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大学・研究所にある論文を検索できる 「エレクトロパラトグラフィ(EPG)および筋電図(EMG)を用いた顎変形患者の手術前後における嚥下時の舌と口蓋の接触状態の変化について」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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エレクトロパラトグラフィ(EPG)および筋電図(EMG)を用いた顎変形患者の手術前後における嚥下時の舌と口蓋の接触状態の変化について

香川 遥 広島大学

2021.03.23

概要

学位論文

エレクトロパラトグラフィ(EPG)および筋電図
(EMG)を用いた顎変形患者の手術前後における
嚥下時の舌と口蓋の接触状態の変化について

香川 遥
広島大学大学院医歯薬保健学研究科医歯薬学専攻
(主指導教員:谷本 幸太郎 教授)
令和2年度

<目次>
緒言・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1
試料と方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3
Ⅰ. 嚥下時の舌と口蓋の接触状態の検討・・・・・・・・・・・・・・・・・3
Ⅰ–1.正常咬合者における嚥下時の舌と口蓋の接触状態の検討・・・・・3
Ⅰ-1–① 被験者
Ⅰ-1–② EPG 検査
Ⅰ-1–③ Whole Total の算出
Ⅰ-1–④ COG 値の算出
Ⅰ–1–⑤ 嚥下に要する時間の計測

Ⅰ–2.骨格性下顎前突症患者の顎矯正手術前後における嚥下時の舌と口蓋の
接触状態の検討・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7
Ⅰ-2–① 被験者
Ⅰ-2–② EPG パターンの比較検討
Ⅰ-2–③ Whole Total の比較検討
Ⅰ-2–④ EPG フレームの各区分における接触電極数の比較検討
Ⅰ–2–⑤ COG 値の比較検討
Ⅰ–2–⑥ 嚥下時間の比較検討

Ⅰ–3.骨格性上顎前突症患者の顎矯正手術前後における嚥下時の舌と口蓋の
接触状態の検討・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9
Ⅰ-3–① 被験者
Ⅰ-3–② EPG パターンの比較検討
Ⅰ-3–③ Whole Total の比較検討
Ⅰ-3–④ EPG フレームの各区分における接触電極数の比較検討
Ⅰ–3–⑤ COG 値の比較検討
Ⅰ–3–⑥ 嚥下時間の比較検討

Ⅱ.筋電図による嚥下時の舌骨上筋群の筋活動量の検討・・・・・・・・・11
Ⅱ–1.骨格性下顎前突症患者の顎矯正手術前後における嚥下時の舌骨上筋群
の筋活動量の検討・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・11
Ⅱ–1–① 被験者
Ⅱ–1–② 使用装置および舌骨上筋群に対する電極の貼付位置
Ⅱ–1–③ 検査項目
Ⅱ–2.骨格性上顎前突症患者の顎矯正手術前後における嚥下時の舌骨上筋群
の筋活動量の検討・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・13
Ⅱ–1–① 被験者
Ⅱ–1–② 検査項目

結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・14
Ⅰ. 嚥下時における舌と口蓋の接触状態・・・・・・・・・・・・・・・・・14
Ⅰ–1.正常咬合者における嚥下時の舌と口蓋の接触状態・・・・・・・・14
Ⅰ–1–① 正常咬合者における嚥下時の EPG パターン
Ⅰ–1–② 正常咬合者における嚥下時の Whole Total の変化
Ⅰ–1–③ 正常咬合者における嚥下時の COG 値
Ⅰ–2.骨格性下顎前突症患者の顎矯正手術前後における嚥下時の舌と口蓋の
接触状態の変化・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・18
Ⅰ–2–① 骨格性下顎前突症患者の手術前後における EPG パターンの変化
Ⅰ–2–② 骨格性下顎前突症患者の手術前後における Whole Total の変化
Ⅰ–2–③ 骨格性下顎前突症患者の手術前後における歯頚部、硬口蓋中央部、
および軟口蓋部の接触状態の変化
Ⅰ–2–④ 骨格性下顎前突症患者の手術前後における COG 値の変化
Ⅰ–2–⑤ 骨格性下顎前突症患者の手術前後における口腔期、咽頭期、
および食道期の継続時間の変化

