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大学・研究所にある論文を検索できる 「アリ類の集団的な採餌行動と遅効性薬剤ベイトへの応答との関係」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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アリ類の集団的な採餌行動と遅効性薬剤ベイトへの応答との関係

瀬古 祐吾 近畿大学

2022.08.22

概要

【導入】
世界中で報告される外来生物のなかでも,アリ類は侵入地に及ぼす影響が最も大きいグループのひとつだとされている.それゆえ,非生息域における侵略的なアリ類の根絶は,早急に解決すべき課題である.アリ類の根絶にはコロニーメンバーの大部分を殺虫することが不可欠であるものの,アリ類のコロニーは土中や構造物の隙間など,人の手の届きにくいような場所に存在するため,その防除は困難を極める.他方で,近年,アリ類の集団的な採餌行動を逆手に取った薬剤ベイトが注目され,アリ類の防除手法として広く施用されている.我が国においても,環境省により薬剤ベイト(有効成分:フィプロニル)の使用を主としたアルゼンチンアリLinepithema humile Mayrの防除指針が策定されている.それに準拠した防除活動が実施された結果,一部地域では根絶に成功した.しかし同時に,薬剤ベイトが処理された区画において,本種の個体群密度の減少に相反して在来アリ類が増加する(もしくは減少しない)という現象が報告された.個体レベルでは,薬剤ベイトはアリ類に対し,一様に負の効果をもたらすことを考慮すると,この現象のメカニズムは説明が困難である.さらに,アリ類が真社会性昆虫であることを踏まえると,アリ類の集団的な採餌能力および薬剤曝露による採餌行動の阻害は,コロニーの存続/崩壊を決定する重要な要素である可能性が高い.そこで本研究では,集団的な採餌能力や薬剤曝露にともなう行動阻害と,アリ類コロニーへの薬剤曝露・応答との関係を明らかにすることでアリ類の応答に違いをもたらすメカニズムの解明を試みた.

【材料および方法】
既往研究における,「アルゼンチンアリが最も薬剤ベイトの影響を受けた」という事象の一般性を検証するため,兵庫県神戸市の摩耶埠頭およびポートアイランドにて,既往研究と同様のアルゼンチンアリ防除活動を実施した.また,当該地域に生息する本種および周辺に生息するその他アリ類(クロヒメアリMonomorium chinense SantschiおよびトビイロシワアリTetramorium tsushimae Emery)の食性ニッチを推定する目的で,それらアリ類の炭素・窒素安定同位体比(δ13C・δ15N)を測定した.さらに,アリ類の集団的な採餌能力を室内試験にて評価した.最後に,薬剤ベイトの曝露により生じると思われる,ノックダウン効果の評価を行い,これらを対象のアリ種間で比較した.

【結果および考察】
薬剤ベイトの施用に対し,アルゼンチンアリのみが顕著に個体数を減少させた一方,クロヒメアリやトビイロシワアリに代表されるその他のアリ類はほとんど薬剤ベイトの影響を受けなかった.このことから,コロニーレベルにおいて,アリ類は薬剤ベイトに対し異なる応答を示すことが判明した.一方で,δ13C・δ15Nの測定結果から,各アリ種の生息圏(ハビタット)内における採餌行動の規模が種間であまり変わらないことが推測された.これは,アルゼンチンアリの防除現場において,アリ類は一様にベイトを採餌しうることを意味する.加えて,アルゼンチンアリはトビイロシワアリやクロヒメアリに比べ採餌能力が高く,餌を発見後60分でコロニーメンバーのほぼすべてが餌を獲得するほどであった.最後に,フィプロニルに曝露したアリ類のノックダウンに係る時間を推定したところ,対象としたすべての種は曝露後40分程度からノックダウンし始め,コロニーの半数が曝露後60分程度でノックダウンすることが判明した.これらのことから,本種は薬剤(フィプロニル)に曝露してからノックダウンに至るまでの間に,より多くの個体が採餌行動を行うことで,他のアリ類に比べて薬剤ベイトの効果が大きくなる(コロニーが崩壊しやすくなる)ことが示唆された.一方で,クロヒメアリやトビイロシワアリといった防除の非対象となる種は,薬剤ベイトの曝露影響がコロニー全体に波及する以前に,ノックダウン効果による採餌行動の阻害を受け,結果としてコロニーの崩壊を避ける可能性が高いことが考えられた.これらの結果から,アリ類の集団レベルにおける採餌行動,およびそれにともなうノックダウンの発生は,薬剤ベイトの応答に影響しうる要素であることが結論付けられた.さらに本稿では上記の結果を踏まえ,よりアルゼンチンアリに特異的かつ環境配慮型の防除手法を開発するため1)薬剤ベイト散布箇所の限定が重要であること,および2)ノックダウン時間の調整に向けた今後の展望,について提言した.

これら生態学(行動学)・生態毒性学の統合による分野横断的なアプローチをアルゼンチンアリの防除指針に組み込むことで,より効果的かつ環境に配慮した,本種をはじめとする他の侵略的アリ類の防除につながることが期待される.

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