒菌の侵入阻害を誘導できること、また根粒の成熟阻害と早期老化が NopF とは異なるエフェクターで誘導されることが確認され、USDA61株の接種に対する 3 つの ETI がそれぞれ異なるエフェクターによって誘導されることが示された(図)。

2) ミヤコグサのリソースを活用した USDA61 株との共生に関与する宿主側因子の探索
M. loti-BenopF 株は Gifu に対して根粒菌の侵入阻害のみを誘導できることから、この菌株を用いることにより根粒菌の侵入阻害に関与する宿主因子のみに着目した解析が可能となった。そこで Gifu×MG-20 の組み合わせで作成された組換え近交系統(RILs)の 70 系統に対して M. loti-BenopF 株を接種し、表現型の解析を行った。その結果、根粒を形成する MG-20 型の系統と、根粒を形成しない Gifu 型の系統に分類することができ、この表現型情報を用いて QTL 解析を実施した結果、3 番染色体上に 1 遺伝子支配を示唆する有意な LOD 値のピークが検出された。この領域に組換えを持つ RILs をさらに 18 系統選抜し、これらの選抜系統に対して M. loti-BenopF 株の接種試験を行った結果、候補領域を 3 番染色体のペリセントロメア領域に位置する約 422 kbp の領域に絞り込むことができた。候補領域が組換えの起こりにくい領域に位置しているため、ゲノムワイド関連解析から候補遺伝子を同定することを目的とし、101 のミヤコグサ野生系統に対して USDA61 株を接種し、表現型の解析を行った。その結果、ミヤコグサ野生系統の中にも根粒を形成しない Gifu 型の系統、無効根粒を多数形成する L. burttii 型の系統、根粒を形成する MG-20 型の系統が観察された。現在、このミヤコグサ野生系統の系統間差情報を用いたゲノムワイド関連解析から、候補遺伝子の同定を進めている。

【まとめ】
本研究により、宿主植物が T3SS エフェクターの認識によって不都合な根粒菌を排除する機構として、これまで報告のあった侵入阻害の反応に加えて、侵入後も複数のタイミングで根粒菌の共生を排除する免疫防御機構を備えていることを明らかにした。さらに、これらの複数の免疫防御反応が、それぞれ異なる T3SS エフェクターによって誘導されることを明らかにした。

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