Ⅰ–3.骨格性上顎前突症患者の顎矯正手術前後における嚥下時の舌と口蓋の
接触状態の変化・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・26
Ⅰ–3–① 骨格性上顎前突症患者の手術前後における EPG パターンの変化
Ⅰ–3–② 骨格性上顎前突症患者の手術前後における Whole Total の変化
Ⅰ–3–③ 骨格性上顎前突症患者の手術前後における歯頚部、硬口蓋中央部、
および軟口蓋部の接触状態の変化
Ⅰ–3–④ 骨格性上顎前突症患者の手術前後における COG 値の変化
Ⅰ–3–⑤ 骨格性上顎前突症患者の手術前後における嚥下時の口腔期、
咽頭期、および食道期の継続時間の変化

Ⅱ. 手術前後における舌骨上筋群の筋活動量の変化・・・・・・・・・・・・34
Ⅱ–1.骨格性下顎前突症患者の手術前後における嚥下時の舌骨上筋群の
筋活動量の変化・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・34
Ⅱ–1–① 骨格性下顎前突症患者の手術前後における顎下導出の筋活動量
Ⅱ–1–② 骨格性下顎前突症患者の手術前後におけるオトガイ下導出の
筋活動量

Ⅱ–2.骨格性上顎前突症患者の手術前後における嚥下時の舌骨上筋群の
筋活動量の変化・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・36
Ⅱ–2–① 骨格性上顎前突症患者の手術前後における顎下導出の筋活動量
Ⅱ–2–② 骨格性上顎前突症患者の手術前後におけるオトガイ下導出の
筋活動量

考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・38
結論・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・44
参考文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・45
謝辞・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・51

<緒言>
低位舌や舌突出癖、異常嚥下癖などの舌の異常習癖は不正咬合の原因となり
得るとともに、矯正歯科治療後における咬合の安定性にも関わる因子とされて
いる(石川, 1988; 谷田ら, 1998; 蓮舎ら, 2002; 鍋島ら, 2004; 山田ら, 2014)。
そのため矯正歯科治療に際しては、歯列不正や顎顔面形態に対する治療に加え、
筋機能療法などを用いた舌の異常習癖へのアプローチも重要であると考えられ
る。一方、骨格性下顎前突症や上顎前突症などの顎変形症患者においては、咬
合の問題のみならず、上下顎骨の不調和による舌を含めた口腔周囲筋の機能異
常が生じることが報告されている(Horn et al., 2004; Yılmaz et al., 2011; Görgülü et
al., 2011)

嚥下は食物の位置により先行期、準備期、口腔期、咽頭期、食道期の5段階
に区分される連続的な運動である。この一連の動作が阻害されると嚥下障害が
生じるが、このうち摂食・嚥下障害の主たる病態は口腔期障害、咽頭期障害で
ある。これらの嚥下障害のスクリーニングテストとして、嚥下音の性状や長さ
などを聴取する頸部聴診法(高橋, 2018)、水や食物を実際に嚥下して、甲状軟
骨の動きや嚥下後の呼吸やむせなどを調査する反復唾液嚥下テスト(小口,
2019)、改訂水飲みテスト(倉智, 2019)、フードテスト(西山ら, 2016)などが
あり、さらなる精査のために、超音波診断装置、VF(嚥下造影)や VE(嚥下内
視鏡検査)といった方法があるが、患者にとって負担の大きな検査となること
が問題点の一つとして挙げられる(大久保ら, 2002)。

1

しかしながら、舌の動きや位置は口腔外からの観察が容易ではなく、定量的
な評価を行うことが難しいことから、これまでに舌圧センサシートや超音波診
断装置等を用いた研究が行われてきたが、舌の水平的な位置関係を評価するに
は至っていなかった(坂上ら, 2014; Ohkubo et al., 2019)。また、上下顎骨に対
する舌の位置は舌骨の位置と関連性が高く、構音や嚥下時における舌の動きに
伴い、舌骨の位置も変化することも、評価を困難にする要因である(Fatima et al.,
2019)。
エレクトロパラトグラフィー(EPG)は口蓋床に組み込まれた 62 個の電極か
ら舌と口蓋の接触状態を可視化できる装置である。EPG リアルタイム連動シス
テム(Speech Training Aid and Recording System : STARS)により EPG プレート
と舌の接触パターンを記録することで、構音障害や嚥下異常を有する患者に対
する訓練やそのフィードバックが可能である(Ohkiba et al., 1989; Hardcastle et al.,
1991; Frances et al., 1995; Chi-Fishman et al., 1996; 金高ら, 1997; Ichida et al., 1999;
Cayley et al., 2000; Hiiemae et al., 2003; Yamamoto et al., 2020)。EPG を用いた構音
に関する研究は多く、顎変形症患者の手術前後における研究についても報告さ
れている(Kojima et al., 2017; Kaku et al., 2020)。Kojima、Kaku ら(Kojima et al.,
2017; Kaku et al., 2020)は骨格性下顎前突症患者、および下顎骨側方偏位患者で
は、歯茎音構音時において舌と切歯乳頭部における接触状態が不良であるが、
顎矯正手術後には正常咬合者とほぼ同等となるまで改善されることを明らかに
した。しかしながら、顎変形症患者の嚥下機能に関する報告は少なく、EPG を
用いた検討についてはほとんど行われていないのが現状である。
舌骨上筋群は、顎二腹筋、茎突舌骨筋、顎舌骨筋、およびオトガイ舌骨筋か
2

