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大学・研究所にある論文を検索できる 「ステロイド系天然物Physalin類の合成研究」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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ステロイド系天然物Physalin類の合成研究

新木, 悠介 名古屋大学

2021.07.14

概要

フィサリン(physalin)は 1969 年にナス科植物ホオズキより単離・構造決定されたステロイド系天然物である。ヘッジホッグシグナル伝達系や NF-κB 転写活性を阻害することで、抗がん作用や抗炎症作用を示すことが分かっており、この化合物群は創薬分野において新薬開発のシード化合物として期待されている。しかしながら、その極めて複雑な構造故、初めてフィサリンが単離構造決定されてから約 50 年が経過した現在でもその全合成は達成されていない。また有機合成化学的観点からも、フィサリンのような化合物全体が高度に酸素官能基化され、かつ多くの sp3 炭素により三次元的にも複雑化した化合物の効率的な合成法の開発は挑戦的な課題である。そこで本研究では、フィサリンの世界初の全合成を達成することを目的とした。

第二章では、フィサリンの効率的な合成計画を考えるにあたって、フィサリンの生合成を考察した。フィサリンの詳細な生合成研究は行われていないが、同じナス科植物から単離されるステロイド系天然物ウィザノライド(withanolide) との構造的類似性から、フィサリンはウィザノライドから生合成されると考えられている。そこで、我々は単離されているウィザノライド類の構造から、次のような詳細な推定生合成経路を提唱した。まず、ウィザノライド G の 14 位、18 位、27 位と D 環が酸化されることで 1 へと導かれ、14 位水酸基からの retro-aldol 型の反応が進行し、生成したエノール 2 が不飽和ラクトンへ Michael 付加することで、炭素 9 員環と F 環を有する 3 が得られる。この連続反応によって新たに生じた C13-C17 アルケンに対し cis-ジヒドロキシ化反応が進行し、分子内アセタールを形成することで physalin C が生合成されると考えた。この推定生合成経路は、ウィザノライド骨格からフィサリン CDEFG 環をわずか 2 工程で合成できる魅力的な合成ルートになりうる。そこでこの推定生合成経路を化学的に模倣することでフィサリンを全合成しようと考えた。

第三章では、生合成を模倣してフィサリンを全合成するために解決すべき合成課題のうち、C13-C14 結合の切断と、それによって生成する C13-C17 アルケンのジアステレオ面選択的 cis-ジヒドロキシ化をモデル実験によって解決した。まず、文献既知の方法で合成した 5 から 14 位に水酸基、17α,20α エポキシドを有する化合物 6a-c を合成した。これら基質を塩基性条件下 retro-aldol 反応による C13-C14 結合の切断を検討したが、目的の開裂体 8 は得られなかった。一方、四酢酸鉛、ヨウ素存在下光照射により 6a の 14 位水酸基にアルコキシラジカルを発生させると、C13-C14 結合の開裂反応と続くエポキシドの開環、ラクトン形成までが一挙に進行し、炭素 9 員環を有する 9aを得ることに成功した。また、14 位水酸基の立体配置に依存しないことがわかった。これにより合成課題の 1 つ C13-C14 結合の切断を解決した。続いて、得られた 9 を使い C13-C17 アルケンのジアステレオ面選択的 cis-ジヒドロキシル化を検討した。分子力場計算により算出した化合物 9 の最安定立体配座から C13-C17 アルケンに対する試薬の接近は β 面が優先することが示唆され、実際に 16 位に α 配向の置換基が存在する 9a を OsO4 によって酸化すると、β ジオールが主生成物として得られた。そこで 16位に β 配向でニトロベンゾイル基をもつ基質 9b を用いたところ、立体選択性が反転し目的の α ジオール 10 を主生成物として得ることに成功した。

このモデル実験の結果をふまえ、第四章ではフィサリンの全合成に取り組んだ。すなわち、14 位に水酸基、D 環上にエノン構造、そして側鎖に不飽和 δ-ラクトンを有する化合物 11 が合成できれば、14 位水酸基のアルコキシラジカルから始まる C13-C14結合切断と不飽和 δ-ラクトンへの Michael 付加の連続反応により 12 が得られ、その後 C13-C17 アルケンのジヒドロキシル化とステロイド AB 環の修飾によりフィサリンを合成できると考えた。

そこで、鍵となる連続反応の前駆体の合成を検討した。文献既知のラクトン 13 から 5 工程の変換を経て得られるエノン 14 に対し 2-lithio-1,3-dhthiane を付加させることで、ジチアン付加体 15 を合成した。この主生成物の 20 位の立体配置は天然物とは反対であったが、ジチアンの脱保護と水酸基の保護によりアルデヒド 16 へと変換できたため、G 環の導入を検討した。不飽和エステル 17 から発生するジエノラートをアルデヒド 16 に付加させることで、収率、ジアステレオ選択性ともに低いが、G 環が導入された 18 を得ることが出来た。この化合物は 15 位水酸基をケトンへ酸化し、14 位に水酸基を導入することで、立体化学は異なるものの鍵反応前駆体に変換できると考えられ、この G 環導入反応が前駆体 11 の合成に適用可能であることが示唆された。今後、ジチアンの付加反応の立体選択性を改善することで、20 位が天然型の鍵反応前駆体を合成し、連続反応を利用したフィサリンの全合成へと展開されることが期待される。

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