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書き出し

Enhancing the stability of DNA origami nanostructures by enzymatic and chemical ligation methods

KRISHNA MURTHY, KIRAN KUMAR 京都大学 DOI:10.14989/doctor.k24854

2023.07.24

概要

研究説明資料
論文題目
Enhancing the stability of DNA origami nanostructures by enzymatic and chemical
ligation methods

酵素および化学ライゲーション反応による DNA オリガミナノ構造体の安定化
に関する研究

京都大学大学院エネルギー科学研究科
エネルギー基礎科学専攻
Kiran Kumar Krishna Murthy
研究背景
生物は、何百万年もの間、光合成や代謝など様々な生体エネルギープロセス
を通じて、エネルギーを効率的に利用してきた。持続可能で効率的なエネルギ
ーシステムを構築する上で、生物のエネルギー利用法を学び模倣することは、
必要不可欠である。DNA オリガミナノ構造体は、バイオエネルギー研究の分野
において、新たな機能性材料として期待されている。DNA オリガミナノ構造体
は、直径 100 nm 程度の複雑なナノ構造を自在に設計できる汎用性と、特定の分
子をあらかじめ設計した空間に配置できる制御性を合わせ持つため、機能性材
料を合目的に設計するうえで理想的な足場である。ナノメートルの精度で複雑
な構造を設計でき、機能性分子を配置することができるため、DNA オリガミナ
ノ構造体を活用すると、エネルギーを伝達する、情報を変換する、様々な外部
刺激に応答するなどの機能性材料を構築できる。これらの機能性材料によって、
自然界の効率的な生体エネルギープロセスを模倣し、人工的に設計したエネル
ギー利用システムを構築ができると期待される。これまでに、DNA オリガミナ
ノ構造体を分子スイッチボードとして利用して、複数種類の酵素を配置した多
段階反応場を構築し、より生体に近い環境下で、分子レベルでの代謝反応の研
究が、ナノテクノロジー、構造生物学、生物物理学を駆使して行われてきた。
それのみならず、生体内への薬剤などの送達や、生体内重要物質の検出システ
1

ムを構築する際の足場など、DNA オリガミナノ構造体の応用範囲は多岐にわた
っている。このように幅広い応用可能性を持つ一方で、DNA オリガミナノ構造
体には、構造安定性が低いという問題が存在する。温度や pH、高塩濃度などの
環境下、さらに変性剤などの存在下での構造の不安定化や、ヌクレアーゼやそ
れを含む細胞内環境における分解により、DNA オリガミナノ構造が維持できな
いことが知られており、DNA オリガミナノ構造体の幅広い応用展開を目指す上
で支障をきたしている。
DNA オリガミナノ構造体の不安定性の主な要因の一つは、DNA オリガミナ
ノ構造体を形成するうえで利用する短い鎖長の DNA(ステープル鎖)の不連続
性、即ち、リン酸主鎖の切れ目(ニック)の存在である。この問題を解決する
ためには、DNA オリガミナノ構造体のニック部分をつなぎ(ライゲーション)、
リン酸ジエステル結合を形成して、構造体を安定化することが考えられるが、
これまでに DNA ナノ構造体にライゲーション反応を施した研究報告例はほとん
どなく、ライゲーション反応を実施する上での最適条件等に関する情報が不足
している。また、いくつか報告例のある DNA のライゲーション法では、ニック
部位に煩雑な化学合成過程を伴う非天然の核酸塩基や、官能基の導入を要する
ため、幅広い応用への適用が困難であった。

