Impact of Isolated Cerebral Perfusion Technique for Aortic Arch Aneurysm Repair in Elderly Patients
概要
1.序論
胸部大動脈手術において重度の動脈硬化性病変を有する大動脈は、周術期脳合併症のリスクが高い。現在, 日本成人心臓血管外科データベースからの発表にて, 待機的弓部大動脈瘤手術における術後脳梗塞発症率は, 脳保護法として選択的順行性脳灌流法を用いた場合は7%, 逆行性脳灌流法を用いた場合は8.5%であり, 依然として高い発症率であることが示された(Okita et al, 2015).弓部大動脈全置換術は弓部大動脈瘤に対する標準治療であるが, 合併症, 特に脳合併症を減らし, いかに手術成績を向上させるかが依然大きな課題といえる.
我々は、弓部大動脈手術の際の脳合併症予防のために、isolated cerebral perfusion (ICP法)という新しい選択的順行性脳灌流法を考案した。本研究ではICP法の有用性を検証した。
2.方法
2010年1月から2016年6月の間に、横浜市立大学附属市民総合医療センターで弓部大動脈瘤破裂の救急症例を含む、弓部大動脈全置換術を施行された症例のうち、脳合併症リスクが高い75歳以上の48症例(平均年齢80±3歳、緊急症例9例を含む)を対象とした。ICP法の手順は以下の通りとした。まず、ダクロン9㎜人工血管を全身送血路のために両側腋窩動脈に吻合する。次に、左総頸動脈を人工心肺からの送血を開始する直前に遮断する。左総頸動脈を半周切開し、圧測定付きバルーンチップカニューレを左総頸動脈へ挿入する。両側腋窩動脈から全身への送血と同時に左総頸動脈への選択的脳灌流を開始する。最後に、深部温25°Cで、循環停止とし、腕頭動脈および左鎖骨下動脈の遮断を行い脳分離体外循環へと移行する。脳分離体外循環中は血液温25℃、脳灌流総流量10ml/㎏/min、最低血圧40㎜Hgとした。
3.結果
造影CT検査47例を有し、内37.8%がShaggy Aorta(重度粥状動脈硬化性病変を有する大動脈)であった。緊急症例を含む全症例の30日間死亡率は2.1%、待機手術症例では0%であった。術後脳神経障害を3例(6.3%)に認めたが、待機手術症例では1例(2.6%)であった。1年生存率/3年生存率は、全症例で85.3%/69.5%、待機手術症例で87.0%/70.4%であった。
4.結論
ICP法を用いた弓部大動脈全置換術は、重度の動脈硬化性大動脈を有する高齢患者に対して術後脳梗塞を減少させる可能性高い手術方法である思われる。