リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

大学・研究所にある論文を検索できる 「アルゼンチンとタイにおける志賀毒素産生性大腸菌(STEC)の分子疫学的研究及び乳酸菌のSTECに対する増殖抑制と殺菌効果の検討」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

コピーが完了しました

URLをコピーしました

論文の公開元へ論文の公開元へ
書き出し

アルゼンチンとタイにおける志賀毒素産生性大腸菌(STEC)の分子疫学的研究及び乳酸菌のSTECに対する増殖抑制と殺菌効果の検討

奥野 健太郎 大阪府立大学 DOI:info:doi/10.24729/00017409

2021.06.10

概要

緒言
志賀毒素産生性大腸菌 (以下 STEC) は大腸菌のうち志賀毒素遺伝子 (stx) を保有する菌の総称である。ヒトに水様性又は血性下痢を引き起こし、特に小児や老人に溶血性尿毒症症候群 (HUS) や脳症等の重篤な合併症を併発させ、死に至らせる場合もある。Stx には免疫学的に異なる 2 種類の Stx1 と Stx2 が存在するが、疫学的に Stx2 産生株の方が患者の重症化に関わる事が分かっている。Stx2 には Stx2a から Stx2g までの少なくとも 7 種類のサブタイプが存在するが、Stx2a や Stx2c 産生菌がより重症化に関わっているとの報告もある。また、STECの O 血清型には様々なものが知られているが、重症患者から高頻度に分離される O 血清型として O157 と non-O157 Big 6 と呼ばれる O26、O45、O103、O111、O121、O145 がある。しかし、これらの O 血清型以外の O104 による 47 名の成人が亡くなる大規模食中毒事件が 2011年ドイツで発生しており minor O 血清型にも注意が必要である。STEC による小児の HUS の発症率を国・地域ごとに比較したとき、アルゼンチンは諸外国と比較して 10 倍以上高く、逆にタイでは極めて低い。対照的な背景を持つ 2 国間でウシ・ヒトから分離された STEC の分子疫学的調査を行うことで高病原性に関わるSTEC の特徴を知ることができる可能性がある。

乳酸を始めとするヒト由来短鎖脂肪酸産生菌がSTEC O157 に対して増殖抑制効果があることが報告されている。よって短鎖脂肪酸高産生株をウシに投与することによりウシの STECの保菌率を下げることが期待できる。しかし、これらの研究成果はヒト由来乳酸菌でウシへ定着するかどうか不明である。それゆえウシにプロバイオティクスとして乳酸菌を投与するためにはウシから短鎖脂肪酸高産生株を分離し STEC の増殖阻害や殺菌効果を検討する必要がある。本研究では、第一章でアルゼンチンとタイにおける STEC の分子疫学的解析、第二章で短鎖脂肪酸高産生株の選別と O157 堺株に対する増殖抑制や殺菌効果の検討、第三章で乳酸高産生株の種々のSTEC に対する増殖抑制及び殺菌効果の検討を行なったので報告する。

第一章:アルゼンチンとタイにおける志賀毒素産生性大腸菌の分子疫学的解析
アルゼンチンとタイにおいてウシ及びヒトから直腸スワブ検体を収集した。検体を TSB 培地で培養し、鋳型 DNA を作製し PCR により stx 遺伝子を検出した。アルゼンチンのウシ 283検体中 90 検体 (32%) から、タイのウシ 285 検体中 150 検体 (53%) から stx 遺伝子が検出し、 PCR 陽性検体からそれぞれ stx 遺伝子陽性菌を 45 株と 40 株を分離し、生化学的性状試験により全てが大腸菌、すなわち STEC であることを確認した。一方、アルゼンチンの下痢症患者 647 検体から 42 検体 (6.5%) で stx 遺伝子が検出され、17 検体から STEC を分離した。タイでは調べた 200 検体の下痢症患者便全てで stx 遺伝子は検出されなかった。

