Hyperthyroidism in Graves disease causes sleep disorders related to sympathetic hypertonia
概要
令和 4 年 3 月
松本和久
主
学位論文審査要旨
査
難
波
範 行
副主査
山
本
一 博
同
加
藤
雅
彦
主論文
Hyperthyroidism in Graves disease causes sleep disorders related to sympathetic
hypertonia
(バセドウ病における甲状腺機能亢進症は交感神経活性に関連した睡眠障害をきたす)
(著者:松本和久、伊澤正一郎、深谷健二、松田枝里子、藤山美里、松澤和彦、大倉毅、
加藤雅彦、谷口晋一、山本一博)
令和4年
The Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism
doi: 10.1210/clinem/dgac013
参考論文
1. Low signal intensities of MRI T1 mapping predict refractory diplopia in
Graves’ ophthalmopathy
(バセドウ病眼症におけるMRI T1マッピングの低信号強度による難治性複視の予測)
(著者:松澤和彦、伊澤正一郎、加藤亜結美、深谷健二、松本和久、大倉毅、
宮崎大、黒崎雅道、藤井進也、谷口晋一、加藤雅彦、山本一博)
令和2年 Clinical Endocrinology
92巻
536頁~544頁
学
位
論
文
要
旨
Hyperthyroidism in Graves disease causes sleep disorders related to sympathetic
hypertonia
(バセドウ病における甲状腺機能亢進症は交感神経活性に関連した睡眠障害をきたす)
睡眠障害は日常診療でよく遭遇するcommon diseaseであり、身体的・精神的QOL低下を
きたす。甲状腺疾患は睡眠障害をきたす原因の一つである。甲状腺機能低下症と睡眠時無
呼吸症候群 (SAS) との関連が報告されており、甲状腺機能亢進症は43~72 %で不眠症を
認め入眠困難や睡眠困難、睡眠効率低下をきたすことも報告されているが、いずれも後ろ
向きの検討であり治療による睡眠障害の改善効果を証明した報告はない。また、甲状腺機
能亢進症は交感神経を活性化すること、交感神経活性化が睡眠障害をきたすことは報告さ
れているが、甲状腺機能亢進症による交感神経活性化と睡眠障害の関連性は実証されてい
ない。本研究では甲状腺機能亢進症による交感神経系活性化と睡眠障害の関係を解明する
ために、バセドウ病(GD)患者において前向きに検討した。
方
法
本研究は横断的検討を伴う前向き研究である。対象は2017年11月から2020年10月に鳥取
大学医学部附属病院内分泌代謝内科において登録した未治療の甲状腺機能亢進症を有する
GD患者 (HT群) 22例と治療により甲状腺機能が正常化したGD患者 (NF群) 20例、甲状腺疾
患を有さない健常者 (CR群) 30例とした。GDは日本甲状腺学会の甲状腺疾患診断ガイドラ
イン2021に基づいて診断した。妊娠、授乳婦、睡眠障害の原因となる他臓器疾患の合併
例、簡易無呼吸検査にて無呼吸低呼吸指数 (AHI) ≧ 15のSASと診断された者は除外し
た。主要評価項目はピッツバーグ睡眠質問票 (PSQI) の総得点とした。PSQIは睡眠障害の
評価に広く使用され、睡眠の質、入眠時間、睡眠時間、睡眠効率、睡眠困難、睡眠導入剤
の使用、日中覚醒困難の7要素から構成され、総得点を0-21点で評価し6点以上を睡眠障害
と判断する。副次評価項目はPSQIの各コンポーネントとした。全例のエントリー時に加
え、HT群の14例は治療開始12ヶ月後にPSQIを再評価した。本研究は鳥取大学医学部倫理審
査委員会の承認 (17B004) を得て実施した。
結
果
第1にHT群、NF群、CR群の3群間でエントリー時の横断的検討を行った。年齢、性別、拡
張期血圧、AHIの有意差は認めなかったが、拍、遊離T4(Free T4)、TRAb、尿中総メタネ
フリン(U-MNs)はHT群でNF群、CR群と比べて有意に高値であった (p < 0.05)。Free T4と
脈拍 (r = 0.643,p < 0.001) およびFree T4とU-MNs (r = 0.387,p < 0.001) はそれぞれ
有意な正の相関関係があり、甲状腺機能亢進症による交感神経活性化が示唆された。同時
に行ったPSQIの総得点は、3群間に有意差を認めHT群で6 (IQR 4-8)、NF群4 (IQR 3-6)、
CR群4 (IQR 4-6)とHT群で高値であった (p = 0.036)。PSQIコンポーネントにおいては、
睡眠効率(p = 0.003)、睡眠困難(p = 0.011)で有意差を認めHT群で高得点の割合が多かっ
た。3群間でエントリー時の年齢、性別、BMI、飲酒習慣、喫煙習慣、Free T4による重回
帰分析を行ったところFree T4のみがPSQIと有意な正の相関を示した (p = 0.006)。第2に
HT群14例を治療前と治療12ヶ月後において前向き比較したところ、TSH、Free T4、UMNs、収縮期・拡張期血圧、脈拍が有意に改善した (p < 0.05)。PSQI総得点は治療前の6
(IQR 4-8)から治療12ヶ月後の4 (IQR 2.25-5)と有意に改善した (p = 0.018)。PSQIコン
ポーネントは、睡眠の質(p = 0.028)と睡眠困難(p = 0.011)が治療後に有意に改善してい
た。さらにFree T4の低下は、PSQI総得点の改善および睡眠困難の改善と有意ではないも
のの相関する傾向を示した。
考
察
本検討により甲状腺機能亢進症は睡眠の質や睡眠困難に関連した睡眠障害をきたし、治
療にて改善することが確認された。甲状腺機能亢進症は脈拍やU-MNs等の交感神経系活性
化に関する指標と関連性があり、甲状腺ホルモンが交感神経系活性を増強させることで睡
眠の質低下や睡眠困難をきたしていると考えられた。甲状腺ホルモンは交感神経系の活性
化とシナプス伝達の強さや速度を増大し中枢神経系の興奮性を高めることが報告されてい
ることから、同様の機序により甲状腺機能亢進症が睡眠障害に関与すると考えられた。治
療により甲状腺機能正常化をきたすことで睡眠の質や睡眠困難の改善効果が期待される一
方で、睡眠障害へは交感神経活性低下効果や覚醒の抑制が期待できる薬剤の併用が有用と
考えられ今後検証が必要である。
結
論
GDにおける甲状腺機能亢進症は交感神経系の活性化を介して睡眠の質や睡眠困難をきた
し、甲状腺機能亢進症の治療は睡眠の質や睡眠困難を改善することを証明した。