巨大ウイルスが保持する深海適応遺伝子の探索
概要
令和 4年度
京都大学化学研究所 スーパーコンピュータシステム 利用報告書
巨大ウイルスが保持する深海適応遺伝子の探索
Search of deep-sea adaptation genes of giant viruses
京都大学 薬学部 薬科学科 統合ゲノミクス
長坂孔明
研究成果概要
本研究では、京都大学化学研究所スーパーコンピュータシステムを利用し、深海特異的巨
大ウイルスの同定と、当該ウイルスが他の海洋巨大ウイルスと比べて多く保持する遺伝子の同
定を行った。
巨大ウイルスは真核生物に感染する二本鎖 DNA ウイルスであり、他のウイルスに比べ大きな
粒子径とゲノムサイズを持つ。巨大ウイルスは全球海洋に分布し、主に原生生物を宿主とする
系統群が優占することが知られる。また、系統群によって地理的な分布特性や保有遺伝子の
種類が異なり、宿主生物や環境に応じた適応戦略を有することが示唆されている。海洋深層
は表層と比較して光エネルギーや有機物が制限要因となり、巨大ウイルスの宿主となる真核
生物の現存量が少ない。したがって、深海に特異的に存在する巨大ウイルスは適応に関する
遺伝子を持っていると考えられる。本研究では、深海に特有な巨大ウイルスおよびその遺伝子
を調査することで、深海への適応戦略の可能性を模索することを目的とする。巨大ウイルスの
MAG と遺伝子カタログの頻度データを用いて解析を行った。その結果、深海に特異的な 46
種の巨大ウイルス、およびそれら巨大ウイルスにおいて保有率が有意に高かった補助代謝関
連遺伝子を 43 個同定することができた。そのうち、特に興味深いものとして自己のタンパク質
を分解して栄養源として再利用する機構であるオートファジーを促進する遺伝子、ウイルス感
染の標的となり得るシアル酸を合成する遺伝子が見つかった。 ...