Clinical significance of a novel reticulocyte-based erythropoietin resistance index in HD patients: A retrospective study
概要
1. 序論
血液透析患者の貧血は心血管疾患と関連し生命予後不良であり, また患者の生活の質を低下させるため, 適切な管理が必要である. 血液透析患者の腎性貧血治療の主体は erythropoiesis stimulating agent (ESA)投与であるが, ESA への反応性には個人差があり, 10- 30%程度の血液透析患者が ESA 低反応性であるとされている(Weir, 2021). ESA 反応性指標として近年の報告ではerythropoietin resistance index (ERI)が汎用されており, 体重あたりの ESA 投与量を血中ヘモグロビン濃度で除した値である(Lopez-Gomez et al., 2008).多くの観察研究で ERI 高値が血液透析患者の全死亡・心血管死亡と関連することが報告されている(Eriguchi et al., 2015). しかし, 従来の ERI は⾧期的な造血指標である血中ヘモグロビン濃度を用いて算出するため, ESA 刺激により産生された新規ヘモグロビンのみに注目することができない. 末梢血中網状赤血球ヘモグロビン濃度は, 新規に発生したヘモグロビン合成のみを反映する短期的造血指標である. 今回我々は, 末梢血中網状赤血球ヘモグロビン濃度を用いた算出する新規 ERI を考案し(ERIΔRetHb), 血液透析患者の生命予後との関連を分析した.
2. 実験材料と方法
対象は, 先行研究(Kuji et al., 2015)において末梢血中網状赤血球ヘモグロビン濃度を測定した血液透析患者 102 例とした(平均年齢 68.7 歳, 平均透析期間 80.2 ヶ月). 研究デザインは後ろ向きコホート研究であり, ERIΔRetHb と3年間の生命予後の関連を分析した. Δ RetHb および ERIΔRetHb をそれぞれ以下のように定義した.
ΔRetHb(mg/dL) = ESA 投与後の末梢血中網状赤血球ヘモグロビン濃度(mg/dL)
―ESA 投与前の末梢血中網状赤血球ヘモグロビン濃度(mg/dL) ERIΔRetHb =[ESA 投与量(μg/月)/体重(kg)]/10^ΔRetHb (mg/dL)
先行研究のデータから, ESA 投与量・体重・ESA 投与前後の末梢血中網状赤血球ヘモグロビン濃度のデータを抽出し, 上記の定義式に基づき各患者のΔRetHb および ERIΔRetHb を算出した. ERIΔRetHb の四分位数により対象を 4 群に分類し, 患者特性を比較した.
各 ERIΔRetHb 四分位群間の生存曲線を Kaplan-Meier 法で比較した. また単変量 Cox 回帰分析および多変量 Cox 回帰分析により, ERIΔRetHb と全死亡の関連を調べた. 本研究対象患者における従来 ERI(ERIHb)の予後予測能を調べるため, ERIΔRetHb の代わりに ERIHb を代入して単変量および多変量 Cox 回帰分析を実施した. 本研究は公立大学法人横浜市立大学臨床研究審査委員会で承認を受けて実施した(承認番号:B170700021).
3. 結果
ERIΔRetHb が最も高い第4四分位群は, 他の四分位群と比較して有意に高齢で, 自己動静脈内シャント以外のバスキュラーアクセス保有率が高く, ESA 投与量が多く, 血中ヘモグロビン濃度が低値であった.平均 28.8 ヶ月の観察期間中に, 102 人中 13 人(12.7%)が死亡した. Kaplan-Meier 法で, ERIΔRetHb 四分位群間の生存曲線に有意差を認め(Log-rank p=0.023),第4四分位群で他の四分位群よりも有意に死亡率が高いことが示された. 単変量 Cox 回帰分析で, ERIΔRetHb は全死亡の有意な予測因子であった(ハザード比2.71, 95%信頼区間 1.65- 4.48, p<0.001). 血中ヘモグロビン濃度, ESA 投与前の末梢血中網状赤血球ヘモグロビン濃度, ESA 投与後の末梢血中網状赤血球ヘモグロビン濃度はいずれも全死亡の予測因子とならなかったが, ΔRetHb は死亡の有意な予測因子であった(ハザード比 0.994, 95%信頼区間 0.987-1.000, p=0.047). 潜在的交絡因子で調整した多変量 Cox 回帰分析で, ERIΔRetHb は全死亡の独立した予測因子であることが示された(ハザード比 9.82, 95%信頼区間 1.50- 64.4, p=0.02). ERIHb は単変量Cox 回帰分析で全死亡と有意に関連したが, 多変量Cox 回帰分析では全死亡の独立予測因子とならなかった.
4. 考察
今回新たに考案した ERIΔRetHb は, 維持血液透析患者の全死亡の有意な独立予測因子であることが示された. ERIHb は多変量Cox 回帰分析で全死亡の独立予測因子とならなかったこと, 3年後の全死亡の予測に関する ROC 曲線下面積が ERIΔRetHb が ERIHb をわずかに上回ったことから, ERIΔRetHb の生命予後予測能は ERIHb の予測能よりも改善した可能性がある.
ERIΔRetHb は, 算出過程においてESA 刺激に応じて生じたヘモグロビン産生をΔRetHb として定量しているため, ERIHb よりも真の ESA 反応性を表すと考えられる. また ERIΔRetHb は網状赤血球指標であるため数日以内のヘモグロビン産生のみを反映することから, 失血や分解によるヘモグロビン喪失の影響や, 過去に一過性に生じたヘモグロビン産生障害の影響を最小化し, 現存するヘモグロビン産生障害にフォーカスできる可能性がある. またリアルタイムな指標であるため, 鉄利用障害を始めとする ESA 反応性低下を来す病態の早期発見や, 治療介入による ESA 反応性の変化を評価する上で有用である可能性がある.