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大学・研究所にある論文を検索できる 「手術年齢の早期化が二次的顎裂部骨移植術の術後経過に与える影響」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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手術年齢の早期化が二次的顎裂部骨移植術の術後経過に与える影響

坂, 晃宏 大阪大学

2021.03.24

概要

【目的】
口唇裂・口蓋裂患者に対する二次的顎裂部骨移植術(SABG)は適切な上顎永久歯の萌出や歯列・咬合の発育を誘導する目的で幅広く用いられ、多くの場合は顎裂内に形成した移植床へ新鮮自家海綿骨細片を充填することで両側の歯槽骨と連続する骨架橋を付与する。

SABGの実施時期は8歳から11歳までの患側犬歯萌出前に実施することが2008年に策定された口唇裂口蓋裂診療ガイドライン(公益社団法人 日本口腔外科学会)において推奨されているが、8歳以前での骨移植が上顎永久歯列の発育に悪影響を及ぼさないとする臨床研究もあるためにSABGの適正な実施年齢については未だに議論の余地がある。他方、ガイドラインで推奨される実施時期は我が国では小学校3~5年生に相当し、患者のクラブ・委員会活動など学校生活での活動内容が大きく増加する時期であり、手術が学校生活を円滑に送るのに負担と考える患者家族も少なくない。これにより、8歳まで待機することができずに早期のSABGを強く希望する患者家族が増加し、SABGを6歳ごろに実施する口唇外鼻修正術と同時に実施するなど当初の治療計画から大きく逸脱する場面をしばしば認める。医療レベルを下げることなく個々の患者側のニーズに合わせた治療の提供が求められる中、医療者側が一方的に手術実施時期の低年齢化を阻止することは患者側と医療者側の持続的な信頼関係が不可欠である口唇裂・口蓋裂治療において困難である。

このような背景から、現在の治療ガイドラインよりも早期に実施されるSABGが妥当なのかどうかを各診療科が把握し、患者や家族に適切に説明するための医学的根拠を明確に提示する必要がある。本研究はSABGの実施にあたって得られたCBCTによる形態学的情報や周術期における診療情報(看護記録や手術記録など)を後方視的に収集し、手術実施年齢別に分類・比較することでSABGの早期化に口唇裂・口蓋裂治療の流れにどのような影響を与えるのかを検討し、改善すべき問題点を抽出する試みを行った。

【方法】
対象患者:2017年12月から2019年7月までに大阪大学 歯学部附属病院 口唇裂・口蓋裂口腔顔面生育治療センターにおいて新鮮自家腸骨海綿骨細片を用いたSABGを実施した非症候性の片側性唇顎口蓋裂(UCLP)患者のうち、術後12か月以内に再手術にならず、診療情報が十分に保存されている4.2歳~10.8歳の49症例(男児24症例、女児25症例)を抽出した。なお、全症例において口蓋裂初回手術は生後12か月ごろにFurlow法による軟口蓋形成を行い、生後18か月ごろを中心に硬口蓋と歯槽部の裂隙を閉鎖する二段階口蓋形成術を受けていた。

二次的顎裂部骨移植術の術式:顎裂辺縁部の粘膜・骨膜を切開、吸収性縫合糸を用いた鼻腔底形成によって移植床の鼻翼側を形成し、上前腸骨棘から腸骨稜に至る骨端軟骨直下より採取した新鮮自家海綿骨細片を移植床に充填、骨膜減張切開した唇側粘膜骨膜弁で自家骨が溢出しないように緊密に移植床を被覆した。

CBCT立体画像を用いた形態学的解析:術前および術後12か月で撮影された歯科用コーンビームCT(CBCT)撮影画像より「中切歯が顎裂内を移動した量」や「顎裂内に形成した骨架橋の構造特性」を評価した。また、石膏模型を用いた方法に準じて上顎骨・上顎歯列弓を再構築し上顎歯列弓および歯槽基底の幅径および歯槽基底の長径を測定した。

上顎を基準とした患側・健側中切歯の萌出方向の測定:術前および術後12か月で撮影されたCBCT画像より水平断面、前頭断面および矢状断面を再構築し、各断面における健側・患側中切歯と基準平面のなす角度を測定した。水平断面では歯軸の捻転を、前頭断面では近遠心的な歯軸傾斜、矢状断面は唇側・口蓋側への歯軸の傾斜を評価した。

