Lateral Thoracic Vessel as a Recipient Vessel in Immediate Breast Reconstruction after Nipple/Skin-Sparing Mastectomy: Clinical Experience of 270 Perforator Flaps
概要
1. 序論
遊離穿通枝皮弁による自家組織乳房再建において,移植床血管の選択は,手術成功の可否や整容性の高い再建乳房を形成するうえで非常に重要である.内胸動静脈や胸背動静脈は,乳房再建における移植症血管として広く使用され,その有用性や臨床成績は長い間に渡り対比されてきた(Feng, 1997) (Dupin et al., 1996) (Moran et al., 2003) (Samargandi et al., 2017).胸背動静脈を移植床血管として選択する利点は,外側切開のみで乳癌手術から乳房再建をすることを可能にし,内胸動静脈のように血管を露出するために胸部正中に目立つ瘢痕を作ることなく,整容性に優れた再建ができる点である.しかし乳癌手術において,腋窩郭清に代わり,センチネルリンパ節生検が多く施行されるようになり,腋窩郭清後は露出された状態となっていた胸背動静脈は,血管吻合のために改めて露出するには侵襲的であり,時間のかかる手技と考えられ,好んで使用されにくくなってきた(Temple et al., 2005) (Saint-Cyr et al., 2007) (O'Neill et al., 2016).また,胸背動静脈は深層に位置しているため,短い血管柄の皮弁で乳房再建を行うと,外側が膨隆し,内側が陥凹する(Feng, 1997),そして口径が細い皮弁の場合,口径差が生じるという欠点もあった.そこで私たちは,胸背動静脈の欠点を克服することができる新たな選択肢として,外側胸動静脈に着目した.本研究は,自家組織乳房再建における移植床血管としての外側胸動静脈と胸背動静脈を比較検討することで,外側胸動静脈の有用性と適応を明らかにすることを目的としている.
2. 方法
私たちは,2005 年 10 月から 2018 年 11 月までに,外側切開による乳頭乳輪温存/皮膚温存皮下乳腺全切除術後の一次再建を施行した 263 症例(270 皮弁)を本研究の対象とした.全てのデータは,当施設の倫理委員会の承認を得て,後ろ向きにカルテより取得した(承認番号 D1602010).臀部穿通枝皮弁や大腿部穿通枝皮弁,腰部穿通枝皮弁などの,短い血管柄(長さ 5cm 以下)で,動脈口径が小さい(口径 1.5mm 以下)特徴をもつ皮弁を,「短小口径皮弁」と本稿では称することとするが,短小口径皮弁で再建する場合は,外側胸動静脈を第一選択とし,腹部穿通枝皮弁で再建する場合は,ドナーと移植床の血管の口径差がない場合のみ外側胸動静脈を選択することとし,どちらを選択するかの最終判断は術中に術者が行うものとした.外側胸動脈を移植床血管として使用した「外側胸動脈群」,胸背動脈(本幹,広背筋枝,前鋸筋枝)を移植床血管として使用した「胸背動脈群」の2群に分け,患者の背景,手術詳細,皮弁関連合併症,修正術の有無について2群間で比較検討を行った.
3. 結果
外側胸動脈群は 76 症例 78 皮弁であり,胸背動脈群は 187 症例 192 皮弁であった.外側胸動脈は,大腿部穿通枝皮弁 59 皮弁のうち 29 皮弁(49%)で,上臀部穿通枝皮弁 38 皮弁のうち 25 皮弁(66%)で,下臀部穿通枝皮弁 33 皮弁のうち 10 皮弁(30%)に選択した.短小口径皮弁は 131 皮弁であったが,そのうち 65 皮弁(50%)で外側胸動脈が選択されていた.外側胸動静脈の外径(中央値 1.2 mm /中央値 1.5 mm)は,胸背動静脈の外径(中央値 1.65 mm /中央値 2.0 mm)と比較して,優位に細かった(p 値< 0.0001/ p 値= 0.0007).外側胸動脈群では,94%で外側胸静脈を 1 本目の静脈として吻合し,49%で 2 本目の静脈として吻合した.ドナー血管との血管吻合における口径調律の必要性(吻合する際にギャザーテクニック,または静脈移植を要したか)や,術中血管再吻合において,両群間に有意差は認めなかった.また再手術,皮弁全/部分壊死,脂肪壊死,動脈血栓,静脈血栓,血腫,乳房皮膚壊死,乳頭乳輪壊死などの皮弁に関連した合併症について,両群間で有意差を認めなかった.再建乳房の外側が膨隆しているために修正術を要した皮弁数については,胸背動脈群と比較して,外側胸動脈群で優位に少なかった(p 値= 0.0068).
4. 考察
遊離皮弁による乳房再建の移植床血管における外側胸動静脈の利点は,浅層に位置しているため,剥離して露出させるのが容易で,侵襲が少なく,短い血管柄の皮弁であっても,乳房外側が膨隆せず,乳房内側が陥凹することなく,整容性の高い乳房再建ができる点である.更に,動脈および静脈口径が小さい特徴を持つので,小さい血管口径をもつ皮弁の移植床血管に適している.その他の利点としては,胸背動静脈の広背筋枝を温存することができるため,皮弁全壊死という合併症が起きた際に,広背筋皮弁で再再建をする選択肢を残すことができる点である.一方,外側胸動静脈の欠点としては,乳腺外科医に,外側胸動静脈を温存してもらう必要があり,腋窩郭清の際は結紮されてしまう可能性があること,二次再建の場合は,乳癌手術時の手術瘢痕により,外側胸動静脈が使用できない可能性があることが挙げられる.
外側胸動静脈は,胸背動静脈の遊離皮弁による乳房再建における移植床血管としての欠点を補うことができ,伝統的な内胸動静脈や胸背動静脈に加えて,乳房再建の移植床血管の新たな選択肢となると考える.