らなり、咀嚼運動に引き続く自発的な嚥下に際し、閉口位の保持や舌骨と喉頭
の前上方への移動、食道入口の開大に関与し、舌と一定の協調運動を行ってい
る。顎変形症患者における口腔周囲筋の機能は顎矯正手術によって改善するこ
とが報告されており、Nakata ら(Nakata et al., 2007)は下顎前突症患者の咀
嚼筋の筋活動量が顎矯正手術によって改善することを明らかとした。しかしな
がら、顎変形症患者における舌骨上筋群の評価はほとんど行われておらず、特
に嚥下時における舌骨上筋群の筋活動の変化について検討した報告は皆無であ
る。そこで本研究では、顎変形症を有する患者に対し、EPG と STARS、人工口
蓋床を用いて顎矯正手術前後の嚥下時における舌と口蓋の接触状態の変化を評
価するとともに、筋電図による嚥下時の舌骨上筋群の筋活動量について検討す
ることを目的とした。

3

<試料と方法>
本研究は、広島大学疫学研究倫理審査委員会の承認を得て行われた(承認番
号第 E–476 号)。

Ⅰ. 嚥下時の舌と口蓋の接触状態の検討

Ⅰ–1.正常咬合者における嚥下時の舌と口蓋の接触状態の検討

Ⅰ–1–① 被験者
顎口腔機能に顕著な異常がなく、個性正常咬合を有する矯正歯科治療未経験
の成人 10 名(男性 3 名、女性 7 名、平均年齢 29 歳 6 ヶ月、平均 ANB 角 3.2°、
平均オーバージェット 2.8 mm)を被験者とした。

Ⅰ–1–② EPG 検査
以下の装置を使用した。
・EPG 人工口蓋床・・・各被験者の上顎作業模型から作製
・記録・・・STARS(朝日レントゲン工業株式会社、京都)
・分析・・・Articulate Assistant(Articulate Instruments Ltd., Musselburgh, UK)
Articulate Assistant(Articulate Instruments Ltd.)に記録された嚥下時のデータに
おいて、舌が最大接触に達した時点から 0.1 秒前、0.2 秒前、0.3 秒前、および最
大 0.4 秒後までの評価を行った。EPG パターン、Whole Total および Center of

4

Gravity(COG)値の平均値について、分散分析の後、多重比較検定(Fisher 検
定)を用いた比較検討を行なった。
図1に EPG パターンの例を示す。上方が歯列前方部、後方が口蓋後方部、右
方が口蓋右側縁、左方が口蓋左側縁となる。EPG フレームの横列を前歯歯頚部
から順に R1 から R8 とする。Wrench ら(Wrench et al., 2002)は EPG 人工口蓋
床に設置する電極は縦8列とし、後方4列の電極間隔を前方4列の間隔の2倍
と定めている。また、横列 R1 には両側切歯間に6個、R2 から R8 には8個の電
極が配列される。

図1 EPG パターンの一例

Ⅰ–1–③ Whole Total の算出
Whole Total は、1 つの EPG フレームにおける総接触電極数である。

5

Ⅰ–1–④ COG 値の算出
COG は、EPG パターンの定量的分析方法の一つであり、舌と口蓋との前後方
向における接触状態の客観的評価に用いられる。COG 値は前方に舌が接触する
と大きく、後方部に接触すると小さくなる。以下の計算式により算出される。



(0.5×R8)+(1.5×R7)+(2.5×R6)+(3.5×R5)+

(4.5×R4)+(5.5×R3)+(6.5×R2)+(7.5×R1)
COG =
R8+R7+R6+R5+R4+R3+R2+R1

Ⅰ–1–⑤ 嚥下に要する時間の計測
嚥下運動において、舌と口蓋の接触開始から完全接触に至るまでの期間は嚥
下の口腔期に相当し、完全接触の期間は咽頭期に相当する。さらに離脱開始か
ら完全に離脱が完了するまでの期間は食道期に相当する(Chi-Fishman et al.,
1996; Ichida et al., 1999)。水約 3 mL の嚥下に要する時間を一人 5 回ずつ計測し
た。姿勢はフランクフルト平面が床と平行とし、検査毎に十分な休憩を入れた。
また、各嚥下時に舌骨挙上の確認を行った。