原則分離した STEC の O 血清型は O-genotype として同定した。アルゼンチンのウシ由来 STEC 45 株は 19 種類と型別不能の O-genotype に、ヒト由来 STEC 24 株は Og157、Og145、 Og111 の 3 種類、タイのウシ由来 STEC 85 株 (既に分離されていた 45 株を含む) は 14 種類と型別不能の O-genotype に分類された。アルゼンチン、タイのウシ由来の STEC 45 株と 85株のうち stx2 遺伝子陽性はそれぞれ 42 株、73 株で、それぞれ 39 株 (93%)、65 株 (89%) が stx2a 又は stx2c 陽性であった。また、アルゼンチンの重症下痢症患者由来の 24 株は Og145 6株とOg157 14 株で stx2a 又は stx2c 陽性であった。Stx2 産生量をELISA により測定した結果、アルゼンチンのヒト・ウシ由来 Og145, Og157 株は全て 450 ng/mL の Stx2 産生能を示した。一方、Og2、Og8、Og130 などの minor O-genotype は 50 ng/mL 以下の Stx2 しか産生しなかった。またタイで分離された STEC は O157 であっても Stx2 の産生量は全て 120 ng/mL 以下であった。以上より、アルゼンチンで STEC 感染症が問題となる理由としてウシの STEC 保菌率や stx2 サブタイプの違いよりもウシや患者から分離される STEC が Stx2 高産生性であることが理由の1つとして考えられた。

第二章 短鎖脂肪酸高産生株の選別と O157 に対する増殖抑制や殺菌効果の検討
ウシにおいて STEC 保有、非保有の理由の1つとして短鎖脂肪酸高産生株の保有の有無が考えられた。そこで、アルゼンチンのウシ糞便から stx 遺伝子を検出し stx 遺伝子陽性・陰性牛からそれぞれ乳酸菌の分離を試みた。分離した乳酸菌の低鎖脂肪酸産生量を比較し、STECの増殖を抑制できる短鎖脂肪酸高産生株を選別した。PCR より stx 遺伝子陰性であったウシ 24 検体及び stx 遺伝子陽性であったウシ検体 26 検体から MRS 培地及び mLBS 寒天培地を用いて菌を分離した。stx 遺伝子陰性 14 検体、陽性 4 検体から菌を分離し、16S rRNA の Sequence解析により菌種を同定した。更に分離菌を対象に、MRS 液体培地で 24 時間培養した際の短鎖脂肪酸産生量を時間 HPLC により定量した。stx 遺伝子陰性のウシから分離した菌は 14 株中 11 株が 12 g/L 以上という高い短鎖脂肪酸産生量を示した。一方、stx 遺伝子陽性のウシから分離した菌はいずれも 4.5 g/L 以下であった。短鎖脂肪酸高産生株の短鎖脂肪酸の種類は、 11 株中、9 株で乳酸産生量が 90%以上を占め、2 株は酢酸産生量が 30 から 40%であった。

分離したプロバイオティクス候補株が実際に STEC の増殖を抑制あるいは死滅させるかを検証するため O157 との共培養実験を行った。プロバイオティクス候補株として乳酸高産生株 1 株、酢酸高産生株 1 株、短鎖脂肪酸低産生株 2 株 (stx 遺伝子陰性/陽性ウシ由来 1 株ずつ)を実験に供した。それぞれの菌が約 106 CFU/mL となるように調整してMRS 液体培地に加え 37℃で振盪培養を行い、12, 24 時間培養時の生菌数を測定した。乳酸高産生の 3 株とも 12 時間培養時には O157 の増殖抑制・死滅が確認された。一方、酢酸高産生株では 12, 24 時間培養時ともに O157 の増殖抑制や菌の死滅は確認されなかった。以上より stx 遺伝子陰性のウシから分離した乳酸高産生株が STEC の増殖抑制や死滅させることを明らかとした。