研究の目的
DNA オリガミナノ構造体の安定性はその応用展開にとって非常に重要な解決
すべき問題でありながら、その熱的および機械的な安定性を高めるための研究
例は乏しいのが現状であった。ライゲーション反応の一つである酵素ライゲー
ション反応(酵素法)は、分子生物学実験では、日常的に行われている手法で
ある一方で、DNA オリガミナノ構造体では、ほとんど報告例がない。これは、
酵素反応の主役であるリガーゼの結晶構造を考慮すると、リガーゼはニックの
入った DNA を完全に取り囲むことでライゲーションをおこなう必要がある。一
方で、DNA オリガミナノ構造体では、複数の二本鎖が密に詰まった状態になっ
ているため、単純な二本鎖 DNA を対象とした酵素法と比べて、ライゲーション
反応が起こりにくいことが予想される。さらに、3 次元に折りたたまれた DNA
2

オリガミナノ構造体では、構造がより複雑さを増すため、反応点であるのニッ
クへのリガーゼの接近が立体障害により妨害されると考えられる。実際に、こ
れまで酵素法を DNA オリガミ構造体に適用した報告は数例しかなく、それらの
報告でも、詳細な反応効率は示されていない。そのため、酵素反応条件の最適
化および、その収率、反応時間等を詳細に評価する必要がある。また、別法と
して知られる化学ライゲーション法は、反応に小分子試薬を用いるため、反応
点であるニックへの試薬の接近が阻害されにくい。通常の2本鎖 DNA では反応
速度も速く反応収率も高いため、DNA オリガミ構造体において酵素法よりも高
効率にライゲーション反応が進行すると期待できる。一方で、これまでに報告
された化学法では、ステープル鎖の 3’末端または 5’末端を、それぞれあらかじ
め化学修飾しておく必要があるため煩雑な操作を伴うだけでなく、導入される
主鎖骨格が、天然のリン酸ジエステル結合ではない。
本研究では、酵素 T4 DNA リガーゼによるニックのライゲーション反応に影
響を与える重要な要因を理解し、DNA オリガミナノ構造体を酵素法によって効
率的にライゲーションするための最適化条件と、改良手法を確立することを目
指した。さらに、酵素法による DNA オリガミナノ構造体のライゲーションに
おける限界を克服するために、天然のリン酸主鎖骨格を維持したニックの化学
的ライゲーション反応法を確立することを目的とした。2 次元(2D)および 3
次元(3D)構造を持つ DNA オリガミナノ構造体のニック部分を、天然のリン
酸主鎖骨格としてライゲーションできる 3 つの方法について詳細に検討し、そ
れらの特性を明らかにするとともに、DNA オリガミナノ構造体を機能性材料と
して応用展開するうえでの基礎的な知見を明らかにした。DNA オリガミナノ構
造体の効率的なライゲーションが達成されることで、DNA オリガミナノ構造体
の安定性が飛躍的に向上し、機能性材料として様々な応用展開を目指す際に、
高安定な足場を提供できるようになる。

論文の内容
第 1 章では、 DNA ナノテクノロジーの紹介と、本論文に関連する DNA オリガ
ミナノ構造体の現在に至るまでの展開について議論した。特に、DNA オリガミ
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ナノ構造体の様々な因子に対する安定性の問題と、それから生じる応用展開へ
の制限と課題について述べ、これまでに報告されている DNA オリガミナノ構造
体の安定性化戦略の紹介とその制約について議論した。また、その解決策の一
つとして考えられている DNA のライゲーションに関する既存の研究について
も系統的にまとめ、それぞれの特徴について議論した。最後に、上述の点を踏
まえ本研究の目的と意義を論じた。

第 2 章では、T4 DNA リガーゼによる DNA オリガミナノ構造体のステープル鎖
間のニック部分のライゲーション反応について、詳細な特性評価をおこなった。
デザイン、サイズ、ステープル鎖の長さが異なる 4 種類の 2D DNA オリガミナ
ノ構造体に様々な条件でライゲーションを施した際のライゲーション効率の比
較により、2D DNA オリガミナノ構造体のライゲーションにおける最適条件の
確立に成功した。また、ステープル鎖のライゲーションによって引き起こされ
る DNA オリガミナノ構造体の構造変化について詳細に議論し、リガーゼ反応の
機構的な側面から DNA オリガミナノ構造体の構造的特徴に関する新しい知見を
得た。

