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書き出し

日本初の大ダム撤去で解消される分断障壁と流水ネットワーク再生がもたらす遺伝子流動

東城, 幸治 信州大学

2020.03.05

概要

2版

様 式 C−19、F−19−1、Z−19 (共通)

科学研究費助成事業  研究成果報告書
平成 30 年

6 月 25 日現在

機関番号: 13601
研究種目: 挑戦的萌芽研究
研究期間: 2016 ∼ 2017
課題番号: 16K14807
研究課題名(和文)日本初の大ダム撤去で解消される分断障壁と流水ネットワーク再生がもたらす遺伝子流動

研究課題名(英文)Elimination of a major distributional barrier by Japan's first dam removal
project: The transition in the gene flow scale of aquatic organisms caused by
the re-establishment of a flowing river network
研究代表者
東城 幸治(Tojo, Koji)
信州大学・学術研究院理学系・教授

研究者番号:30377618
交付決定額(研究期間全体):(直接経費)

2,900,000 円

研究成果の概要(和文):日本初となるダム撤去事業が球磨川・荒瀬ダムで実施された(2013-2018年)。約60
年間存在したダム湖が解消し、ダムの上下流や支流は流水ネットワークで接続され、河川生物の移動分散の障壁
は完全に解消された。流水環境に適応した生物種群の移動分散を可能にし、遺伝子流動スケールにもプラスの影
響をもたらすと予想される。
本研究では、ダム撤去直前に採取したヒゲナガカワトビケラの遺伝構造解析を行い、ダム撤去前の遺伝構造デー
タとして位置づける。今後のサンプリングと遺伝子解析データ、すなわちダム撤去後のデータと比較すること
で、日本初のダム撤去事業がもたらすであろう効果を検証する基礎データとして位置づける。
研究成果の概要(英文):Japan's first dam removal project was undertaken at the Arase Dam on
Kumagawa River during the years 2013 to 2018. The dam reservoir, which existed for ca. 60 years,
drained away as the up- and downstream sides of the dam site and their tributaries were reconnected
as a flowing water network. The major obstacle in dispersion of stream inhabiting organisms was
completely eliminated. Removal of the dam re-enables the dispersion of organisms adapted to running
water environments. As a result, it is expected to have a positive influence on their scale of gene
flow.
This study records for future comparison the genetic structure analyses of an aquatic insect
collected immediately before the project. These analyses are treated as base data on genetic
structure before the project. In the future, I plan to compare them with the data of genetic
structure after dam removal. So, this constitutes the extremely important fundamental data to verify
the effects of Japan’s first dam removal project.

研究分野: 進化生物学
キーワード: ダム撤去事業 流水ネットワーク 移動分散 遺伝子流動 集団遺伝 水生昆虫 自然再生 遺伝的多
様性

様 式 C−19、F−19−1、Z−19、CK−19(共通)
1.研究開始当初の背景
本研究で着目した球磨川・荒瀬ダムは,本
邦に 3,000 基以上も建設されてきたハイダム
(堤高 15m 以上のダム)において初めての
撤去がなされたダムである.
ダム建設が生態系や生物多様性にもたら
す影響に関しては様々な議論がなされてき
たが,ダム撤去がもたらす影響や効果に関し
ては,議論や検討する余地すらなかった.
一方,日本国内には,ダム建設から 50-60
年が経過し,老朽化が危惧されるダムも多数
存在する.2011 年の東日本大震災においては,
地震によるダム損壊も発生し,人的被害(死
傷者)も出るなど,今後の老朽化ダム管理の
面においても様々な課題が浮き彫りとなっ
てきた.
このような背景から,本研究では,日本初
のダム撤去事業がもたらす生態系・生物多様
性への影響評価や,これらの事業を積極的に
利用する戦略的な自然再創生,生物多様性再
創生に着目した研究課題を設定した.
一般的に,このような公共事業を対象とし
た研究設計の場合,全ての調査計画を自ら設
計して研究するようなこととは異なり,一事
例的な展開になることが多い.しかし,今回
の荒瀬ダムの撤去事業に関しては,偶然では
あるものの,コントロールの設定が可能であ
る等の好条件も揃っている.荒瀬ダムとほぼ
同時期に建設され,ダムの規模やダム湖(湛
水域)や形状もほぼ同等で,ダムの建設地も
荒瀬ダムの上流約 20km の距離であることか
ら,流程による環境要因の相違も小さいと考
えられる瀬戸石ダムが存在している.すなわ
ち,ダムが撤去される荒瀬ダムの比較対照と
して瀬戸石ダムを想定することが可能であ
る.

