On the configuration of the singular fibers of jet schemes of rational double points
概要
次数mの無限小曲線から代数多様体Xへの射をm次ジェットと呼び、m次ジェットの全体にスキーム構造が定まる。これをXのm次ジェットスキームといいXmとかく。ジェットスキームやアークスキームは1968年のプレプリント(1995年に出版された)でJohnF.Nashにより導入された。
0次のジェットスキームは元の空間と自然に同型であるので、XとX0を同一視する。またm≥m′について,m次近似をm′次近似にする射πm,m′:Xm→Xm′がある。これを切り詰め射という。これらは射影系を成し、その射影極限をアークスキームと呼んでX∞と書く。ジェットスキームやアークスキームでの切り詰め射による特異点上のファイバーを特異ファイバーといいX0m,X0∞と書く。この特異ファイバーは特異点の性質をよく反映していることが期待される。例えば、アークスキーム上の特異ファイバーについてNash問題とよばれる次のような重要な問題がある;「「Nash成分」と呼ばれる特異ファイバーの既約成分と「本質的因子」とよばれる特異点解消に現れる因子は一対一に対応するか。」最近曲面の場合にこの問題が肯定的に解決された。一般の場合には石井志保子氏らにより一対一に対応しない例なども与えられたが、トーリック多様体の場合には一対一対応することなどが示されている。
一方でジェットスキーム上の特異ファイバーの既約成分と特異点解消の例外因子との対応に関する研究はMourtada氏やPlénat氏らにより最近になって行われ始めた。ジェットスキーム上の特異ファイバーの既約成分と例外曲線の間には曲面の場合でも単純な対応関係は存在しない。実際、特異ファイバーの既約成分の個数と最小特異点解消の例外曲線の個数は異なる。しかし、曲面で有理2重点の場合には十分大きな次数のジェットスキーム上の特異ファイバーの既約成分は最小特異点解消の例外曲線と一対一に対応することがMourtada氏([1,2])により示されている。
そこで本論文ではより詳しく、特異ファイバーの既約成分はどのような位置関係にあるか、という問題を考えた。これまで異なる次数の特異ファイバーの既約成分をあつめ、切り詰め射を用いてそれらの関係を調べる研究は行われてきたが、ジェットの次数を固定して特異ファイバーの既約成分同士の関係を調べることはほとんどされてこなかった。この問題に関して、An型およびD4型の場合に特異ファイバーの既約成分の共通集合を調べることで、特異ファイバーの既約成分の位置関係に関する情報を得ることができた。さらに、特異ファイバーの既約成分の位置関係の情報からグラフを構成し、このグラフが最小特異点解消の特異点解消グラフと同型であることを示した。具体的には、特異ファイバーの既約成分の共通集合の間の包含関係を調べることで、グラフにおいて隣接すべき既約成分を決定しグラフを構成した。