続・コロナの時代の語学教育-東工大スペイン語のオンライン合同授業の記録-
概要
はじめに
東工大における第二外国語としてのスペイン語科目は、2020年度から、つまりコロナ禍と同時にはじまった。本稿は、2021 年度の第4 クオーター開始前後( 12 月はじめ) に執筆された、2020 年度から2021 年度におけるオンライン授業の記録である。なお、スペイン語科目の立ち上げから2020 年度の第3 クオーターまでの記録については、昨年度の報告 (渡辺2021a)をぜひご参照いただきたい。題名からもわかるように、本稿はその続編として書かれたものである。
周知の通り一今後その事実が忘れ去られるときがくるかもしれないが、本稿執筆時点においては新型コロナウィルスの流行に伴い、多くの大学で2020年度からオンライン授業が導入された。その後、様々な形での対面授業への移行の動きも見られたが、2021年度にも多くの大学で、少なくとも一部の科目ではオンライン授業が継続されている。
本稿は2021年度の東工大における、オンライン授業の内容や形式を中心とする授業運営の記録である(東工大以外にも、筆者が非常勤講師として教えている慶應義塾大学での授業のようすにも、一部言及した)。本稿執筆の主たる動機は、以下の2つである。まず第一に、今後対面授業が復活していくとしても、オンライン授業という形式で授業を行ったという事実はなくならない。その経験を今後の大学教育の改善に生かしていくためにも、この2年間の授業を振り返り、総括しておくことは、重要ではないかと考えたためである。
もう一つの理由は、2年目の授業を行ううちに私たちの授業にもさまざまな変化• 進化があり、昨年度書いた授業記録( 渡辺2021 a) に付け加えることがたくさんあったからである。授業用のパワーポイントなど、昨年の記録を参考にしながらも、私自身も少しずっ工夫をした結果、そしてそれ以上に、一緒に授業を担当してくださっている先生方が、新しい知見を獲得し、それを披露して下さったおかげで、授業が少しずつ変化•進化しているという感覚が、授業をしているときからあったが、本稿執筆にあたり、久しぶりに「コロナの時代の語学教育」前編を見直す中で、その感覚がやはり正しかったことを再認識するに至った。本稿では後ほど、その具体例として、第3 クオーターに扱った再帰動詞と gustar型動詞構文をとりあげ、2020年と2021年の説明の内容の変化について述べる。
大学のオンライン授業については、たとえば熊本大学教授システム学研究センター( 2021 ) による「オンライン教育の新たなモデルの構築に向けた提言(2021.3)」のような立派なガイドもすでに出ており、たとえば、オンラインでの授業の経験を今後の授業の進化のために生かしていくべきだ、という本報告の提言も、すでに彼らによってなされている。ただ、もし本報告に教育「論」としてのオリジナリティがあるとすれば、それは、具体的な授業の内容を紹介することで、実際にこんなzやり方が生まれたのだ、ということを示し、オンラインで教えることの具体的な改善点を示していることであろう。結論でも再度触れるように、こうした授業の実践のあり方がもっと書かれることで、大学での授業は、学生にとっても教員にとっても、楽しく面白く、そして学びの多い場になっていくのではないか。
本稿の構成は以下の通りである。第1節では、「コロナの時代の語学教育」の内容を簡単にまとめ、2020年度の東工大を中心とする筆者のオンライン教育の経験を振り返る。第2節では2021年度の東工大のスペイン語合同授業の新しい展開について、初級の授業を中心に報告する。第3節では、「この経験をどう今後に活かすか」と題し、対面授業復活後の授業のあり方について考察する。そして最後の第4節では、それ以外の授業、具体的には東工大で新しく始まったネイティブ教員による会話主体の授業ならびに他大学でのオンライン授業の経験にも言及しながら、本稿の内容をまとめる。
なお、授業報告としての内容は以上であるが、付録として、東工大の 『外国語だより』に書いた「ネット上の動画で学ぶスペイン語」(2022年発行第6 号掲載予定: 2021 年8 月に原稿提出済み、2022 年1 月に一部加筆修正)に追加の映像とその解説を加筆した、スペイン語動画ガイドをっけておく。『外国語だより』は現状ではオンライン化されておらず、基本的には東工大の関係者の目にしか触れることがないため、本稿にも付録としてそれを掲載することで、こうした動画のセレクションがより多くの学習者や教員の目に触れることを期待するためである。