施以前に,研究代表者の研究室では,ダム撤
去前の 2012-2013 年において,荒瀬ダムの上
-下流を含めた球磨川水系内の約 70 調査定点
を設け,流水生の水生昆虫を採取していた.
本研究では,これらのサンプルを用いて,本
研究の目的へのアプローチに最も相応しい
と考えられる対象種群の絞り込みを実施し
た.この結果,流域広域的に生息しており,
各調査定点における採取個体数も多く,遺伝
子解析もなされているヒゲナガカワトビケ
ラ Stenopsyche marmorata(昆虫綱・トビ
ケラ目, ヒゲナガカワトビケラ科)を対象と
することとした.本種に関しては,既に遺伝
子解析に関するいくつかの研究事例があり,
マイクロサテライト・マーカーも既に開発さ
れている.加えて,ダムの上-下流域間での遺
伝的分化を指摘する研究も存在している.ま
た,研究代表者の研究室でも遺伝子解析の対
象としてきたことから,本研究の展開におい
ても好適な対象であると捉えた.
ヒゲナガカワトビケラを対象に,約 70 調
査地点から各地点 20 個体を目安にした全ゲ
ノム DNA の抽出と,DNA バーコーディング
領域にもなるミトコンドリア DNA COI 領域
(658-bp)の配列を解析した.併せて,球磨
川水系のヒゲナガカワトビケラの位置づけ
を明確化するため,日本全国のヒゲナガカワ
トビケラや国外の地域集団や近縁種群(同属
の別種も含めた)との遺伝的な比較を実施し
た.
次に,球磨川水系内の遺伝的構造をより詳
細に把握するため,マイクロサテライト解析
を実施した.
これらの一連の解析によって得られた遺
伝情報を基に,系統解析や集団遺伝構造解析
を実施した.

2.研究の目的
上記のような背景から,本研究では,河川
の「瀬」ハビタットに特異的に生息する流水
生の水生生物に着目した.止水域では生息す
ることができないことから,ダム湖が存在し
た約 60 年間,ダムの上流側と下流側,ダム
湖へ流入していた球磨川の各支流は,流水ネ
ットワークが分断され続けたことになる.今
回のダム撤去により,流水ネットワークが再
創生されることが,球磨川生態系においてど
のような効果をもたらすかを検討する上で,
極めて重要な課題となると考えた.
すなわち,日本初のダム撤去事業が,約 60
年という長い年月に渡り分断してきた流水
ネットワークを再創生する可能性を期待し,
ダム撤去事業の前後での流水生の水生生物
の遺伝子流動のスケールや方向性に関する
変遷を把握するべく,ダム撤去の前段階の基
礎的知見の蓄積を目的とした.

4.研究成果
先ず,ヒゲナガカワトビケラの系統学的な
位置づけや,球磨川水系のヒゲナガカワトビ
ケラの種内系統群における位置づけを評価
した.ヒゲナガカワトビケラ類は,形態分類
とその分布域の地理的マッピングにより,ゴ
ンドワナ大陸(南半球)起源と考えられてき
たが,本研究も本説を支持する結果となった.
加えて,インド亜大陸の北進に伴いアジア地
域への分散を果たし,東アジア地域を種分化
しながら北進してきた系統進化史やその最
も末端種に相当するのがヒゲナガカワトビ
ケラであることを明確に究明した.本成果は,
米 誌 Freshwater Biology に 受 理 さ れ た
(Saito et al., 2018).加えて,ヒゲナガ
カワトビケラに関しては,高標高帯にのみ生
息する隠蔽種が存在することも究明した
(Saito et al., 2018).また,ヒゲナガカ
ワトビケラ種内には,8 つの遺伝系統群が検
出され,日本列島からはこれらのうちの 6 系
統群が検出されていることが明らかとなっ
た(斎藤・東城, 2016).そして,本研究で
注目する球磨川には,これらの 8 系統群の中