第 3 章では、特徴的なトポロジーの DNA 構造について簡単に紹介し、DNA ト
ポロジーの生理的な役割や DNA-タンパク質相互作用を理解するためのプロー
ブとしての DNA オリガミナノ構造体の役割を概説した。トポロジー的に連結さ
れたミニサークル、ロタキサン、およびカテナン構造を有する DNA オリガミナ
ノ構造体のを設計し、それらが実際に DNA オリガミ上に構築されたことを確認
した。また、単独のミニサークルおよび DNA オリガミ上でのニックの酵素法に
よるライゲーション反応結果を、アガロースゲル電気泳動分析、および原子間
力顕微鏡イメージングによって評価した。

第 4 章では、共溶媒としてジメチルスルホキシド(DMSO)を加えた酵素ライ
ゲーション反応を開発した。T4 DNA リガーゼによる DNA オリガミナノ構造体
のニックライゲーション反応への様々な有機溶媒の影響を検討した結果、
DMSO を共溶媒として使用した際に、2D DNA オリガミナノ構造体が高収率で
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ライゲーションされることを明らかにした。さらに、様々な反応因子を評価す
ることによって、反応条件を最適化し、核酸や酵素の安定性とコンフォメーシ
ョン変化に対する有機溶媒の影響について考察した。その結果、DMSO を添加
することで、DNA オリガミナノ構造体のニック部分への酵素の接近を促進し、
ニックをほぼ定量的に連結できることを明らかにした。

第 5 章では、臭化シアン(CNBr)による DNA オリガミナノ構造体の化学ライ
ゲーション法(CNBr 法)について、詳細に検討した。2D DNA オリガミナノ構
造体のニックを効率的にライゲーションするために、バッファーの種類と濃度、
pH、CNBr 濃度、反応時間などの反応の進行に重要な要素を詳細に検討し、最
適の反応条件を確立した。さらに、機能性分子を修飾したステープル鎖共存下
での CNBr 法によるライゲーションを評価するために、蛍光色素修飾ステープ
ル鎖の CNBr 法条件での安定性を評価したところ、色素によっては反応条件下
で分解することがわかった。また、DNA オリガミ構造体に対して CNBr 法を適
用した場合に生じる DNA オリガミ構造体の多量化について検討し、CNBr 法を
利用する場合の適用制限について詳細に検証し、議論した。

第 6 章では、第 2 章、4 章、および 5 章で確立した 3 種類のライゲーション法を
3D DNA オリガミナノ構造体に対して適用し、そのライゲーション効率を比較
評価した。4 種類の 3DDNA オリガミナノ構造体を調整し、各ライゲーション法
ごとに最適化された条件で反応させ、3D DNA オリガミナノ構造体の安定性の
向上を評価した。結果として、酵素法は、共溶媒の有無に関わらず、ライゲー
ションがほとんど進行せず、3D DNA オリガミナノ構造体の安定化には適用で
きないことが示された。その一方で、CNBr 法では 3D DNA オリガミナノ構造体
の 3 次元構造の違いに関わらず、効率的にライゲーション反応が進行した。

第 7 章では、本論文で確立した 3 種類のライゲーション法を適用した 2D または
3DDNA オリガミナノ構造体について、ヌクレアーゼに対する安定性、および
細胞破砕液共存下での安定性を評価した。ライゲーションしていない、もしく
は共溶媒を用いない通常の酵素法で処理した 2D DNA オリガミナノ構造体は、
5

ヌクレアーゼによる反応や細胞破砕液で処理することによって容易に分解され
るのに対し、DMSO 共存下での酵素法および CNBr による化学法でライゲーシ
ョンした 2D DNA オリガミナノ構造体のそれらの条件での安定性は、有意に向
上した。一方、3D DNA オリガミナノ構造体では、DMSO 共存下でライゲーシ
ョンした場合でも安定性の向上は確認されず、CNBr による化学ライゲーショ
ンにおいてのみ、有意な安定性の向上が確認された。これらの結果を踏まえた
上で、3 つのライゲーション法の適用条件について総括した。

