Simple estimation method of fatigue strength due to wave induced hull girder bending including the effect of vibration response on a large container ship
概要
船舶は就航後から長期間にわたって運用される.IMO/GBSでは疲労強度に関する要件として設計寿命を25年としている.設計段階において,その25年に亘る就航期間で船体構造の健全性が維持されるように配慮する必要がある.船舶は航行中に出会う波浪により繰返し荷重を受ける.その繰り返し荷重が船体構造に作用することにより,最終強度や降伏応力より大幅に小さい応力で破壊することがある.この現象を材料の疲労(Fatigue)と呼ぶ.構造物や機械部品の損傷原因の約8割は疲労が関係しているといわれ[1],疲労強度は船舶設計時における重要な検討項目のひとつである.
ところで,輸送量の増大,船舶からの温室効果ガス削減規制(GHG規制)の世界動向により,船舶の取り巻く環境が大きく変化しつつある.GHGを抑制するための手段として(1)エネルギー効率の向上,(2)運航的手法がある[2][3].構造分野に関わる具体的な手法として,前者では船舶の大型化・船体重量低減技術が挙げられている.後者では減速運航,ウェザールーティングによる最適運航や船隊全体の運航管理が挙げられている.この状況下,特にコンテナ船は大型化がますます顕著となっている.コンテナ船はばら積み船やタンカーなどの他の一般商船と比較して,大きな船首フレア形状を有する構造となっており,船首フレアスラミング等による衝撃荷重によりホイッピングやスプリンギング(本論では弾性振動応答と呼ぶ)が生じやすくなる.また,船体が大型化すると船体2節振動モードの固有振動周期が長くなり,出会い波周期と近づくため弾性振動応答が起こりやすくなる.さらにハッチ部の大開口により横断面のせん断中心が船底より下にあり,左右力によって捩じりモーメントが発生し,斜波中での捩りモーメントが相対的に大きくなる.特に2013年に発生した大型コンテナ船の折損事故を契機として,国土交通省や関係機関による事故原因調査が実施され,安全対策に対する提言がなされた[4].事故の主要因として,弾性振動応答を誘起するスラミングなどの衝撃荷重の影響,船底局部荷重が最終強度に及ぼす影響,およびこれら荷重および強度の不確実性の影響が挙げられている.この報告書では最終強度に関わる検討が進められ,疲労強度に関する検討は十分に進められていない.この事案により,船体構造の健全性を確保することは保守面での経済性や健全性が損なわれたときの社会的責任の重さの観点から非常に重要であることが再認識され,現在でもこの弾性振動応答の発生応力が疲労寿命や最終強度へ与える影響について盛んに研究が行われている.
軽量化の観点からみると,TMCP高張力鋼の実用化とFEMを用いた直接強度計算の導入により,ハイテン率の高い船舶が建造されている.船体軽量化に伴い船体構造部材の高応力化が生じることとなり,疲労強度の低下が懸念される.また,弾性振動応答により疲労強度がさらに低下すると考えられるが,その影響度合いを明らかにする必要がある.
構造設計者の観点からは,船舶の高性能化と高品質化による他社との差別化,軽量化と生産性向上によるコストダウンが至上課題となる.現在の事業環境における課題として,売れ筋船種が短周期で変化することによる受注機会の逸失,円高是正したものの国内外相手に対する競争激化がある.そのような中,受注競争を勝ち抜くためには,売れ筋船種のタイムリーな市場投入とコストダウンが必要である.それらを達成するには今までの知識や経験を基にしたやり方だけでは難しい.今までの知識や経験をベースにしつつも他社に先んじた新しいやり方を生み出せるか否かが重要な要素になる.品質確保を最大限追求できる方法として有効な解決策が数値シミュレーション技術を活用することであると著者は考える.
以上の背景のもと,本論文では,大型コンテナ船を対象とし,大型化による弾性振動応答が疲労強度に与える影響に関する課題を取り上げ,その解決のために実施した研究について述べる.以下に疲労強度に関する研究沿革について述べ,本研究の目的を明らかにする.