6

Ⅰ–2.骨格性下顎前突症患者の顎矯正手術前後における嚥下時の舌と口蓋の接
触状態の検討

Ⅰ–2–① 被験者
2017 年 7 月から 2020 年 10 月の間に、広島大学病院矯正歯科およびかみや矯
正歯科・歯科にて骨格性下顎前突症と診断され、下顎枝矢状分割術(SSRO)が
施行された患者 30 名(男性 8 名、女性 22 名、平均年齢 27 歳 3 ヶ月、平均 ANB
角−2.2°、平均オーバージェット-5.0 mm)のうち、顔貌に著しい非対称性が認め
られず、下顎骨の左右の骨格的な偏位が 3.0 mm 以下の患者を被験者とした。

Ⅰ–2–② EPG パターンの比較検討
骨格性下顎前突症患者の手術前後、および正常咬合者の EPG 検査を行い、EPG
パターンを比較検討した。

Ⅰ–2–③ Whole Total の比較検討
骨格性下顎前突症患者の手術前後、および正常咬合者群の各計測時点におけ
る Whole Total の平均値を分散分析の後、多重比較検定(Fisher 検定)により比
較検討した。

Ⅰ–2–④ EPG フレームの各区分における接触電極数の比較検討
Chi-Fishman ら(Chi-Fishman et al., 1996)の方法に従い、EPG フレームを前後
方向に歯頚部(Alveolar)、硬口蓋中央部(Palatal)、軟口蓋部(Velar)の3つに
7

区分し、それぞれの接触電極数の平均値を算出した。骨格性下顎前突症患者の
手術前後、および正常咬合者の値について、分散分析の後、多重比較検定(Fisher
検定)により比較検討した(図2)。



Alveolar:R1〜R2

Palatal:R3〜R5

Velar:R6〜R8

図2 プレートの前後方向の区分

Ⅰ–2–⑤ COG 値の比較検討
骨格性下顎前突症患者の手術前後、および正常咬合者の完全接触前の各時点
における COG 値の平均値を分散分析の後、多重比較検定(Fisher 検定)を用い
て比較検討した。

Ⅰ–2–⑥ 嚥下時間の比較検討
骨格性下顎前突症患者、および正常咬合者の手術前後における嚥下時の各ス
テージの継続時間を比較した。

8

Ⅰ–3.骨格性上顎前突症患者の顎矯正手術前後における嚥下時の舌と口蓋の接
触状態の検討

Ⅰ–3–① 被験者
2017 年 7 月から 2020 年 10 月の間に、広島大学病院矯正歯科およびかみや矯
正歯科・歯科にて骨格性上顎前突症と診断され、SSRO が施行された患者 15 名
(男性1名、女性 14 名、平均年齢 17 歳 4 ヶ月、平均 ANB 角 8.5°、平均オーバ
ージェット 8.5 mm)のうち、顔貌に著しい非対称性が認められず、下顎骨の左
右の骨格的な偏位が 3.0 mm 以下の患者を被験者とした。

Ⅰ–3–② EPG パターンの比較検討
骨格性上顎前突症患者の手術前後、および正常咬合者の EPG 検査を行い、EPG
パターンを比較検討した。

Ⅰ–3–③ Whole Total の比較検討
骨格性上顎前突症患者の手術前後、および正常咬合者群の各計測時点におけ
る Whole Total の平均値を分散分析の後、多重比較検定(Fisher 検定)により比
較検討した。

9

Ⅰ–3–④ EPG フレームの各区分における接触電極数の比較検討
実験Ⅰ-2-④の方法と同様に、EPG フレームの各区分の接触電極数の平均値を
算出した。骨格性上顎前突症患者の手術前後、および正常咬合者の値について、
分散分析の後、多重比較検定(Fisher 検定)により比較検討した。

Ⅰ–3–⑤ COG 値の比較検討
骨格性上顎前突症患者の手術前後、および正常咬合者の完全接触前の各時点
における COG 値の平均値を分散分析の後、多重比較検定(Fisher 検定)を用い
て比較検討した。