第 8 章では、第 2 章から第 7 章を総括し、詳細に考察した。DNA オリガミナノ
構造体の比較的剛直かつ2本鎖 DNA が密集した構造のため、通常の酵素法で
は、2本鎖 DNA が密集した反応点に酵素が接近することが必要となる。DMSO
共存下での酵素法は、ライゲーションの反応速度を高め、酵素量を減らすこと
ができ、通常の酵素法と比べて格段にライゲーション効率を高めることが明ら
かになった。この方法は、2D DNA オリガミナノ構造体に対して効果的であっ
たが、3D DNA オリガミナノ構造体に対しては、その立体的複雑さから、反応
点に酵素が接近することが 2D 構造体よりも困難になるため、わずかな安定性
の向上に留まった。一方、CNBr 法は、非常に短い反応時間でほぼ定量的にラ
イゲーションが進行する。しかも、2D DNA オリガミナノ構造体のみならず、
3D DNA オリガミナノ構造体も有意に安定化できることが明らかとなった。
これらのライゲーション法は、DNA ナノ構造体の高温下、およびヌクレアーゼ
や細胞破砕液による処理などの環境下でも、有意に DNA オリガミナノ構造体の
安定性の向上を達成できることを明らかにした。本論文の研究成果は、安定化
した DNA オリガミナノ構造体を様々な目的で応用展開するうえで、画期的な技
術を提供するものである。

研究の意義
本研究では、DNA オリガミナノ構造体の構造的安定性を向上させる方法とし
て、ニック部分のライゲーション反応を詳細に検討した。3 種類のライゲーシ
ョン法について、それぞれの反応条件を反応収率を指標として最適化するとと
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もに、反応の特徴を詳細に検証し、比較することで、DNA オリガミナノ構造体
の特性に適したライゲーション反応を選択するうえでの知見を得た。2D DNA
オリガミナノ構造体に対しては、DMSO 共存下での酵素法および CNBr 法のい
ずれを用いても、ほぼ定量的にライゲーションが進行する。一方、3D DNA オ
リガミナノ構造体に関しては、例え DMSO が共存しても、酵素法では安定性の
向上はほとんど見られなかった。一方で、CNBr 法では、3D DNA オリガミナノ
構造体においても効率的にライゲーション反応が進行した。しかしながら、
CNBr 法では、試薬の高い反応性が要因で、一部の機能性分子は安定に存在で
きないという適用制限があることが明らかになった。これらのことを通じて、
本研究では、ライゲーションして安定化した DNA オリガミナノ構造体の用途に
併せて選択できる 3 種類のライゲーション法を開発し、その選択のための重要
な知見を得ることに成功した。

将来の展望
生体でのエネルギーの利用過程の一つである代謝経路を詳細に理解するために、
DNA オリガミナノ構造体を足場として利用する研究例に代表されるように、
DNAオリガミナノ構造体の様々な応用例が報告されている。その他にも、DNA
オリガミは細胞内への物質送達の足場としても注目されており、生体内での応
用についても検討されているが、DNA オリガミナノ構造体の様々な環境下での
安定性については、これまでほとんど改良されてこなかった。本研究では、
DNA オリガミナノ構造体の安定化を目指し、DNA オリガミナノ構造体に適用
できるライゲーション法を詳細に検討し、異なる特徴を有する 3 種類のライゲ
ーション法を開発した。目的に応じて最適な方法を適用することで、高度に安
定化した DNA オリガミナノ構造体が作製できるため、今後、様々な DNA オリ
ガミナノ構造体の応用研究が展開していくと期待できる。本研究成果は、持続
可能で効率的なエネルギー利用法を開拓する上で、DNA オリガミナノ構造体を
活用した新しいエネルギー利用システムを開発するための重要な要素技術とな
る。 ...

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