第三章 乳酸高産生株の種々の STEC に対する増殖抑制及び殺菌効果の検討
第二章で分離した乳酸高産生株が O157 (堺アウトブレーク株) 以外の高病原性の STEC (O104 [ドイツアウトブレーク株], O111 [富山アウトブレーク株], O145 [アルゼンチン HUS 患者由来株]) に対して同様に増殖抑制・死滅効果を示すか検討した。第二章と同様に共培養実験を行い、12 時間間経時的に培養液中の STEC と乳酸高産生株の菌数、培養液の pH と培養液中の短鎖脂肪酸産生量を測定した。乳酸高産生株は O104 以外の O111、O145 や O157 との共培養群では 6 時間培養時に STEC の増殖が抑制され、9 時間培養時に STEC は死滅した。一方、O104 共培養群では 6 時間培養時に増殖が抑制され、12 時間培養時に死滅した。さらに乳酸高産生株との共培養群では 6 時間経過時に培養液の pH は 4.5 以下となり、乳酸量も 10 g/L 近くまで上昇した。12 時間培養時には pH 間は 3.5 以下となり、乳酸量も 15 g/L 以上となった。一方、乳酸低産生株との共培養群では乳酸量は 5 g/L 以下であり、pH も 6.2 以上のまま維持されていた。以上の結果より乳酸高産生株と共培養時、培養液中の乳酸量と低 pHが STEC の増殖抑制と死滅に関わっている可能性が示唆された。そこで、乳酸と pH を調整した MRS 培地にそれぞれの STEC を添加し培養し、その影響を調べた。MRS 液体培地を pH 3.5, 5.0, 6.5 となるように調整した群と、乳酸を 10 又は 20 g/L 添加した後 pH 3.5, 5.0, 6.5 に調整した群に分け、高病原性 STEC 4 株 (O104, O111, O145, O157) 及びウシ由来 STEC を約 106 CFU/mL となるように植菌した後 37℃で振盪培養し、3, 6, 9, 12 時間培養時に STEC 生菌数を測定した。pH 6.5 条件下では乳酸添加群 (10 又は 20 g/L) を含め STEC の増殖抑制・死滅効果は認められなかった。pH 5.0 条件下ではO111, O145 に対して増殖抑制・死滅効果が見られ、乳酸添加群 (10 又は 20 g/L) では全ての STEC に対し増殖抑制・死滅効果が見られた。pH 3.5条件下では全ての STEC が緩やかに減少し 9~12 時間培養後に菌の死滅が確認され、乳酸添加群 (10 又は 20 g/L) では 3 時間以内に速やかに死滅した。以上の結果より低 pH と乳酸の組み合わせが、STEC に対して強い殺菌効果を示すと考えられ、STEC 株間でもこれらの耐性能に差がある可能性が示唆された。

以上の結果がウシ由来株を含むより幅広い STEC においても見られるか調べるため、様々な O 血清型 (O2, O8, O22, O26, O103, O140, O145, O153, O157, O165, O171) に属するウシ・ヒト由来 STEC 計 12 株に対しても同様に乳酸高産生株との共培養実験、酸耐性・乳酸耐性について検討した。全ての STEC 株は乳酸高産生株との共培養時に 6 時間以内に菌数は 1/10 以下に減少し、12 時間以内に菌の死滅が確認された。また乳酸添加群では、pH 5.0 以下の条件で全ての STEC 株で増殖抑制・殺菌効果が見られたことから、高病原性以外の STEC 含む多様な STEC に対して低 pH と乳酸の組み合わせが強い殺菌効果を示すことが明らかとなった。

結論
・タイと比べてアルゼンチンで STEC 感染症の重症化例が多く、問題となる理由の 1 つとして牛の汚染率、stx2 サブタイプではなく、Stx2 の産生量の違いが考えられた。
・stx 遺伝子陰性、すなわち STEC を保有しないウシは乳酸高産生菌を保有し、乳酸高産生株は in vitro での O157 との共培養実験で、O157 に対して増殖抑制・殺菌効果を示した。
・乳酸高産生株は O157 だけではなく O104、O111、O145 などの高病原性 STEC のみならず様々な O 血清型の STEC に対して増殖抑制・殺菌効果を示した。また、その増殖抑制・殺菌効果には乳酸及び低 pH が重要な役割を果たしていることを明らかとした。

全国の大学の
卒論・修論・学位論文

一発検索!

この論文の関連論文を見る