統計学的解析:各指標が月数単位で変化する可能性を考慮し、手術年齢は月数を小数点であらわした量的変数(間隔尺度)として扱った。2群間比較を行う場合、4歳から9歳未満を上顎中切歯が形成される時期として捉え、手術時年齢が9歳未満の「早期群」(平均値7.08歳、中央値7.13)と9歳以上の「通常群」(平均値9.94歳、中央値10.2歳)に分類して測定結果を平均 ± 標準誤差で示し、統計学的解析を行った。2群間の変数における検定ではKolmogorov–Smirnov検定より正規性を確認したうえでWelchのt検定または1対の標本による平均の検定を実施した。2変量の解析にはPearsonの積率相関係数を用いた。いずれの検定も有意水準は5%とした。

【結果】
上顎中切歯の萌出に着目したSABGの術後変化:最初にCBCT撮影で得られた水平断面画像から上顎歯列弓の特に前歯部に着目した。手術年齢が6歳の症例では矯正治療の介入なしに健側中切歯が骨架橋内に誘導され、捻転も改善される傾向があることを認めた。一方、手術年齢が9歳の症例における患側中切歯はSABGの実施に伴って歯列への誘導は正常に行われているが、矯正用マルチブラケット装置(MBA)が装着されていない症例では歯軸の捻転は解消されなかった。そこで、患側中切歯歯軸の術後変化を定量的に比較したところ、歯軸の捻転をあらわす水平断面の歯軸においてSABGの「早期群」は「通常群」よりも有意に改善した(p=0.035)。

手術年齢別にみた患側中切歯の萌出と顎裂との関係:SABGの術後12か月間において患側中切歯が顎裂内を移動した体積を移動量として各年齢別に分類したところ、中切歯の萌出が促進される6歳ごろから増加量が急速に増加し、歯根完成を迎える9歳ごろに収束した。上顎中切歯歯根完成期である9歳を境にSABGの「早期群」と「通常群」に区切った2群間比較では、「早期群」の患側上顎中切歯の顎裂内での移動量は「通常群」と比較して有意に高かった(p<0.001)。一方。中切歯萌出の足場となる骨架橋の海綿骨における三次元微細構造を比較したところ、手術年齢による明らかな違いは見出されずほぼ同様な力学的構造特性を示した。

上顎の発育に対するSABG早期化の影響:術後12か月の上顎歯槽幅径は全ての手術年齢で有意な増加を認めた。また、矯正治療(術前・術後のクワドヘリックスやプロトラクターによる上顎の拡大・牽引)が未介入の症例のみで同様の比較を行ったが、SABGの早期化が歯列弓・上顎歯槽幅径いずれも術後に有意な増加を示し、成長を抑制する要素は見出されなかった。

術中記録および入院看護記録から読み取ったSABG早期化の特徴:手術時間と手術年齢との関係は増齢的に手術時間が短くなる傾向がみられ、やや弱い負の相関関係を示した。一方、術中出血量は手術年齢との相関関係は認めなかったものの顎裂容積と比較的強い相関関係を示した。術後の入院看護記録から、アセトアミノフェンの頓用回数は手術年齢とともに増加した。しかし、入院期間全体のアセトアミノフェンの累積頓用回数が手術時間や術中出血量との間に相関があるかどうかを検討したが、いずれも相関を認めなかった。

【考察・結論】
Furlow法を基本とした二段階口蓋形成術による口蓋裂初回手術を受けたUCLP患者では、二次的顎裂部骨移植を推奨手術年齢よりも早期に実施したとしても上顎劣成長の明らかな増悪化は見られず、患側上顎中切歯の萌出および上顎歯列弓への誘導に関しては有利になると思われた。特に患側の中切歯および側切歯歯胚が明らかに位置異常を示しているような症例はSABGを早期に実施する方がその後の治療に有用となる可能性が示唆された。一方、術後のアセトアミノフェンの頓用回数が手術年齢の低い患者ほど少なかったことから、6歳以前の患者の疼痛管理には患者の訴えを正確に察知するための対策を講じる必要があった。以上の結果により、口蓋裂初回手術より上顎劣成長への対策を行っていれば、我が国の診療ガイドラインよりも早い年齢でのSABGは必ずしも避けるべき治療法ではなく、症例や患者の社会的背景に合わせてより柔軟に対応できることが示された。

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