Ⅰ–3–⑥ 嚥下時間の比較検討
骨格性上顎前突症患者、および正常咬合者の手術前後における嚥下時の各ス
テージの継続時間を比較した。

10

Ⅱ.筋電図による嚥下時の舌骨上筋群の筋活動量の検討

Ⅱ–1.骨格性下顎前突症患者の顎矯正手術前後における嚥下時の舌骨上筋群の
筋活動量の検討

Ⅱ–1–① 被験者
2017 年 7 月から 2020 年 10 月の間に、広島大学病院矯正歯科にて骨格性下顎
前突症と診断され、下顎枝矢状分割術(SSRO)が施行された患者 14 名(男性 4
名、女性 10 名、平均年齢 23 歳 10 ヶ月、平均 ANB 角-3.0°、平均オーバージェ
ット-6.6 mm)のうち、顔貌に著しい非対称性が認められず、下顎骨の左右の骨
格的な偏位が 3.0 mm 以下の患者を被験者とした。

11

Ⅱ–1–② 使用装置および舌骨上筋群に対する電極の貼付位置
筋電計(誘発電位・筋電図検査装置 MEB−9200 シリーズ ニューロパック M
1、日本光電、東京)を使用し、舌骨上筋群の筋活動の記録のため興津らの方
法(興津ら, 1998)に準じて、下顎2導出とした。電極の貼付位置を以下に示す
(図3)


図3 表面筋電図の貼付位置

Ⅱ–1–③ 検査項目
電位の平均値であるベースラインと波形との差の絶対値を積分した値である
Area を算出した。

12

Ⅱ–2.骨格性上顎前突症患者の顎矯正手術前後における嚥下時の舌骨上筋群の
筋活動量の検討

Ⅱ–2–① 被験者
2017 年 7 月から 2020 年 10 月の間に、広島大学病院矯正歯科にて骨格性上顎
前突症と診断され、下顎枝矢状分割術(SSRO)が施行された患者 3 名(女性 3
名、平均年齢 27 歳 6 ヶ月、平均 ANB 角 10.4°、平均オーバージェット 6.3 mm)
のうち、顔貌に著しい非対称性が認められず、下顎骨の左右の骨格的な偏位が
3.0 mm 以下の患者を被験者とした。

Ⅱ–2–② 検査項目
実験Ⅱ–1 と同様に、筋電計を用いて舌骨上筋群の筋活動を計測し、ベースラ
インと Area を算出した。

13

<結果>
Ⅰ. 嚥下時における舌と口蓋の接触状態

Ⅰ–1.正常咬合者における嚥下時の舌と口蓋の接触状態

Ⅰ–1–① 正常咬合者における嚥下時の EPG パターン
正常咬合者の嚥下時における EPG パターンの一例を図4A、B に示す。嚥下
時には前方より舌と口蓋の接触面積が徐々に増加し、最大接触に至る。最大接
触後は前方もしくは後方より離脱を開始し、完全な離脱へと至ることが示され
た。




14





-0.3S

-0.2S

-0.1S


0.1S

Full contact


0.2S

0.3S

図4A 正常咬合者の嚥下時の EPG パターンの一例①

-0.3S

-0.2S

-0.1S

Full contact

0.1S

0.2S

0.3S

0.4S

図4B 正常咬合者の嚥下時の EPG パターンの一例②

15

Ⅰ–1–② 正常咬合者における嚥下時の Whole Total の変化
完全接触の 0.3 秒前より、経時的に接触電極数が有意に増加することが示され
た(図5)。

Whole Total





図5 正常咬合者における嚥下時の Whole Total の変化




16

Ⅰ–1–③ 正常咬合者における嚥下時の COG 値
嚥下開始から最大接触へ近づくにつれ、有意差は認められないものの COG 値
は減少し、口蓋に対する舌の位置が徐々に後方に移動することが示された(表
1)。

表1 正常咬合者における各時点の COG 平均値


second

COG

———————————————————————————————————————————————————————————
-0.3S

0.568±0.08

-0.2S

0.561±0.05

-0.1S

0.556±0.06

———————————————————————————————————————————————————————————




17

Ⅰ–2.骨格性下顎前突症患者の顎矯正手術前後における嚥下時の舌と口蓋の接
触状態の変化

Ⅰ–2–① 骨格性下顎前突症患者の手術前後における EPG パターンの変化
骨格性下顎前突症患者の嚥下時における手術前後の EPG パターンの一例を図
6に示す。手術前では完全接触 0.3 秒前の歯頚部における接触電極数が少なく、
前方の閉鎖が不十分であることが示された。手術後は、0.3 秒前における歯頚部
の接触電極数が増加し、正常咬合者群と類似したパターンへ変化することが明
らかとなった。完全接触後は手術前後ともに、正常咬合者群と同様に前方もし
くは後方からの離脱が確認された。 ...

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