3.研究の方法
荒瀬ダムの撤去事業は 2013 年から 2018
年の 5 年間をかけて実施された.本研究の実

でも最も派生的系統群であるクレード 8 のみ
が検出されることも究明された.
球磨川水系内の約 70 地点を対象とした DNA
バーコーディング領域の解析からは,水系内
からかなり多くの遺伝子型が検出され,水系
内における遺伝構造解析(多型解析)におけ
る有効性が確認された.
一方,種内多型の検出において期待された
マイクロサテライト解析においては,既存の
マーカーでは十分な検出力がないことが確
認された.従来の種内多型解析で効果を示し
てきた背景には,8 つの遺伝系統群のうちの
複数系統群を跨ぐような遺伝構造をもつ地
域に限定して効果的であったものと推測さ
れた.このような結果を受け,球磨川水系か
ら検出されているクレード 8 の遺伝系統群に
おいて有効であり,かつ他の遺伝系統群にお
いても多型解析が可能となるような解析対
象遺伝子座位の絞り込みを実施し,新規のマ
イクロサテライト・マーカーを開発した.有
効性の検証までは済んでいないものの,既存
のマーカー以上の有効性が期待される.
以上のように,荒瀬ダム撤去事業前のヒゲ
ナガカワトビケラの遺伝構造解析に関する
基礎的知見や撤去後の遺伝構造との比較検
討を十分に実施し得るだけの成果を上げる
ことができた.今後は,2018 年に撤去事業が
終了し,流水ネットワークの再創生がなされ
た後,そこから一定の年数の経過とともにど
のように遺伝構造が変遷していくのか?
をモニタリングする上での基礎的知見を蓄
積することができたと考えている.
このような大規模公共事業における
「Before-After」比較においては,
「Before」
部分のデータが十分には得られていないが
ために十分な議論へと展開できないことが
多い.このような観点においては,本研究で
はダム撤去前における水系内網羅的な基礎
的知見,とくに標本や全ゲノム DNA を蓄積す
ることができたことの意義は大きいと考え
ている.
5.主な発表論文等
(研究代表者、研究分担者及び連携研究者に
は下線)
〔雑誌論文〕
(計 7 件)
1. Saito Rie, Kato Shinya, Kuranishi B Ryoichi,
Nozaki Takao, Fujino Takeshi and Tojo Koji
(2018) Phylogeographic analyses of the
Stenopsyche
caddisflies
(Trichoptera:
Stenopsychidae) of the Asian Region. Freshwater
Science 37: (in press) 査読あり
2. Tojo Koji, Sekine Kazuki, Takenaka
Masaki, Isaka Yuichi, Komaki Shohei,
Suzuki Tomoya and Schoville D Sean
(2017) Species diversity of insects in
Japan: Their origins and diversification
processes. Entomological Science, 20:

357-381. 査読あり
https://doi.org/10.1111/ens.12261
3. Doi Hideyuki, Katano Izumi, Sakata
Yusuke, Souma Rio, Kosuge Toshihiro,
Nagano Mariko, Ikeda Kousuke, Yano Koki
and Tojo Koji (2017) Detection of an
endangered aquatic heteropteran using
environmental DNA in a wetland
ecosystem. Royal Society Open Science in
press. Royal Society Open Science,
4:170568. 査読あり
DOI: 10.1098/rsos.170568
http://rsos.royalsocietypublishing.org/conte
nt/4/7/170568
4. Oike Akira, Watanabe Koichiro, Min
Mi-Sook, Tojo Koji, Kumagai Masahide,
Kimoto Yuya, Yamashiro Tadashi, Matsuo
Takanori, Kodama Maho, Nakamura
Yoriko,
Notsu
Masaru,
Tochimoto
Takeyoshi, Fujita Hiroyuki, Ota Maki, Ito
Etsuro,
Yasumatsu
Sshigeki
and
Nakamura Masahisa (2017) Origin of sex
chromosomes in six groups of Rana rugosa
frogs inferred from a sex-linked DNA
marker. Journal of Experimental Zoology
Ser. A: Ecol. Integr. Physiol., 2017: 1-10. 査
読あり
https://doi.org/10.1002/jez.2130
5. Sekiya Tomohiro, Ichiyanagi Hidetaka
and Tojo Koji (2017) Establishing of genetic
analyses methods of feces from the water
shrew, Chimarrogale platycephalus
(Erinaceidae, Eulipotyphala). JSM Biology,
2: 1010. 査読あり
https://www.jscimedcentral.com/Biology/bi
ology-2-1010.pdf
6. Saito Rie, Jo JaeIck, Sekine Kazuki, Bae
JeonYeon and Tojo Koji (2016) Phylogenetic
analyses of the isonychiid mayflies
(Ephemeroptera: Isonychiidae) of the East
Palaearctic region. Entomological Research,
46: 246-259. 査読あり
https://doi.org/10.1111/1748-5967.12168
7. 斎藤梨絵・東城幸治(2016)
「ハビタット・
ジェネラリスト種」ヒゲナガカワトビケラに
おける隠れた遺伝的多様性 -分子系統地理と
ハビタット特性-. 昆虫と自然., 51: 20-23. ...

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