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大学・研究所にある論文を検索できる 「内/外関係にみる現代台湾漢人農村の社会関係 : 非近郊平場農村の事例から」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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内/外関係にみる現代台湾漢人農村の社会関係 : 非近郊平場農村の事例から

前野, 清太朗 東京大学 DOI:10.15083/0002002301

2021.10.13

概要

(背景)
 現在、「北」側諸国の村落は所得・インフラといった基本的生存ニーズの供給が達成されている一方で社会構造の脱農化・村落からの人口流出の問題に直面している(Rigg 2001; Woods 2011)。これまで長らく「北」の村落として議論の対象となってきたのが欧米諸国と日本であった。1990年代以降に経済成長の安定期に達した台湾・韓国など旧アジアNIESでは現在先進工業国の村落問題の「後追い」が生じている。本論文では現代台湾の漢人農村を事例としてとりあげその社会関係の変容と特徴を明らかにする。

(分析の視点)
 社会関係についてとくに村落の〈内〉〈外〉をまたぎ展開してきた3つのつながり―「家」・神・行政を介したつながり―へ着目した。前二者のつながり(「家」と神々を介した関係性)は台湾漢人社会を対象とする研究者たちが集落を統合する基盤とみなしてきた(謝2005)。同時に、これらのつながりは経済成長に伴う都市化のなかで他出者が村落〈外〉から維持しつづけてきたつながりでもあった。第三の行政を介した関係性について本論では村落の側からの行政補助の受容、とくに1990年代以降行政各官庁が新たな補助プログラムを設けた「社区」関連政策(曾2007)へ着目する。本論の調査は2012年から2017年にかけて計11か月間の断続的な調査村滞在によって行われた。親族・神々・行政の各項目につきキーインフォーマントへの半構造化/非構造化インタビューを行うとともに各々の関連活動に対する参与観察を実施した。神々・行政に関しては関連団体の助成金申請・会計報告資料および植民地期史料を用いた文献分析を行った。

(結果)
 水利・農業に関する各種の業務が戦後台湾社会において「外部化」されるなかで、3種のつながりが遂げた変容は以下の通りであった。
 1)「家」を介したつながりにおいては、かつて伝統的「屋敷地」に共住し、しばしば非父系的な関係性を包含しながら存在してきた「家」が現代式家屋への住み替えに伴い小さく父系的な「家」への再編を遂げたことを明らかにした。
 2)神々を介したつながりにおいては、植民地期以前のD村各集落は親族・任意集団単位でなされた神々への祭祀が戦後に廟を中心として集落化したことを明らかにした。1990年代以降それまで個々の住民が担っていた日常的な儀礼は集落と結びついた廟が受け皿となることでによって「集落的」に担われるようになった。
 3)行政を介した関係性においては、行政からの政策的補助金を受けて活動してきたD農村文化営造協会(以下、協会)を中心に村落側からの「補助」に対する需要を分析した。従来台湾の行政村(村里)は脆弱な自治能力を補うために村落〈外〉への陳情システムを発展させてきた、協会を立ち上げた住民有志らは協会を従来の村里に代わる新たなパイプととらえ、水路・管理放棄地の処理といった村落〈内〉のローカルな生活問題の解決に取り組んでおり、純粋な外部者として活動に参加した(元)学生グループとの間に認識の差違がみられた。住民有志・(元)学生グループは双方とも〈個人的関係〉を活用した団体運営を行っていたが、一部に「動員」による〈個人的関係〉を超えたつながりへの萌芽がみられた。

(考察・結論)
 現代台湾村落が直面しているナショナルなレベルでの人々の都市-村落移動の増加と、かつての「村落」においてすら農業が社会活動上の中心的な役割を低下させる状況においても村落に対するローカルな意味づけは村出身者(在村住民と他出者)によりなお存続している。他出者たちは事実上の交流人口として在村住民とともに領域ごとの活動へ参加しており、それぞれの領域でのローカルな意味の文脈を共有している。一方、地域自治会・土地改良区など地域的な組織が現在も活動する日本とは異なり、台湾村落においてはこれら広範な社会的役割を担う地域的な組織が存在していない。第四章でみたようなコミュニティ支援政策のもとで組織された任意団体は個人的な人間関係を通して村外の外部者から広く協力をとりつけるのには適しているが、在村住民や在村住民につながる他出者から広い協力を得るには適していない。そもそも現代台湾村落に地域的な組織が出現しえないわけではない。祭祀における集落化の事例(第三章)、集落内水路浄化のための署名活動(第四章)にあってみられたように、村出身者(在村住民と他出者)がつくってきたローカルな「場所」の意味づけを軸に村落を包含するような「動員」への萌芽的動きも本研究では確認できた。ここからはローカルな意味づけを活用して地域的な組織形成を外からサポートしうるようなメカニズムの検討が必要であることが示唆された。